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デジタルアセットから、eナレッジへ

Bill Davison (PointBalance, Principal)

PAGE2000基調講演 「ネット上のグラフィックサービス」より その3

eKnowledge

自社のシステムに統合されている情報,あるいはコンテンツがデジタルアセットである.知らない情報も含まれているかも知れないし,コンテンツの多くは,顧客に属しているものかもしれない.顧客がそのコンテンツを管理するためにお金を払うかも知れない.アメリカ,ヨーロッパでも,このデジタルコンテンツの管理のために顧客は多額の投資をしている.それによりマーケットに積極的に参画しようと頑張っているわけだ.顧客からできるだけ多くのデジタル情報を吸収して,それをいろいろな顧客に価値ある情報として展開するのが一般的な動向だ.

いらなくなったもの,古くなったものは削り,アップデートして,そのデジタルのアセットをメンテナンスすることが非常に大きな仕事になる.デジタルアセット,あるいは知的所有権は自社で保護する必要がある.その中に含まれる価値を確保する必要があるのだ.

自社で持っているプロセスに競争力を持たせるためには開発に相当多くのコストを注ぐかもしれない.それによって,品質,コストダウンをはかることができたとする.このプロセスとは具体的にどういうもので,そのプロセスを再度利用するために,特別な専門家がいなくてもプロセスを複製したり,展開することを考えなければならない.非常に有能な作業者を抱えているなら,その作業の内容をどうやって把握するかを考え,有能な作業者がいなくても,そのスキルを活用する道を用意する.

これはデジタルアセットが価値のあるナレッジに変身することである.情報は単にデータのレベルにとどまっていたのでは不十分で,何かコンテンツのある情報でなければならない.その情報によって皆さんがビジネスのゴールへ到達できるような情報,すなわちナレッジが求められる.

eKnowledgeの4つの要素

データは素材として必要になるだけで,そのデジタルデータを日常使うに適した形に仕上げて,付加価値のあるナレッジに昇華させる必要がある.まずデータをもって情報を構築して,その価値ある情報をビジネスに展開してビジネスの目標を達成する(eKnowledgeの4つの構成要素の第1であるメディア).この考え方をeKnowledgeと呼んでいる.

すなわちデジタルアセットを基にナレッジに展開するわけだが,このナレッジであればいろいろな用途に適応することがでる.例えばビジネスtoビジネスに使う方法がある.他の企業と一緒に仕事をするにはどうしたらよいか,取引をするためにはどうしたらよいかということを考えると,この側面がよくわかる.構成要素の第2はBtoBである.

第3の重要な構成要素は,コンテンツである.どういうコンテンツを作るか,あるいはそのコンテンツをどのようにフォローしてディストリビュートするかなど,このコンテンツの使い方をうまくすることが重要である.例えば,ある顧客がキャンペーンの広告で,TV,雑誌,CD-ROM,あるいはWebで展開したいときに,共用するにはどういう材料があればよいか.この場合に知的な財産が非常に重要になってくる.

第4の構成要素はプロジェクトのマネジメントだ.統合型のコミュニケーションプログラムを作るにはどうしたらよいかと顧客が相談にきたとする.複雑なプログラムをどう管理するかがそこで話題になるだろう.サプライヤーが1社では不十分になり,多くの場合,単に情報発信するだけではなくて,個別のマーケティングにまで落として対応する必要が出てくる.これがプロジェクト管理の内容だ.これは一種の方法論だが,この方法論を自社で開発する必要がある.

繰り返すと,ハード的な資産からデジタル,あるいは知的なアセットに推移する.その後に考える必要があるのは,重要な情報を入手して,それをビジネスのゴールを達成するために活用するにはどうしたらよいか,付加価値をどのように付け加えるかというのが,このeKnoowledgeのコンテンツだ.

こういう言い方は非常に理想主義的な純理論的と思うかも知れないが,徐々に業界で起こりつつある変化だ.アメリカでは,いわゆるクライシスマネジメントの得意な企業が多数ある.3年後,5年後を目指して計画を立てるのが得意な人が多い.長期的なゴールがはっきりしている限り,問題を順次解決して経験を積んでいくやり方で今後も十分だろう.

eKnowledgeの活用

このeKnowledgeを活用するためにはどういったシステムが必要になるだろうか.デジタルアセットを管理する立場で考えていくと,デジタルアセットの管理,コンテンツ,あるいはドキュメントの管理がバラバラであってはならない.

第1に,情報の入れ物がドキュメントといえるだろう.印刷された文章もあるだろうし,HPのドキュメントもある.TVのショウかもしれない.ドキュメントの形態は以前よりはるかに多様化している.このドキュメントを管理するということは,その情報の容器を管理するわけだが,いつその情報がそこに保管されて,どのように配布されたかということを管理する.すなわち印刷物管理ではなく,今日ではもっと広い範囲でドキュメントの管理,情報容器の管理を考える必要がある.

第2のポイントはデジタルアセットである.デジタルアセットの管理は,文書の管理に似ている.具体的な文書の管理をする代わりにデジタルアセットの場合は,それぞれのページの構成要素である,レイアウト,テキスト,グラフィック,などの具体的な要素を相手にする.すなわちデジタルアセットには,こういった素材が含まれているわけで,それをうまく組み合わせて活用することによって,マルチメディア対応をしていく.将来的には,要素レベルでの管理をより強く要求されて,ページベースでのドキュメント管理の需要は落ちていくと思われる.

第3は,コンテンツの管理である,これは情報の管理,例えばWebサーバの情報の管理を指している.固定されたHPの情報を管理するだけではなくて,変化しつつある材料も合わせて管理するというのがコンテンツ管理である.例えば,毎日コンピュータがエレメントを判断して,あるいはいつその情報を更新したらよいかを判断して自動的にアップデートするコンテンツ管理がある.これはいわば情報をどういった切り口で捉えてエレメントに落とすかという問題で,いずれも非常に重要な項目だ.

第4は,ナレッジの管理である.会社にはアセットがある.通常は知的所有権の形,あるいは人材という経営資源だ.人々の頭の中にある経験,スキルが,どうしてそういうことができるのか,それをどのように活かせばいいのかということを把握することが管理だ.例えば,そのような経験のある職人がいなくなっても,その人のスキルを残してもらうためにはどうしたらよいかを把握する.

アメリカでは,職場を転々とする人が多く,会社を変わるごとに給料が良くなり,また,元の会社に戻ると以前より給料が高いという破壊的な構造がまん延している.そのような人のスキルや知識を形にして残して展開することを考える必要がある.人から人に基本から教えるのではなく,データベースにアクセスすることによって必要なナレッジを得ることを,非常に単純な形で実現するのがナレッジ管理である.

従来型の経済では,印刷機に200万ドルの投資をして5年経つとその価値は半分になってしまう.つまり減価償却が起こり,資産は価値を失っていく.しかし,情報に関しては新しい経済学が生まれつつある.すなわち,使えば使うほどその価値が増えるという今までとは全く反対の動きだ.

コミュニケーションのプログラムが統合され,様々なメディアにまたがって業務が続いていく,あるいはいろいろな国への情報の分散が起こっている.P&Gは日本にもアメリカにも支社があり,それぞれの文化にふさわしいパッケージの商品が出される.

まず最初のプロジェクトに対して,コンテンツ開発の初期投資を行い,しばらく経って損益分岐まで達し,そして利益を上げるようになってくる.これを保存して,適切に管理して,そして次回もう一度使う場合,最初に作ったブランドロゴやデザインなどへの投資はかなり削減できる.

2回目の収益はかなり高くなり,3〜4回目になるともっと大きな利益が上がってくるだろう.デジタル資産の力は,何度も使うにつれてますます増加する.ここで生まれる経済学は,今までの資産,資本管理とはまったく違う前向きのものである.

その4 「eProductionへのパラダイム転換」 に続く

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PAGE2000

2000/09/14 00:00:00


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