SEYBOLD SF 2000 報告5
ECに関するセッションは、DAM(デジタルアセット管理)と同等に、SeyboldSF2000の3つの会議(WEB、BestPractice、PublishingStrategy)のどこでも取り上げられ、且つSpecialInterestDayも設けられていた。またDAMと同じくこのテーマもDTPの制作の人は傍観的態度で、ヘビィに印刷な管理職が多く参加しているために、セッションの雰囲気は地味ながら結構真剣であった。SpecialInterestDayではPAGE2000に来てくれた Bill Davison と Marion Mathison というおばさんがモデレータを勤めた。Marionさんはとてもまじめで中庸で賢そうないい人だったので、この人を知ったこと自体が収穫でもあった。
最初に Bill Davison がオリエンテーションをしたが、それだけでも説明すると1日かかりそうなほどの話題であった。日本では印刷とIT、eビジネス、ECの関係がよく認知されていないかもしれない。ITはインフラ技術であり、また対応する人的資源の問題である。これは企業活動の全般に及び、会計、資源管理、生産、販売、マーケティングなどの全体的なモデルをコンピュータ/ネットワークで表現したのがeビジネスである。そのうちサプライチェーンマネジメントなど取引の流れのところがEC(電子商取引)にあたる。
印刷でもサプライチェーンに関してはネットワーク化が想像しやすいが、印刷にeビジネスモデルは描けるのだろうか? 今のアメリカの印刷業界でもそのようなことはまだ話題にはなっていない。その意味ではこのオリエンテーションは時期尚早の感もないではないが、目の前のECよりも先を考えている人にとっては重要な話しだった。続いて現状の総括をMarionが行い、この半年でどれほどの変化があったかを説明し、楽観論だったECが、多くの努力を長期的に必要とし、大変革をもたらすものであることと、ECサイトの価値や印刷側のコアコンピタンスが問題になることを述べた。
午後はEC御三家である、Noosh、Impresse、Collabria、それぞれのサプライチェーンを形成する、発注者、制作側、印刷側と、ECサイト自身がチームとなって、どのような使われ方をしてどんな効果があるかを説明するケーススタディのセッションがあった。こういう話しを聞くと、本当にECが使われ始めているのが実感できる。まだ主なユーザは金融関連や印刷のアウトソーシングに熱心な一部の大企業分野のようにもみえるが、従来の外注やアウトソーシングと違って、印刷物制作に関わる人々が同時にアクセスして協同作業しているモデルは、発注者からも高く評価されている。つまりネットワークを使っての異なる会社間での現場同士のコミュニケーションの向上は今後あらゆる作業に及ぶように思われる。
最後に印刷会社のECモデルについて、小企業から巨大企業まで4つのクラスの印刷会社が自社の説明をした。大手ではQuebecorWorldが話したが、結局雑誌出版などの顧客が多い大手は、顧客との関係が長期的に固定していて、オープンなECにはあまり縁がない。むしろ顧客との1:1のサービスをネットワークを介して充実していく方向である。準大手のQuad/Graphicは、自社が全米に13ほどのサイトに分散しているので、それを一つのネットワーク、一つのMSI(この言葉が生きていたとは!)にしつつ、同時に顧客サービス向上にもっていくという。MSIが何で出てきたのかと思うが、ビジネスの構造化をするつもりであるという。
シリコンバレーで企業向け印刷をしている会社は、ECを自分で構築するか、外部のサービスを使うか考えた末に Printable.com を使った。ECサイトは自力ですぐにECを始められない印刷会社に対してのサポートサービスでもある。顧客はEC化で自分が行うべき管理業務が減って喜んでいるという。もう一つの小さい印刷会社は自分でWEBサイトをたてて、自社専用のECを作っている。自分の顧客の問題にあわせて、PhotoshopやIllusutratorの使い方、というページも作った。客が自由に使えるストックフォト(写真素材)なども用意している。日本での典型的ECと似ているモデルである。同じ印刷をしているといっても、それぞれのビジネスモデルは異なっているので、ECも異なるのが当然である。
しかし、印刷業界の問題は、アメリカでも大企業は年7.3%で伸びているのに、印刷業の23%は赤字を出すように2極化してきている。資材の価格は5%上昇したが、印刷の売価は1.4%しか上がらなかったという。明らかに下位の印刷会社にとっては状況はキツい方向に進み、業者数は減る。だから自社で全部をするのではなく、ECで会社統合による強化をしないと生き残れないということ最後の方で語られた。
これらのモデルは、短期的にはみな営業コストの削減やサイクルタイムの短縮などを掲げていて、大きな違いはないが、長期的にはネットワークでどこまでやろうとしているのかとか、どのような企業になろうとしているのかという問題になり、非常に戦略的なものである。この戦略の一つとして、インターネットがもたらす良いものを自社にとっても良いものにしようという人もいた。しかしこういうビジネスの話しになると、DTPの人はあまり関心をもたないし、Seyboldでは十分に話し尽くせないようにも思えてきた。
関連記事
SEYBOLD SF 2000 報告1 DTPの次に向かう4つの方向
SEYBOLD SF 2000 報告2 大きく動き始めたeBooks
SEYBOLD SF 2000 報告3 データ管理は誰の仕事か? DAMを巡る攻防
SEYBOLD SF 2000 報告4 DTPワークフローはECに包含される
SEYBOLD SF 2000 報告5 印刷業界の2極化をすすめるECの力
SEYBOLD SF 2000 報告6 Seybold参加者はDTPからどこに向かうのか
テキスト&グラフィックス研究会拡大ミーティング SEYBOLD SF 報告 9月19日 開催
2000/09/18 00:00:00