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DTPがやり残したことをECが解決する

印刷のECサービスをしている大所は、Collabria、Noosh、Impresse、PrintCafeなどであるが、それぞれ短期間に機能やコンセプトの発展があるので、能書きを見比べても次第にあまり提供するサービスやメリットは変わらないように見え始めた。しかしこれらのサービスのそれぞれ個別の成り立ちを聞いてみると、出身や支持母体およびフィロソフィーの差は大きいものである。

印刷の取引のEC化のはしりが見え始めたのは1995年頃だった。ちょうど Seybold SanFrancisco の視察団を計画していたので、当時の数少ないECの例としてシリコンバレーにあるA&a Printers & Lithographers という印刷会社を訪問することにした。社内に入るとまずサーバやHubのスタックがあり、ちょっと人を驚かす仕掛けになっていて、シリコンバレーの印刷会社は違うなと思ったものだった。そこの社長は Robert Hu といい、後にCollabriaの設立者となった。

今年になってCollabriaは三井物産と手を組み、日本でのサービス展開の準備を始めた。その関係で Robert Hu が来日し、9月20日にJAGATを訪問してくれたので、その時の話しを紹介したい。まずCollabriaの今日のアメリカでの評価は、SeyboldSF2000でのeコマースDayでも最も印刷業界をよく知っているECであるといわれていたが、当然である。
先の4大ECサービスをごく大雑把に分けると発注者の側の立場に近いのがNooshとImpresseで、印刷側から考え出したのがCollabriaとPrintCafeである。もっとも冒頭のように今ではいずれもどこかに偏ることなくサービスをするのではあるが、今までの経緯からすればこのようになる。

今日ではちょっとしたアイディアがきっかけで印刷のECサイトを始めるケースもみられるが、さまざまな印刷物を作ることは複雑な業務であり、それをソフトウェアでサポートし自動化するには大変多くの投資が必要になる。しかしそれができると非常に広範なサービスができ、しかも印刷売上の一桁の低い方くらいのパーセンテージの金が動くような巨大なビジネスになるだろう。
ECサイトも、ちょうどソフトウェアのベンダやポータルサイトのように次第に巨人同士のぶつかり合いになろうとしていて、最終的には幾つも残らないだろう。これは資本の差や工夫の積み重ねの差といったことは当然ながら、最も大きな差を産むのはフィロソフィーの違いであろう。というわけで現在Collabriaの副社長になった Robert Hu の考えを聞いてみた。

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件のA&a Printers はDTP・デジタル化の取組みも早く、1992年からネットワークによるサービスを始め、1990年代前半に完全デジタル化を終えたが、そのことには満足できなかったという。顧客からデジタル化したファイルが入稿されても8割は生産に適さないものであった。また先駆的な取組みをするところほど未熟な設備に高い金を払い苦労するが、後からDTP化したところは高性能で品質の良い設備を安く導入できる。では先行して苦労したことはなんだったのかと考え、差別化できる道を探し始めた。

DTPの初期にSeybold会議でも顧客のファイルの不十分さが散々取り上げられ、顧客にトレーニングすることが叫ばれたが、10年近く経った今でも相変わらず8割のファイルはそのままでは生産に適さない。当時はその改善のためにDTPベンダーに進言したりツールを希望したが、そのようなボランタリーな方法では何も変化しなかった。DTPは制作工程のある部分の内側の改善でしかなく、自分の工程の外側ともっと整合する必要があると考えるようになった。

一般にECのサービスとは発注と受注の間に立つものが主だが、印刷と言う仕事は日用品の購買のようなものではなく、打合せや校正のやり取りが重要な意味を持つ、コラボレーション的なものである。このやり取りは印刷側がボランティアのようにして面倒をみてきた。しかしこの受発注の関係は、一方が損して一方が得するようなものではなく、ともに益するようにワークフロー/プロセスを変えなければならない。両方が同じ問題解決に取り組むような関係作りを念頭にCollabriaを考えたという。

Collabriaは発注者側のドキュメント生成の最初の段階から印刷会社が関わることができるメカニズムを提供する。ECサービスで顧客のファイル完成後に印刷会社が関わり始めたのでは、生産不適合なものが印刷会社に入って損をかぶらなければならなくなるからである。
また、DTPのベンダは印刷物のコンテンツを扱う道具を提供するが、どのような印刷物をつくればよいのかというビジネスの文脈は扱わない。もう一つのCollabriaの狙いは印刷物制作の最初から最後までのコンテキストを提供することだという。
実は印刷物の売価の陰に、発注者が負っている発注準備や発注管理に目に見えない膨大な経費がかかっていて、これが受発注両側がネットで協同作業することで大幅にカットできることが、発注者のメリットであり、また印刷側も生産性が上がってメリットが出る。

印刷業者の役割は日用品の販売と思われがちであるが、特定の顧客のためだけに価値があることをしているのだということを、もっと戦略的に売りこまなければならないという。今までそうしなかったことは大きな機会損失であり、その意味でもECを一時的な取引の関係とするのではなく、よい関係を築くためのものにしたいというのが Robert Hu の信念のようだ。
これからの課題としては、印刷の受発注というのは小さな問題かもしれない。印刷は他のメディアとの競合/排他の関係に気を配らなければならない。むしろ紙と電子メディアをいろいろ組み合わせた統合マーケティングが目標であり、電子メディアも印刷会社がビジネス化できるものとして、そのような複雑なこともECのサービスで面倒みようとしている。

Collabriaもそうだが、印刷のECサービスの機能を印刷会社が使っても、印刷会社が自分の「顔」で顧客とやりとりできる方向にある。電話を使ったビジネスがあたりまえのように、やがてECサービスを使った印刷受発注も当たり前の日がくる。そうするとECサイトの価値のひとつは、印刷会社それぞれのユニークさや深さが発揮できるようなものになるだろう。Collabriaでは e-Service Bus と呼んでいるようだが、今ECとして提供できる機能に加えて、独自のプロセスや外部のサービスとリンクさせる機能を考えている。
一見すると物品の調達と区別がつかない印刷ECであるが、印刷会社が築いてきたカラーや、あるいは今積み重ねつつある努力を反映できるようにしようというのが、印刷出身の Robert Hu らしいやり方であると思える。

2000/09/23 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会