現在,産業界は,ITをベースとした大きな変革の波に直面しており,企業間におけるビジネスの枠組みは拡大・多様化している。このような状況のなかで,交換する情報のデータフォーマットとして注目を集めているのが,XML(Extensible Markup Language)である。
「平成12年通信に関する現状報告」(通信白書)によれば,1999年末における日本のインターネット利用者数は2706万人と推計され,2005年には7670万人に達すると予測されている。また,インターネットの普及率は,世帯では19.1%,従業員300人以上の企業では88.6%とされている。このような背景をもとに,「インターネットコマース」と,「インターネット関連ビジネス」の合計市場規模は,99年で21兆1756億円と推計され,2005年では141兆8000億円になると予測されている。
ビジネスの枠組みの変化とXML
従来のネットワークを利用したデータ交換,ドキュメント交換,電子商取引などは,企業におけるセキュリティなどの意味からも,同一企業内や登録者のみがアクセス可能な系列企業グループ間の枠組みであった。しかし,インターネットを利用したサプライチェーンマネジメントや電子商取引への取り組みは,同一企業や系列企業の枠組みを超え,不特定多数の企業とのビジネスに拡大しつつある。さらに,自動車業界や金融業界のように,国境を越えた企業提携や合併の急増,半導体や電子部品関連で世界的なサプライチェーンを目指す電子市場の設立などにより,国際的なビジネスの枠組みも出始めている。
これらの枠組みの変化によって,各企業が構築した情報システム間の連携が,いかにスムーズにできるかが重要な課題となり,個別対応を必要としないXMLが注目されている。
行政の情報化とSGML/XML
行政の情報化は,94年12月に閣議決定された「行政情報化推進基本計画」に基づく。その後,インターネットの急速な普及などを背景に基本計画が改訂され,98年度からは,紙による情報の管理からネットワークを駆使した電子化された情報の管理へと移行し,地方自治体などを含めて,21世紀初頭には高度に情報化された行政,すなわち「電子政府」の実現を目指すことになった。最近の報道によれば,2003年の電子政府実現に向けた関連法案が,次期通常国会に提出されようとしている。
総務庁の「行政情報化の推進状況報告」によれば,中央省庁では1人1台のパソコン,全26省庁内のLAN,省庁間を結ぶ霞が関WAN,電子認証機能付き省庁間電子文書交換システムなどの情報基盤が整備され,さらに,地方支分部局や地方自治体LANとの接続などの基盤整備が進められている。この基盤を利用し,インターネット・ホームページなどによる行政情報の電子的提供,省庁間の情報共有,申請・届出など手続きの電子化を推進している。
ここで交換・共有される文書には,SGMLを採用し,白書・報告書類,電子公文書,告示・通達などの文書型定義(DTD)を定め,電子公文書DTDに対応した文書作成ソフトへの更新,関連情報のデータベース化,DTDのXML対応などを推進している。過去の判例,官報なども,DTDに基づく文書作成作業が民間の協力で推進されている。
なぜXMLなのか
共有する文書情報や情報システム間で交換するデータとして,なぜXMLが注目されているのだろうか。XMLもインターネットを爆発的に普及させたHTMLも,文書情報や交換するデータの内容にタグを付けて区別するマーク付け言語である。
HTMLとWebブラウザは,テキスト形式のパソコン通信に比べて格段に優れた表現力で,インターネットを急速に普及させた。しかし,HTMLでは基本的に,文書の表示形式を指定する固定のタグしか使用できない。また,階層構造を示すこともできない。例えば,選挙結果の表は次のように記述されるが,233という数字が何を示すのかわからない。
<TABLE><TR>
<TD>自民</TD>
<TD>233</TD>
<TD>177</TD>
<TD>56</TD>
</TR></TABLE>
HTMLでは,タグが表示形式しか表せない上,ユーザの利用局面に合わせてタグをカスタマイズできない。それゆえ,HTMLは,企業間の電子商取引やデータ交換,情報共有で蓄積する電子文書,行政と民間との間で交換するデータなどにとって,交換情報に不可欠な「情報の意味」を記述するには機能不足である。
XMLは,このようなHTMLの欠点を解消し,インターネットによる情報の活用や交換をより一層活発にするために,W3C(World Wide Web Con sortium)が98年2月にHTMLとSGMLの利点を取り入れて仕様をまとめたものである。従って,XMLはSGMLのサブセットであり,ユーザが使用局面を考慮して,タグや階層構造を定義することができる。つまり,タグによって,文書情報やデータの内容がどのような意味をもつかを示すことができる。例えば,先に示した選挙結果の表は次のように記述できる。
<議席数表>
<党名>自民</党名>
<新議席数計>233</新議席数計>
<小選挙区>177</小選挙区>
<比例代表>56</比例代表>
</議席数表>
このようにタグによって,233は新議席数の合計であることを,プログラムでも,人が見ても理解することができる。また,タグによってデータの内容が明確になるため,データの順番が異なった表データでも交換可能である。
このXMLの利点を文書管理に利用すれば,自動組版や自動索引作成,異なるメディア体裁への自動変換,著者など特定項目による検索など,自動化や効率化が図れる。自動組版によって,200ページのマニュアルを15カ国語に翻訳して4日間で仕上げたり,電子部品データをSGML/XMLでデータベース化し,印刷物や他のメディアデータを生成している印刷会社もある。出版社のなかには,SGML/XMLデータベースを利用して,印刷物の編集とインターネット用情報編集とを同時進行で行っているところもある。
また,データ管理に利用すれば,業務プロセスの標準化や自動化,異機種情報システム間のデータ交換における中間フォーマット,データ形式変更への柔軟な対応など,業務の合理化・自動化に貢献する。
急拡大するXML利用
XMLでは,開始タグと終了タグの間にデータを挟むことを基本とした構文規則を決めているだけで,それをどのように使うかは規定していない。従って,その構文規則を使用して,どのようにコミュニケーションするかは自分たちで決めなければならない。また,その決めたことに基づいて処理するシステムも,自分たちで作らなければならない。
このため,XMLの利用局面に合わせて,同一業界や同一業務フローに関わる団体などで,標準的な業務プロセス,タグセット,記述基準などを決める活動が展開されている。
印刷関連業界のなかでも,アドビシステムズ社,アグフア・ゲバルト,ハイデルベルグ,マン・ローランドが共同で,JDF(Job Definition Format)の標準化提唱活動を行っている。このJDFは,プロセスの自動化,ワークフローの最適化,印刷部門と各種メディア出版部門とのデータ交換の標準化などを図ろうとするものである。つまり,異機種間データ交換の中間フォーマットとして,XMLを使用しようとするものである。
また,行政でも白書・電子公文書・告示・通達などのDTD制定以外に,医薬品添付文書DTD,建設CALS/ECの図面管理・業務管理・報告書管理・工事管理・打ち合わせ簿管理・施工計画書管理・その他資料管理などのファイルDTD,特許・実用新案の基本フォーマットのXML化などがある。
2000年7月には,このような活動で作成されたXMLフォーマットを紹介する「XMLフォーマットのイエローページ」,XMLのビジネス利用の検討・普及・啓蒙などを総合的に推進する非営利団体「XMLコンソーシアム」などがスタートした。
さらに,このような動きを受けて,企業間電子商取引用DTDの策定や,XMLで記述された交換データを各企業の情報システムに取り込むための構造変換などを行うビジネスも始まった。
XML関連仕様の整備
W3Cでは,XMLの仕様制定に続き,あらゆる分野とデータへのXML利用が検討され,各種の仕様が定められたり,仕様案が公開されている。
例えば,XMLドキュメントに対するデータ操作APIである「DOM(Document Object Model)」,1つのXMLドキュメントに複数の構造定義を適用させる「Namespaces in XML」,XMLドキュメントから他のXMLドキュメントへ変換するための「XSLT(XSL Transformations)」,文書の木構造を基本にしてドキュメントの一部を検索する「XPath(XML Path Language)」,数式を記述するための「MathML(Mathematical Markup Language)」などの仕様が,W3C勧告として定められた。
また,二次元ベクタや,ベクタとラスタ混在画像などを表現する「SVG(Scalable Vector Graphics)」,ドキュメント内やドキュメント間でのリンクを表現する「XLink(XML Linking Language)」,ドキュメント構造やデータ型などを定義するための「XML Schema」,XMLドキュメントのスタイルシートを記述する「XSL(eXtensible Stylesheet Language)」など,多くのワーキング・ドラフトが公開されている。
続々登場するXML関連ツール
マイクロソフトのビル・ゲイツ会長は,「Net World+Interop 2000」の基調講演で,「Webブラウザはもとより,OSやアプリケーション製品をすべてXML対応にする」ことを明らかにし,最近「NET構想」が発表された。これは,インターネットを現実のビジネスに使用する時に,複数の言語,データフォーマット,表現形式などの統合の役割をXMLに求めたものである。
また,同じショーでBest of Show総合グランプリに選ばれたのは,インテルの「NetStructure 7210 XML Accelerator」であった。この装置は,サーバに送るデータの優先順序を,XMLの属性によって決定する機能をもつ負荷分散機器である。
このようにXMLは,異なる情報システム間でのデータ交換や,異なるメディアへのデータ変換の自動化,業務フローの自動化など,コンピュータによる高度な情報処理に対応できることから,多くのメーカーが各種の関連ツールやアプリケーションソフトの開発に乗り出し,この1,2年で広範囲に非常に多くのものが提供されるようになった。
XMLデータが記述基準やDTDに合致しているかを検証するXMLパーサ,DTDやスキーマに基づくXMLデータ入力・編集ツール,XMLデータの読み込みから検証・データ操作・XMLデータ作成までのXML処理エンジン,各種データベースと任意のXMLデータとの双方向変換ツール,WebベースのXML対応電子フォーム作成ツール,企業間のビジネスルールなどをXMLスキーマ(DTDを含む)として設計するツール,XMLデータからの自動組版や校正済み組版結果のXMLデータ作成ツール,XMLデータを蓄積管理するサーバなどである。
月刊プリンターズサークル 2000年10月号より
2000/09/30 00:00:00