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iモードを利用したワンtoワンの販売促進支援

スユアe-パブリシング研究会代表 伊藤博

 総論賛成,各論反対の状態が長らく続いてきたワンtoワン マーケティングを,インターネット,テレマーケティングの世界から解き放ち,幅広い世代の多くの人々を対象にできる時代がやって来た。iモードを始めとするインターネット携帯電話の普及と,IT技術の進化がこれを実現可能な手法に変えたのである。

 ワンtoワン マーケティングの基礎であるワンtoワン コミュニケーションを,企業や店舗・営業パーソンや店員と,顧客の間で行おうとすると,まずワンtoワンが実現可能なコミュニケーションチャネルやメディアが,双方の間で利用できるものでなければならない。また,その費用対効果をみた時に当然,費用に見合う効果が期待できるものでなければならない。

 現実的には,従来のパソコンを端末とするインターネットや電話によるテレマーケティングでは,使えない人がいたり,捕そくできない時間が長すぎたり,システムやオペレーションコストがかかり過ぎるといった問題があった。オンデマンド印刷による紙媒体では,バリアブル印刷技術やクリエイティブ能力の不足があり,また,コストが高すぎたのである。結局,総論賛成のワンtoワンを実践できない要因が多すぎた。iモードを始めとするインターネット携帯電話は,その爆発的普及により,そうした「壁」をなくしてしまう可能性を秘めている。

 最近,コンビニエンスストア,GMSやスーパーマーケット,百貨店,専門店などが,顧客にインターネットやiモードなどのメールアドレスを登録してもらい,バーゲン情報や特売情報,割引クーポンなどを配信するサービスを始めている。その関連の記事を新聞や雑誌で目にする機会が多い。カード会員化のためのインセンティブとして,これを掲げているところもある。宅配の注文を受け付けるところも出てきている。これらは顧客の許可(パーミッション)を得て,Eメールによる情報発信をすることによって,顧客とのコミュニケーションを密にし,関係性(リレーションシップ)を向上させて,店への忠誠心(ロイヤルティ)をもたせ,囲い込もうとするマーケティング戦略である。

 最近,上場を果たしたE-コミュニティをベースにしたインターネット・マーケティングのベンチャー企業,ガーラの代表取締役会長(大学教授でもある)村本理恵子氏の言葉によれば,それはパートナーシップ・マーケティング戦略とも名付けられるものである。これは,インターネットとリアルな店舗や人的フォローによる顧客開発や販売促進によって,一般消費財やサービスの枠を超えたものである。この戦略によって,今や不動産販売や自動車販売といった高額商品の世界でも,売り上げがそれぞれ800〜900億円レベルに達し,なお急成長を続けているのである。

 しかしながら,そのEメールによるダイレクトメールの中味を見ると,その多くが会員全員に同じ情報を送るマス的な情報発信でしかないことがわかる。あて名だけの差し替えで,何のためのダイレクトメディアなのかと思わせるものがある。ある店はこれで毎週1回,いずれは週に2回程,情報を送ろうというのである。これでは顧客にとってゴミメールになり,彼らが送信中止のクリックをする日は近いだろう。

 現状では,無料の情報発信であっても,iモードのパケットデータ通信料は安価とはいえ,顧客負担であることも忘れてはならない。何より,必要と思われない情報メールを携帯電話に送り付けるのは,土足で他人の家に踏み込むのも同然で,良く思われるはずがない。これでは店や企業へのロイヤルティどころか,敵意すら抱かせかねない危険な行為となる。パソコンへのEメール以上に細心の注意が必要である。

ワンtoワンの本質を理解し,顧客ロイヤルティを高める

 では,どうしたら良いのだろうか。ワンtoワン マーケティングの手法を取り入れることが重要となる。ただし,手法とはいえ,単なる戦術レベルでは効果にも限界があるため,極めて戦略的にならざるを得ないことが,ワンtoワン マーケティングへの転換を難しくしている。敷居が低くなっても,「総論賛成」のワンtoワン マーケティングを実践することは,実際には難しいのである。意識や視点の面から,とにかく口だけではない「顧客志向の立場」に立つことが必要となる。

 大切なのは顧客との信頼関係を築くことであり,それにより「顧客の心の中にある自社ブランドのシェア」を向上させることである。iモードで日々,顧客とのコミュニケーションを行うことで,「以心伝心」の関係を築き,コンテクストを共有する「愛顧客」を育てることが,ワンtoワン マーケティングの目的である。売り上げや利益は後からついてくる。必然的に,顧客と店(企業)とのコミュニケーションは,フェイス・トゥ・フェイスに近い,顧客の立場や好みを反映させたものにしなければならない。顧客は自分のことを理解し,自分に合った商品やサービスを提供してくれる企業や店に,ロイヤルティをもってくれるのである。

(出典:月刊プリンターズサークル2000年11月号特別企画
「ワンtoワンの可能性を広げるiモードを利用したマーケティング戦略」より抜粋)


2000/11/05 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会