◆大日本印刷(株) 研修部 石島 治
DTP環境の変化と求められる教育
従来製版のデジタル化は,中間材料の削減と,高度なレタッチ作業のスキルレス化を目的に,専用機(CEPS)が発達してきました。製版担当者に要求されるのはオペレーションスキルであり,教育もそれに重点がおかれ,主にOJT(On the Job Training)によって進められていました。
DTP環境が立ち上がってからの推移を見ると,わずか数年のうちにデータベース化,ワークフローの変化,フルデジタル化,紙メディアからクロスメディアへの展開,ネットワークビジネスとの連携など,技術の発達とともに急激に変化,拡張が進んでいます。
DTP業務担当者は,営業,企画販促,技術開発,制作などすべての職種において,従来の知識とスキルに加えて,変化に対応した新しい知識・スキルを修得し,実務に展開することが求められてきています。
競争面では,今後ますます人材が優劣の差として現れるようになり,人材育成の重要性はさらに高まっていくと考えています。
これからのDTP教育は,印刷製版基礎からネットワークまでの広い範囲の項目に対し,体系的にかつ即効性の高い教育を行うことが重要であり,個々の知識などを評価する手段として,DTPエキスパート認証取得は有効であると考えています。
DTPエキスパートの企業受験について
大日本印刷グループにおいて,DTP教育の一環としてDTPエキスパート認証試験の企業受験を始めたのは,2年前の第10期認証試験からになります。現在第13期までにグループ全体での資格取得者は100名を超え,社内外において認知されるようになりました。
取得状況を見ると,企画販促,技術開発スタッフおよびDTP制作部門のリーダークラスが大半となっています。方針として,筆記試験や実技試験の難易度を考慮した上で,ある程度のDTP実務経験を有しDTP業務を技術的にサポートする者を優先して取得させ,職場内に水平展開していこうと考えているためです。
人材育成の評価として,DTPエキスパート認証取得を選んだ最大の理由は,「筆記試験と実技試験」が試験科目にあったことです。特に実技試験にある制作ガイド(旧作業手順書)の作成は,実務に役立つ課題として高く評価しています。大日本印刷グループでは,業務が機能ごとに分かれているため,作業の引き継ぎや異なる組織間での連携など,コラボレーションして仕事をする場合が多く,的確な作業指示は欠かせないものであるからです。
DTP業務担当者をリーダーに
前述のとおり,大日本印刷グループではDTP業務担当者にDTPエキスパート認証を取得させ,その後OJTでリーダーに育成しています。
「DTPエキスパート認証試験は量・質ともにハードである」といわれていますが,私自身受験してそのとおりだと感じました。しかし,実際にハードなのは試験ではなく,DTPそのものが難しく高度なものになっているからだと思います。だからこそDTPエキスパート全カリキュラムを理解しなければ,プロフェッショナルとしてのリーダーとはいえないということを,受験者へ認識させたいと考えています。
社内における企画販促,技術開発,制作などのDTP業務担当者は,自分自身の業務範囲においては,既に専門能力をもっている者が多くいますが,今後リーダーとして育成するためには,幅広い知識とともに,業務指示の重要性と具体的な指示方法を修得させる必要があります。彼らにはキャリアがあるだけに,受験による実務への波及効果が高いと考えています。
なお,最近では新入社員についても,早期育成を目的に受験を始めたところです。
合格へのサポート体制
企業受験については,企業(職場)と受験者が目的をはっきり認識した上で取り組み,継続させていくことが重要だと考えます。DTP業務担当者の勉強時間の捻出だけをとっても,職場の理解と協力が不可欠ですが,職場全体で勉強していくというムード作り・環境作りの面から,職場のサポート体制が整ってきています。
できるだけ多くの社員に勉強してもらうことを目的にしているので,受験の合否にはこだわり過ぎないように進めており,実際に2回,3回目の受験で合格する者もいます。むしろ中途半端な知識で「運良く」合格してしまうくらいならば,確実に理解した上で合格してほしいと考えています。
合否にはこだわらないとはいうものの,企業として受験者を出す以上,結果も大切ですので,ある程度受験者の選抜とサポートを行っています。
受験者の選抜は,受験希望者全員に対して事前試験を実施し,ボーダーラインをクリアした者が本試験を受験することとしており,毎回受験希望者の半数程度がクリアしています。
受験者への事前のサポートとして,試験の特徴,新規出題分野への対応,過去の模擬試験問題や関連資料の配布,課題制作のアドバイスなどをしていますが,サポートは受験者の自主性を妨げないよう気をつけています。
認証試験の中でも,制作ガイド作成は特に難しい試験であり,相談を受けた受験者には,実務レベルでの作業指示ができているかを観点に指導しています。
認証を取得して
DTPエキスパート認証取得は,勉強のスタートであり,それに基づいて知識とスキルをアップし,業務にフィードバックしてこそ意味が出てきます。
取得者にとって,合格の喜びもつかの間,日常に戻ると特に表面的には変わらぬことが多く,物足りなさを感じることもあるかもしれません。確かに合格することが目標のひとつであることは事実ですが,あくまでDTPエキスパート認証は,DTP業務に必要とされるカリキュラムを勉強し,DTP制作,作業指示をするための基本を修得したことに対する認証であり,それを今後どのように生かしていくかは,取得者本人の意識の問題であり,職場における人材活用の問題だと考えています。
DTPエキスパートの認証は,本人にとってステータスにもなってきています。取得者に対しては,名刺へ「DTPエキスパート認証員」の記述を印刷することを職場の判断に応じて認めています。若手リーダーの得意先などに対する信用面での効果も期待できます。
職場においては,取得者を人材教育の具体的な成果として捉える面もあります。DTPエキスパート認証者を多数抱えている職場は,対外的に大きな評価を得ているようです。
一度取得したDTPエキスパート認証ですが,試験後の技術進歩などを改めて理解することを目的に,2年後に更新試験が行われますが,妥当な対応であると思います。
企業受験者の中から更新時期になる者が出てきましたが,更新試験を受けるよう勧めています。
今後への期待
DTP環境の変化とともに,その領域は従来のプリプレスという枠組みから大きく広がりつつあります。彼らに求められる専門性もますます,幅広く高いものになっていくと考えます。
既に多くの人々が人材育成の標準教育カリキュラムとして,DTPエキスパート認証試験内容を位置づけていますが,今後も指針を提示いただき,業界の人材育成を主導いただくことを期待しています。
(JAGAT info 2000年8月号)
2000/10/16 00:00:00