年末恒例の「トピック技術セミナー」を、来る12月14日(木)に開催する。今年の特別講演は「印刷工程のためのデータベース構造モデル」である。
非常に重要な意味を持ち、世界レベルではかなり注目されながら、日本の印刷業界では必ずしも良く理解されていない「AMPAC」(Architecture Model and PArameter Coding for graphic arts)の概要とその製版印刷システムへの適用について解説する。
また、印刷物の製品仕様、使用する用紙、インキ銘柄、使用印刷機など、いわゆる作業指示書の内容が確定され、CTP用のデジタルデータが用意されれば、印刷機械の全ての調整部分が自動調整され、ボタンひとつで印刷機械が本刷りを開始する「完全自動印刷機」も夢物語であろうか?
実は、このような夢物語を現実にすることを目指した構想がAMPACである。印刷機完全自動化のために必要な制御要素と各要素間の関係に関するデータ、知識を体系的に蓄積するとともに、蓄えた知識を目的に応じて自由に取り出して使える仕組みを持つデータベースである。AMPACは、既に「印刷工程管理のためのデータベース構造モデルおよび制御パラメータの符号化」(JISX9206-1)としてJIS化された。
JIS化に至る作業の中で整理された知識を使って、印刷条件が変わったとき、その変更によって機械のどの部分の設定を変更すべきかといったことをオペレータに指示する程度のことはできる段階(もちろん全てではないが)にきている。そして、来年夏ごろまでに、その適用範囲、精度をかなり高いものにまで持っていこうという作業が現在進められている。
これらの知恵の多くは、日常の作業の中で経験的に取得されるので、全ての印刷機のオペレータが全く同じ知恵を持つことはない。それは、経験の積み重ねによる知識、知恵は個別に見れば完全ではないということである。しかし、実用上の問題がなければそれで十分という意味で、その知識、知恵は印刷機無人化にとっても有用なものである。問題は、それらが個人の経験として蓄えられていくだけで、体系的に、しかも業界全体として使える形で蓄えられなかったことである。
一方、上記のような知識、知恵について、GATFやFOGRAといった印刷関係の研究機関をはじめ、メーカー、印刷会社の技術部など、多くの場所で研究がなされ膨大なデータが出されてきた。しかし、それらが印刷機自動化に寄与するところは少なかった。それぞれで扱われた要素がごく限られた範囲のものであったことと、従来の研究手法が、200程度もあると考えられる多数の要素を解析的に分析するものであり、200連の非線形連立方程式を解くような手法だったからである。
つまり、印刷機の自動化に必要な情報は、印刷現場、研究機関、メーカー等、さまざまなところに部分的、断片的に分散した状態では存在していたが、それらが体系的に整理され逐次積み上げられ、より精度の高い、総合的な知恵として進化することは無かったのである。それは、努力の不足というより、そのようなことを可能にする環境、仕組みがなかったからである。
他の標準フォーマット化の目的が、通信ネットワークを通して「データを転送することなど」であるのに対し、AMPACでは、印刷機のオペレーションに使われる知識・知恵を総合的、体系的に蓄積していけば、印刷機を完全自動化、無人化できる可能性は否定できない、という認識からスタートした「知識・知恵の蓄積、利用環境としてのデータベース作り」が目的である。そして、その目的がより普遍的なものであるが故に、各種の標準をその一部として含むような意味合いの広さがあって、各標準化グループから注目されるのである。
しかし、もし、AMPACをあるメーカーが単独で発案して特許として押さえたとしたら、そのメーカーはとてつもなく大きなビジネスチャンスを手にできるといったほどの重要性を持っていること、また、少なくとも、知恵の蓄積とその利用は、印刷作業の標準化や技術のレベルアップに多大の貢献をすることは間違いない。全ての知識が集まらなくても、それなりの有用性を発揮するというのも、AMPACの優れた仕組みである。
ただし、AMPACが持つ機能は蓄積すべき知識の箱や仕掛けであって、初期の目的に近い成果を得ていくために必要な箱の中身は、多くの業界人の努力と協力、そして時間が必要なことはいうまでもない。だからこそ、今回のトピック技術セミナーにご参加いただき、AMPACが大きな期待を掛けるに足るだけのものであることをご理解いただきたいと思う。
(出典:社団法人日本印刷技術協会 機関誌「JAGAT info 2000年11月号」)
特別講演予稿 その1[印刷工程のためのデータベース構造モデル]
特別講演予稿 その2[印刷・製版ワークフローからみるAMPACの利用]
2000/11/14 00:00:00