第5回マニラFAGAT
情報交流会講演レポート
アジア地域における印刷産業の協力関係について/作業交流の条件
現在は情報化とグローバル化の社会である.IT技術(Information Technology)を使って, Good & Service をグローバルに流通させる時代になった. 私たち印刷産業もグローバルな視点に立ってビジネス展開を行うべきだ.しかしアジアの域内だけでビジネスを行うにも多くの困難がある.
一つは各国の経済的発展段階が異なり, 産業のインフラ整備の状態がバラバラであること.一つはアジア各国の言語が異なっており,印刷物生産の各段階で困難を生ずること.
この二つは典型的なものだが,その外に沢山の困難があるので,それらにつき問題の所在を考えることにしよう.
1.日本から見た作業交流の形態と予想される品目
2.印刷物受発注の共通認識事項
3.作業交流の障害
4.生産活動の慣習と技術思想
5.21世紀の技術環境と克服すべき技術課題
1.日本から見た作業交流の形態と予想される品目
2.印刷物受発注の共通認識事項
3.作業交流の障害
アジア各国の生産設備や材料は殆どが輸入品であるため,生産高に対する材料費比率
が高いようだ. このため印刷物の価格が一般物価に対して相対的に高くなり,印刷産業の発展を阻害している. 経営者は設備や印刷材料,用紙などのコストを下げるため,技術のルールを無視し,限度を越して節約に努力している.
2000/11/16 00:00:00
印刷産業が扱うデータ量は非常に大きいので,各国の通信インフラは印刷にとって全く未整備といってよい. 特にカラー画像の送信はデータ圧縮をかけても現在は不可能である.光ファイバーを工場間に整備するのに,日本でも最低3年かかるし,アジア全体では10年近くかかるだろう.
一番の障害は印刷物の輸送期間である.通関処理 にもinとoutで各1〜2日必要なので,東南アジアと極東アジアを結ぶには,船便利用なら2〜3週間,それぞれの域内でも1週間は必要となる.エアカーゴではコストがかかり過ぎる.従って交流する印刷品目には強い制限がかかってしまう.
紙も大きな障害因子である. 問題点を考えてみよう.
a) 種類が少ない
日本の印刷界で普通使用する用紙品目は下記のようなものだ.
* 中質紙,上質紙,A2コート,A3コート,微塗工,アート紙,片面コート,
晒クラフト,マニラボール,白ボールなど.
* サイズ/ A列,B列,寸のびA列,寸のびB列
* 斤量(紙厚)
* タテ目, ヨコ目(紙の目)
b) 常備在庫がない
印刷物の生産企画には紙の抄紙期間は入っていない.ただでさえ印刷物の納期は短いのに,中ロットの印刷物を生産するのにも紙の製造期間を考えていては仕事にならない.
c) 品質とサイズ
製造品目が少なくて問題はあるが,製造しているものの品質は良好のようだ.
ただし,抄紙後の加工精度(直角精度,寸法精度)については問題がある.
d) 価格の建値は日本とも同水準だが,10%以上の値引があるようだ.日本でも
購入量によって差があり,大企業と中小企業との価格差は20%以上もある.
東南アジアの価格は供給品目が少ない上に一般物価と比べれば相対的に高過ぎる. 価格を下げる努力をするべきだ.
e) 輸入税
最近大分下がって10%位のようだ. 国内の生産が不充分なのだから,輸入は完全に自由化すべきだ.さもないと印刷の競争力が強くならない.
従業員の作業能力は特に劣ってはいない.劣っているのは作業者の勤務規律や生産性,品質に対する感性,技術水準などであるが,それらは作業者の能力に原因があるのではなく,人事管理や技術管理のレベルの低さに原因がある.
a) 勤務規律と生産性の低さ
こうした勤務規律の甘さのため生産性も低い.これは従業員に責任があるので
はなく,これを放置している経営者,課長以上の管理者を教育しない経営者に
責任がある.課長以上の管理者はデスクワーク要員ではなく,作業者と苦労を
共有する現場の指導者であるべきだ.
b) 品質に対する感性と技術水準,
レジスター精度の甘さ,色相の違い,水負けしたインキ着肉など,多くの国で
品質に対する感性の低さが見られる. これも作業者に責任がない場合が多い.
作業者に責任追及をしても「仕方がない」という返事だけだ. 本人は一生懸命努力しているので問題点は分からない.設備,技術管理,技術教育が常に一定の水準以上に行われていなければ,品質の維持は難しい.
設備や技術管理の水準が限度以下に悪い場合は,作業者の品質に対する感性はなくなってしまう.設備や管理の水準を一定レベル以上に保つことは経営者や管理者の責任であるし,このレベルが低くなると作業交流は行えない.