印刷業界でも、e-businessあるいはECについての関心は高まってきたが、一方で理解の混乱も見られる。
e-businessをどう捉えるかはその視点によっていろいろ異なるだろうし、いまは揺籃期だから、これが印刷のe-businessだという段階ではない。図は、EC(Electronic Commerce)の前段階にあったEDI(Electronic Data Interchange)を強く意識して、印刷業界におけるe-business、ECの一つの見方を示したものである。図では、e-businessとECを区別して、e-businessをECよりも広い概念として位置付けている。
まず、ECについては、印刷会社の外部の顧客、協力会社、あるいは資機材提供業者との間の受発注から納品・精算に至るプロセスにおける相互の情報交換を通信ネットワーク(主にインターネット)を通じて行なうことと捉えている。
ECは、取引の対象を事業所とするB to Bと消費者を対象とするB to Cに分けることが出来る。B to Cについては、ほとんど取引対象は不特定多数となるが、B to Bの場合には、不特定多数を対象にする場合と取引相手が特定される場合とを区別する必要がある。扱われる商品,サービスやどのような情報交換が必要になるかに大きく関わるからである。
図では、後者をSCM(Supply Chain Management)として位置付けている。機能的には、業務プロセスのなかの受発注段階の情報交換だけではなく、工程管理を含む全プロセスにわたって情報交換を行なうものとしてSCMを捉えた。
電子商取引は、ECといわれる前はEDIと呼ばれていた。通信システムとして専用回線を使用してComputer to Computerでデータをやり取りするもので、システムの性格から取引対象は実質的に限定されていた。当然、消費者一般は対象になっていないし、オークションのような取引は想定していなかった。
EDIは、お互いに協調できるところは協調し、競争の部分に経営資源を配分して、グループとして他のグループとの競争に勝っていこうという戦略のツールである。この根底には米国産業界の対日戦略があり、鉄鋼業界、自動車業界などが熱心に取り組んできた。
具体的には、非生産系の取引情報を、専用のコンピュータ・ネットワークを通じて電子的にやりとりすることによって、従来の取引関係を超えた新しい企業間の関係を創ることを含めて、ビジネスのプロセス全体の効率(コストとスピード)を飛躍的に高めることを目指した。
しかし、1999年代半ば以降にインターネットが爆発的に普及し、これを活用することによって
1. EDI機能が拡張、高度化された
2. ネットワークを利用した販売プロセスの合理化、利用拡大が可能となった。
その結果、幅広い分野にわたって電子調達が利用され、生産期間の短縮、コストダウン、市場ニーズへのより迅速な対応を可能にし、さらに新たな販売機会をもたらす、あるいは情報通信分野のソフト、ハード、サービス提供産業の拡大や新しいビジネスをもたらす可能性が期待され、一気に脚光を浴びるようになったのがECである。ECという名称については「EC」(欧州共同体)が「EU」(欧州連合)に変わったことが背景にあるという。
図では、EDIの機能を拡張、高度化したビジネスモデルを「SCM」として捉えている.
しかし、現在、より多くの注目を集めているのが、上記2の「販売プロセスの合理化、利用拡大」によってもたらされた物やサービスの売買機能、オークション機能を使ったビジネスモデルとしてのECである。印刷業界においても、e-business、あるいはECをウエッブ上で物を売ること、印刷物の注文を受けることとして捉える人が多い。
印刷物の受発注をインターネットを通じて行なう形には、ウエッブサイトとマーケットサイトがある。売り手あるいは買い手が1社で、それに対応する買い手あるいは売り手が不特定多数という形(「1:n」の関係)を「ウエッブサイト」、売り手、買い手双方ともに複数存在する形(「n:n」の関係)の取引を「マーケットサイト」という。いずれにしても、そのサイトを通して物やサービスの売買を行なう。
自社のウエッブサイトで印刷物の受注を受けるのはウエッブサイトにおけるカタログ式販売である。自社のウエッブサイト上に、買いたい物、買いたいサービスの内容と購入条件を提示し、購入条件を満たしながらより安い価格を提示した相手から買うのが逆オークションである。既に,大口の印刷物発注者で逆オークションを始めたところがある。企業のコスト意識が強まれば強まるほど、このようなサイトが増えてくることは容易に想像できる。ただし,原則的には不特定多数の印刷会社を対象にしているが、現実には限られた業者からの入札になっているようだ。
マーケットサイトでのオークションは、売り手、買い手双方ともに複数存在する「エクスチェンジ方式」である。マーケットサイトは、「ポータルサイト」と「ECサイト」に分けられる。前者は、取り引き情報の仲介をすることが主な機能で、成約を含めて関与しない。後者は、例えば自動見積もりのような、受発注に関わる業務をネットワーク上で行えるソフトを開発し、サイト利用者に提供するASP(Application Service Porovider)のサイトである。 マーケットサイトでは、その立場を買い手側に置くのか(逆オークション的)売り手側に置くのか(フォワード・オークション、カタログ式的)の二通りが考えられる。米国のマーケットサイトは、印刷物発注者側に立ったサイトがほとんどだと聞く。
オークションの場としてのECの目的は、新たな顧客の開拓や売上げ増加であるが、SCM
は取引にまつわる手間をコンピュータとネットワークに置き換えて、業務のスピードアップとコストダウンを図ることに主眼を置いている。
SCMにも、各企業自らがアプリケーションを開発して関連企業との間で情報交換を行なうモデルと、SCMに必要な仕掛けを開発したASP業者が、それを印刷会社に有料で各社のブランド名で使ってもらうECサイトがある。さらに、データ交換の標準化をして、業界に属する企業とその関連企業が共通で使うSCMがある。
SCMは、情報通信技術(IT)さえ導入すれば実現できるものではない。経営管理情報のデジタル化、経営情報システム(MIS)の構築、それが有効に活用できる社内組織の改革あるいは商習慣の変更など、ITを活かせるように土台作り変えなければならない。生産面では、FA化とSCMに繋がるCIMを実現していくことが必要になる。
このような各社の情報化、FA化とその運用戦略、さらに顧客のe-businessを支援する新しいビジネス展開を含めた全体が、印刷産業にとってのe-businessではないだろうか。
以上は、あくまでも印刷のe-business、ECの一つの見方であり、図のように割り切って分類することが難しいビジネスモデルもあるし、時間がたてば図の見方が全く不適切になることがあるかもしれない。いま、印刷業界にとって必要なことは、e-business、ECは突然、降って湧いたものでもないしバブルでもないとういう理解と、広い視野でその意味を捉え変化を逐次見ていくことである。
来る12月12日にテックセミナー印刷のECの事例を開催する。経験と実績を積んだ印刷業のウエッブサイト、ユニークな印刷の逆オークションやポータルサイト、出力センターのSCM、小売業の顧客のe-business支援などの事例を紹介する。
2000/11/25 00:00:00