Print Ecology(印刷業の生態学)
5章までの掲載分のindex
6章第1回
印刷経営のシステムは複雑系
6章第2回
複雑系のシステムとは !
6章第3回
予測不能な印刷経営
6章第4回
経営管理もできない
6章第5回
経営のパラダイムシフト
ところが経営というものは常に静態的ではありえない。常に流動的であるしダイナミックなものだ。何度も議論しているように印刷需要の変化、技術の変化、得意先の変化、社会環境の変化・・・・・こうした変化は止まることがない。最近ではドッグイヤーといわれるように深さとスピードを増している。資金需要は得意先倒産による一時的、後向きのものだけでなく、ネット技術、Eコマース、CTP対応など生産技術対応のもの、さらに競争力をつけるための高生産性設備の増強など、緊急な拡大経営のための資金需要もある。このように前向き資金需要、後向き需要などが不況になってもふくらむ一方だ。
最近キャッシュフロー(cash flow)重視の経営といわれるようになった。キャッシュフローの厳密な計算は面倒くさいが、要は自由に動かせる手元資金がどれだけあるかということ。基本的には減価償却額と税引き後の利益額である。これからの経営は市場経済化の中で激しい競争にさらされ、しかも技術変化がはげしいのだから、資金需要は単に増えるというだけでなく、偶発的需要も発生するようになるので、それだけにキャッシュフローの強化が必要になる。
今日の印刷経営は大手の動きをみても全く売上高志向であり、市場経済下の競争重視型営業を繰り返している。市場経済でよくみられる一人勝ちを目指しているようだ。しかし印刷のマーケットは私が「すみ分け指数」で論じているように、マーケットは多様なセグメントを持っており、中小企業者用のセグメントもある。大企業用のセグメントの中で一人勝ちはできても、印刷全体の一人勝ちはできないし意味のないことだ。また中小企業の経営者も売上高志向である。この場合は一人勝ち志向ではなく、単に遊休率の高い設備を効率的に運転したいだけのことだろう。いづれにしろ印刷界全体が売上高志向になっている。それでは利益は出ているかといえば、大手も中小も、どんどん利益率を下げている。
TKC税理士会の統計では、1997年(1〜12月)は加盟印刷会社の57.2%が黒字、42.8%が赤字であった。今日では50%が赤字になっているだろう。大蔵省税務当局の数字では約70%が赤字だという。大手の営業利益率も毎年下がり続けている。
●大手3社の売上原価率と営業利益率(各年4〜9月期)
大日本印刷 凸版印刷 共同印刷
原価率 営業利益 原価率 営業利益 原価率 営業利益
1997 83.2 6.6 83.7 6.7 83.6 4.5
1998 83.7 5.2 85.0 4.8 85.0 3.0
1999 85.5 5.1 86.2 4.0 86.0 2.5
2000 86.7 4.1 86.5 3.4 86.3 1.8
21世紀の直接金融の時代は収益力だけが経営の条件だというのにこれでは産業としての資格に欠けるというべきだ。金融の新しいパラダイムは直接金融だということは分っているのだが、印刷界ではまだどのようにしたら良いのか不透明である。パラダイムシフトという谷間に落ちたきり這い上がることができない。
勿論、印刷界だけでなく全産業で新しい金融システムのパラダイムに対応できていないのだから止むを得ないことだが、このままでは倒産企業を増やすだけで社会は混乱する。政治家や銀行界に新しいパラダイム作りを期待しても無理である、そうだとしたら印刷界自身で売上競争の経営姿勢を改め、利益志向、収益志向の経営に転換したらどうだろう。
印刷界には技術的にも新しい製品をマーケットに提案するチャンスはいろいろある。CTPにしても、DTPによるデザインにしても、みんな値下げの材料にしているだけで、合理化による利益留保の手段には全く使っていない。現状は合理化貧乏のスピードを上げているだけだ。マクドナルドのファーストフード店は値下げ運動の先頭に立っているが、利益額もどんどん増やしている。すなわち合理化により利益はマーケットに一部を還元しているだけで、社内留保もきちんと行っているということだ。もうこうなったら印刷界自身で新しい経営体質を作っていく以外に道はない。
2000/12/27 00:00:00