社団法人日本印刷技術協会 副会長 和久井 孝太郎
あけまして、おめでとうございます。
いよいよ21世紀の幕開けである。前世紀終盤に勃発したデジタル革命(あるいはIT革命)は21世紀へと引き継がれる。言うまでもなくITは手段であって目的ではない。2001年の年初にあたり、『デジタル革命の真の夢は何か?』を考えることは、大いに意義がある。
だがそれは、皆さん一人一人が考えるべき課題であり、政府やその筋の権威者が決めるものでも、1本化調整が必要な課題でもない。夢は個人のものであり、より良く生きるための活力の源泉だ。筆者のデジタル革命に対する夢は、21世紀に日本人が『もっと美しく・強くなくこと』と、宇宙船地球号の『調和の進歩と安全運行』に大きく貢献することである。
ところが米国のバイオ関連ベンチャー企業の一つであるセレーラ・ジェノミクス社が、独自にその9割以上を解読したと発表したことで大統領の発表が5年早まった。セレーラ社は、デジタルシステム化された高速自動ゲノム解析装置とスーパーコンピュータを大量に導入することで国家・国際プロジェクトを出し抜いたのである。遠くない将来、難病のアルツハイマー病やエイズの治療法なども抜本的に進むだろう。
今からちょうど100年前、1901(明治34)年1月2、3日に報知新聞が掲載した「20世紀の豫言」は、技術進歩の速度を考える資料としても大変おもしろい。「20世紀の豫言」自体の詳細については、拙著「デジタル革命とメディアのプロ」で紹介済みである。
「20世紀の豫言」の中に鐵道の速力という項目があり、'19世紀末に発明せられし葉巻煙草形の機関車は大成せられ、列車は小家屋大にてあらゆる便利を備へ、乗客をして旅中にある感無からしむべく。冬季室内を暖むるのみならず、暑中には之に冷気を催すの装置あるべく、而して速力は通常1分時に2哩、急行ならば1時間150哩以上を進行し、東京、神戸間は2時間半を要し……'と書いてある。これは今日の「新幹線のぞみ」の状況を的確に言い当てている。
鉄道や船舶、自動車、電話など20世紀冒頭にもすでに実用化されていて、21世紀冒頭の今日なお健在のものは、その技術を何で評価するかによって違いがあるが、進歩の速度が10~数100/100年程度のものが多い。最も基本的な評価数値である世界の人口は、20世紀の冒頭で約15億人、21世紀の冒頭で60億人と過去100年で4倍になった。
これに対して20世紀冒頭には全く存在せず、20世紀半ばに出現して21世紀冒頭健在なもの、例えば、電子計算機(コンピュータ)は筆者の手元のデータでは40倍/10年の進歩である。そして20世紀終盤、デジタル革命のインターネットや携帯電話関連の技術進歩では、100~数100/10年まで加速度が大きくなった。
かつては象牙の塔にこもり、「神の御技はどのようになっているのか?」「人間はどこから来て、どこに行くのか?」など真理探究にいそしんできた学問としての科学にも、現在では、いろいろな分野の進歩を求めて巨大な投資をするようになっている。デジタルにおける最も基礎的な科学は、数学と量子論である。
デジタル革命によって、時代の変化はどんどん速度を増してきている。あたかも一般道路から高速道路へ進入した自動車に似ている。自動車の速度を上げれば、運転者は前後左右に気を配ると共に、できるだけ遠くまで見通さなければ安全運転できない。私たちは、目先の課題を追いかけるだけでなく、21世紀のできるだけ遠くまでを想像する必要がある。
しかし、「来年のことを言うと鬼が笑う」「明日は明日の風が吹く」などの日本的な風土は、遠い未来を私たち一人一人が真剣に想像することを難しい気分にさせている。従って、何故にそのことを問題とするのか? デジタル革命の真の夢、挑戦しようとする理想とは何か? などについて、我々は楽観するでも悲観するでもなく「非まじめに」考えることが極めて重要である。
2001/01/01 00:00:00