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なぜISO9000を取得するのか

〜経営者の意思が問われる2000版改訂〜


●ISO9000取得印刷企業は10倍に
2001年5月末現在のISO9000取得印刷会社は250件を越え、昨年だけで登録企業は約2倍になっています。また、JAGATでISO9000に注目をはじめた4年前から見ると10倍以上に増えています。JAB(日本適合性認定協会)のデータでは、日本におけるISO9000取得企業は約15、000件ですから印刷会社は1.4%になります。この割合が多いか少ないかは一概には言えませんが、製造業からサービス業、大企業から中小企業への広がりを考えますと、印刷業ももっと増えてしかるべきかもしれません。ヨーロッパでの審査登録機関の印刷業認定数をみますと98-99年に約950社も増加しています。ヨーロッパでもサービス業の伸びが目立っています。なかでも公共行政、教育、ホテル・レストランなどが顕著です。日本では、ISO9000より環境ISO(14000)に取組むサービス業が増えてきています。ことに公共行政の伸びが著しいのが特徴的です。

●改訂2000年版正式発行
さて、わが国でISO9000が話題になり始めたころの関心動機は、得意先からの要求など取り引き環境から来る、「利害関係動機型」による取引拡大でした。もともと購入者と供給者の二者間取引用のものであり、それがISO9000の本筋です。ところが最近は、「経営者動機型」の体質改善に重きを置いているのが特徴です。 TQCが定着しているわが国において、より効果的、総合的であるとされる「経営者動機型」があっているのかもしれません。しかし、TQCとISO9000では品質保証の考え方に根本的な違いがあります。品質保証を購入者の立場で考えるか、供給者の立場で考えるかです。単純明快に分けるならば、前者がISO9000で後者がTQCです。そのため、TQC活動の有無は内部的なものであるのに対して、ISOは保証システムを外部に明示しなければなりません。そのため経営者の責任、品質の方針や目標、役割分担、権限と責任を内外にハッキリさせ、第三者機関がそれを審査、認定する仕組みになっています。
 ISOは5年に一度規格の見直しをすることになっています。1999年がその年に当たり、1994年版の改訂作業が始まりました。TC176での検討規格草案が99年9月に発行され、その後何回かのISO加盟国による投票がおこなれました。2000年7 のISO/TC176京都総会で最終草案(FDIS)が出され、これに対して、9月〜11月にかけて最終投票が行なわれ、12月に2000年版が正式発行されました。日本では直ちにJIS化され、JIS Q 9000、9001、9004が発行されました。94年版登録の企業は、正式規格発行後3年間の内に2000年版への切り替えが必要で、2003年には94年版の登録は無効となります。

●何が改訂されたのか
今日、ISO9000はISO14000(環境)とともに企業評価の物差しとなりつつありますが、その大きな理由は、ISOへの取組みが企業姿勢、経営姿勢と捉えられているからです。ISOの主任審査員でもあり、コンサルタント会社の主席コンサルタントを務める佐久間利次氏は「ISO導入には経営者の強い理念と決意が必要です。TQCの自主的小集団活動とはまったく違うシステムです」と経営者の姿勢が重要なキーになるといっています。今回のISO9000:2000改訂ではこの経営者のウエイトが重くなっています。94年版との大きな違いが同規格の序文に以下のように記されています。
『この規格で規定された品質マネジメントシステム要求項目は、製品の品質保証に加えて、顧客満足の向上をも目指そうとしていることを反映している』『品質マンネジメントを採用することは組織による戦略上の決定とすべきである。組織おける品質マンネジメントシステムの設計及び実現は、変化するニーズ、固有の目的、提供する製品、用いられるプロセス、組織の規模及び構造によって影響をうける。品質マンネジメントシステムの構造の均一化または文書の画一化が、この規格の意図ではない』と謳っています
94年版のコンセプトは、品質保証システムであり、ポイントは品質マニュアルの文書化と品質システムの規格を3つの品質保証モデル(9001:設計・開発、製造、据え付け、および付帯サービス、9002: 9001から設計・開発を除くもの、9003: 最終検査・試験)に分けたことでした。運用面で、規格の重心が品質マニュアルの文書化に対して集まり、その負荷に腐心した企業あるいは担当者の一部に、結果として「ISOとはマニュアルを作ること」「マニュアルのモデルを手に入れれば何とかなる」といったISO規格を形骸化させるような風潮を生んでしまったのも事実です。

●ISOは経営者の意思を具現化するもの
今回の2000年版改定は94年版での問題点を軌道修正するとともに、表題を「品質システム」から「品質マネジメントシステム」に変更したことからもわかるように、「供給者がその能力を実証するための、及び外部関係者が供給者の能力を評価」という品質保証システムから、前述の序文のとおり、戦略的に導入された品質マネジマントシステムであるべきだ、というように変っています。また、品質保証システムとして3つあった規格は、マネジメントシステムとして9001のみの規格に統合されています。
2000年版のキーワードをピックアップしましと「顧客重視」「リーダーシップ」「人々の参加」「プロセスアプローチ」「マネジメントのシステムアプローチ」「継続的改善」「意思決定への事実に基づくアプローチ」「供給者のとの互恵関係」があげられます。なかでも「顧客の満足」「プロセスアプローチ」が重視されています。『この規格は、顧客要求事項を満たすことによって顧客満足を向上させるために、・・・(略)… 組織が効果的に機能するには、多くの関連し合う活動を明確にし、運営管理する必要がある』『組織内においてプロセスを明確にし、その相互関係を把握し、運営管理することと合わせて、一連のプロセスシステムとして適用することをプロセスアプローチと呼ぶ』、つまり一つの情報・製品のインプットとアウトプットをプロセスとし、それぞれのプロセスを明確にして、その組合せや相互関係、プロセス間の繋がりをシステムとして運用しながら管理することができるようにするもので、このことからも経営者、経営層の役割が大変重要であり、ISOは「経営者の意思」を具現化するツールであることを理解していただきたい。

●ISO取得印刷会社の真価はこれから
佐久間氏は「ISOの取得企業が増えたことイコール定着したとはいえないでしょう」と、本当の勝負は認定後であるといいます。ISOを通行手形としてのみ必要なのか、企業の生き方、経営ツールとして必要なのか(結果として通行手形ともなる)の違いは、取得後に大きな落差となって現れてくるでしょう、といっています。
昨今のISO取得熱の中には経営者の「他社より早く」、「楽して取れ」という要求からか、面倒な部門を除外したり、範囲を限定したりするところもあるようですが、94年版で可能であったものが2000年では、前述したようなキーワードがポイントになることから、難しくなる可能性があります。当然、取得企業であっても2000年版への移行が必要ですから見直しが必要になってきます。登録審査機関では、適用範囲、除外項目や経営者の決定など根本に関わることは、セミナーでの情報収集や登録申請予定機関には早めの相談が必要であると話しています。
ISO9000が本当に定着するまでには時間が掛かりそうですし、印刷業界でのISO9000評価、あるいはISO取得印刷企業の評価はずっと先のことになりそうです。ただ、ISOの目指しているものをよく理解して、企業の永続的発展のための血肉にして欲しいものです。

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JAGATでは、ISO9000の2000年版取得を目指す企業のISO推進事務局の方々を対象にISO9000:2000年版取得支援集中講座3日間(全17時間)を今年度(2001年5月と9月ごろ)も予定しております(今年度は終了いたしました)。これから挑戦したいと考えていらしゃる企業の方、取組んではいるが推進事務局が力不足で困ったいる企業の方は是非ご参加ください。本講座は6回目を数え、のべ30社以上の企業が受講されています。

2001/03/07 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会