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広く工程間を貫くデータフロー

PAGE2001コンファレンスC3「工程間のデータフロー」セッションは、スピーカーに(株)小森コーポレーションの吉川武志氏、大日本スクリーン製造(株)の木谷孝則氏、富士写真フイルム(株)の宮川正氏を招いて、(社)日本印刷技術協会 隈元斗乙がモデレータで行った。

●CIP4とJDF
まず,小森コーポレーションの吉川氏にCIP4/JDFの概要と現状をうかがった。
JDF(Job Definition Format)はPPF(Print Production Format)のいわば上位バージョンだが,この間いろいろないきさつがあり,PPFを制定したCIP3はCIP4(Cooperation for Integration of 【Processes】 in Prepress, Press and Postpress)(http://www.cip4.org)となり,またJDFはアドビのPJTF(Portable Job Ticket Format)をもとに,XMLベースで作られている。つまり処理対象からいえば,JDFは製版側のPJTFと後加工側のPPFを合わせたものであり,また機能的には印刷の発注から納入までを複数のプロセスとしてとらえ,それぞれインプット/アウトプットのデータを定義するものである。なお,JDFは現在ドラフトバージョン6が出ているが(http://www.job-definition-format.org),これが正式リリースのバージョン1になると見られている。

●JDF普及のシナリオ
富士写真フイルムの宮川氏は,宮川氏の考えるJDF普及のシナリオのお話である。
JDFは印刷物の仕様を定義し,プロセス(ワークフロー,ビジネスロジック,制作,プリプレス,印刷,後工程,配送)を記述,かつプロセス間の交信を行うものである。JDFはPJTFとCIP3を合わせた広い範囲をカバーし,XMLベースという先進的なものであり,なおかつプリプレス/印刷の4大メーカー(アドビ,アグフアゲバルト,ハイデルベルグ,マンローランド)が提案したものではあるが,それだけで普及するとは限らない。
ふりかえってみると,CIP3(PPF)が進展しない理由は,PPFの対象となる後工程機器の対応が遅れていることとプロセスデータフローそのものの概念が希薄なことである。つまり情報提供の対象となる工程自体がそれぞれ異なるにもかかわらず,その間を連携するモデルがないのである。各工程で別々に発生する情報を取りまとめる仕組みがないということだ。これはそのままJDFの普及を阻害する原因たりうる。つまり,JDFが普及する条件は工程間で情報を共有する基盤(各工程の知識を集めるフレームワーク)が確立されること,そして,上流から整備が始まる動機があること(後工程は難しいので先に前工程を立ち上げたほうがよい)である。
では実際にJDFが展開するとすればそれはどのようなシナリオが考えられるだろうか? まず,基本的にこのようなオープンかつ包括的なワークフローが実現するには時間がかかるということを肝に銘じておかなければならない。実際にはモチベーションのある場所からトライアルが始まるだろう。たとえば,@1社で完結する工程における内部フォーマットとして,A制作段階でのジョブ仕様の定義のためのツールとして,B外部から個別機能を指示するツールとして,CAとBをリンクしたプロダクションシステム,DPDFの置き換え,などである。富士写真フイルムのmyfujifilm.comがAの例になるかもしれないし,Bの例としてはPDFを生成するASPなどが考えられるだろう。Cの例としてはwebで制作指示を行ってJDFによってデータベースからXMLで組版処理を行いRIPして出力するデータベース出版が考えられる。
スケジュールを予測するのは難しいが,たとえば2001年後半からジョブチケット入力ツールやDTPアプリケーション,あるいはプリンタドライバでJDF作成機能が出てくる,そして2001年末か2002年初頭にマネージメントやスケジュールを行うツール,あるいは集版や面付けなどの個別機能などプリプレス製品の対応が始まり,2002年前半頃から,プレス以降の工程で,CIP3を置き換えたり,後工程での部分対応が始まる・・・ということを考えている。

●システム開発と標準フォーマット
大日本スクリーン製造の木谷氏は,とくにCTPのワークフローからみたシステム開発とファイルフォーマットの関係についてのお話である。
CTPではサイズ(プルーフサイズと用紙サイズ,刷版サイズ),および校了がワークフローのキーワードとなる。校了という行為によって製版と印刷が分断されていて,校了の前(製版)後(印刷)でスキルや,スケジューリングが大きく異なる。具体的作業は,校了前の製版工程までで行われていたのが背標・背丁・トンボその他の作業である。校了後の作業は従来の刷版で行われていた作業である。CTPにより製版と刷版の工程がつながれ,それらの間が標準的なファイルフォーマットで結ばれることになるわけである。
今後,ワークフローはデータベース志向となり,データベースのジョブトラッキング機能を利用するようになるだろう。このとき鍵となるのがXMLで,XMLのデータベースとの親和性や汎用性,ネットワーク透過性が極めて有効となる。またインターネットを利用したASPによって,たとえばRIPの時間貸しサービスやデジタル広告配信などが広まるだろうし,さらにはインターネットによる工程管理が実現されていくだろう。JDFがXMLベースという意味はそこにある。開発側としては,必要に応じてJDFに対応するのは当然だが,むしろXMLという意味合いのほうを重要とみている。

宮川氏と木谷氏のお話では,奇しくもASP利用の将来性について考えが一致したのがたいへん興味ふかい。
ディスカッションの時間はあまり取れなかったが,宮川氏,木谷氏の問題提起を受けて,はたしてJDFはほんとうに使われるようになるのかという点に絞って議論した。ユーザ側の体制の問題,メーカー同志の競合の問題などいろいろな要素があって軽々には判断できないが,メリットはあるのだから少なくともなんらかのかたちで採用され実用化されるはずである。おそらくプリプレスからプレスまでカバーしている大きなメーカーが突破口を開く。ただし,一気に全工程で使われるのではなく部分から始まる。一方,ユーザ側は本来ならこうしたフォーマットは意識しないのがいちばんよいわけだが,なによりも現在のワークフロー自体を見直し体制を整える必要がある。いずれにせよ,もうしばらく情報収集しながら成り行きを注目しなければならない。

PAGE2001報告記事

2001/03/05 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会