日本でも2001年3月24日にAppleからMac OS Xが発売になるが、そこに盛り込まれるさまざまな新機能のうち、日本独特のものとして、1万7千余漢字を予め実装するという話がある。これは2000年のMacWorldExpo/Tokyoで突然出てきた話で、それまで日本語PostScriptプリンタの明朝がデフォルトでモリサワのリュウミンであったDTPの世界の人にとって、Mac OS XではイメージングモデルがPDFベースのクオーツになり、しかもシステムフォントがOpenTypeで大日本スクリーン製造のヒラギノになる、ということで、その当時は何か大きな変化の予兆とでもいうべきショックが業界に漂った。
それから1年たって、ワケわからないまま「モリサワが主流でなくなるのか…」的な議論はなくなったことと、これからは出力機のRIPにフォントを持たせるのではなく、DTP制作側でフォントエンベッドをすることが多くなるだろうという認識が広まった。しかし、はっきりしないのはOpenTypeの字種のことで、「なぜ1万7千余字だ」とか「何が追加されたのか」などの議論をするにも至らないほど情報が少なく、巷ではどんなメリットがあるのかわからず、ほとんど盛りあがりに欠ける1年であったと思う。
APPLEはこの間に拡張した字種について広報的な手をほとんど打っていないのが盛りあがりに欠けた原因であろう。一方、『ほら貝』、『小形克宏の「文字の海、ビットの船」』その他のサイトや、裏話としてはその内容が断片的に語られているが、内容の真偽はよくわからない。写研外字への対応、Unicode日本語とはの解釈に関するAppleとMSの食い違い、Unicodeからはみ出ているJIS第3第4部分の扱い、などについてはAppleの裏付けなしには、なかなか書けないもので、噂に終わっている部分が多い。
JISの規格票でも近年は、文字セットの拡張に際しては、基本的な狙い、サンプル文字をどのように採取したか、字形の差異の識別基準など、合理的な根拠を示して理解してもらうのに非常に多くの努力をしていて、それは規格票自体が収録文字の説明として重要な資料となっていることからも明らかである。
Appleが1万7千余字を活用してもらいたいのなら、採取文字の根拠と既存の規格との関連の資料を作らなければ、文字の入力系や、フォントのデザイン、その間に入るDTPソフトなど文字の確認や入れ替えをするソフトを開発する人はとまどう。
おそらく1万7千余字は唐突に出てきたものではなく、ベースとなる文字セットの集合であって、その文字セット自身にもそれぞれの根拠があるのであろうから、Appleに対して今から文字の典拠の膨大なドキュメントを作れといわなくても、Appleがこの1万7千余字を調査した経緯を説明するだけでも、かなり理解がされるようになるのではないと思う。
2001/03/08 00:00:00