中国の印刷産業の発展とアジア印刷企業との協力 (その 2)
第5回マニラFAGAT
情報交流会講演レポート
2001年3月12日
武 文祥
理事長/中国印刷技術協会 (PTAC)
● 21世紀最初の10年間の中国印刷産業の開発予測
背景として 今後10年の展望してみると以下のようなことである。
a) 中国の経済体制が戦略的な調整を向かえる段階にきている。
b)
業界の再編で国営企業でもバランスシートを作る時代になる。
c)
科学・技術・教育の分野においてさまざまな変化、発展があり市場開放が進み一層のグローバル化が計られる。
今後10年の開発動向
a)
第10次総括経済開発計画を進めている。これによって物質的、精神的改革がもたたされる。ネットワーク経済、知識集約経済の台頭で従来の印刷は大きな体質改善を求められている。
b)
WTOへの加盟(注1)
中国のWTO加盟は、品質的に競争力が弱かった印刷業界にとっては、もっと厳しい競争にさらされるであろう。これを乗り越えるには業界の体質、企業内のマネージマントを変える必要がある。従業員の質の向上、技術革新のスピードアップ、生産性の改良、効率アップが求められる。
c)
ドルッパ2000において
ドルッパ2000において今後の新しい時代への橋渡しとなる技術が紹介された。プリプレス、プレス、ポストプレスで個々の多くの技術革新があったが、今後はネットワーク技術を使うことでプロセス全体を見渡した統合的なシステムが必要となり、印刷技術がトータルな技術として近代化する必要がある。
d)
過去20年の印刷技術の発展を見るとき、国際的な水準からわが国の技術についてみる視点が必要である。
以上のような考えを実行していくには市場のいろいろなニーズを考慮する必要がある。また優先順位が必要で、何をすべきか、あるいはしないでおくかを決める必要がある。
<出版・新聞印刷>
多種少量で高品質を求められている。国際市場で活躍するにはいろいろな課題があるが、定期刊行の出版印刷では納期の短縮がある。カラーテキストことに教科書のカラー化が進む。新聞の印刷も分厚くなり、カラー化、朝夕刊の発行などのニーズがでてきている。
<包装印刷>
最高の品質と多様化した印刷が求められている。環境への配慮も求められている。
<有価証券・紙幣・BF印刷>
従来の紙幣は量産体制が中心、今後は電子通貨を含めた質的な対応が求められている。
<印刷界の地域格差>
東部の海岸地域と西部の内部地域では印刷技術に格差がある。発達した地域では印刷は都市型産業である。政府は遅れている中西部の育成に力を入れている。
具体的アイデア
a)
電子ビジネス、情報ネットワーク対応へのスピードアップ化が必要。
予測によると2010年までにインターネット人口は2億人を突破するといわれている。
これからは印刷・出版・広告企業は、インターネットを利用してビジネスを拡大すると思われる。ネットワークがこれからの必要不可欠なキーワードである。
b)
従来の印刷だけを処理するだけでなくマルチメディアを対象とした新しい企業に生まれ変わらなければならない。
c)
デジタル化したワークフローの徹底。
これは印刷の業界内のワークフローのみならずWebを使った世界的な情報発信を含めている。
d)
標準化と基準への注意
印刷の生産システムはデジタルを基本に統合され、ネットワークで情報管理されるようになる。システムのmodular
structureが重要になってきたが、多種多様な様式があり、そのシステムのなかでいろいろなの標準化がでてきており、中国ではこの分野で早急に対応する必要がある。いろいろなレベルにおいてリーダーを確立しなければならない。政府のサポートや海外からの優れた技術を導入して達成したい。
e)従来の印刷と新しい印刷で起きている関係をうまくバトンを受け渡して行くことが重要。あまり急がないことである。
f)
関係産業の開発も重要課題
高品質な機械が開発されなければならない。
● アジアの企業との協力関係
中国はアジアの多くの国、企業と交友関係を持っている。印刷においても日本、韓国、シンガポール、インドネシアまたそれぞれの国の企業との交流がある。例えば凸版印刷、大日本印刷などは早くからホンコンに進出している。凸版印刷は深せん(shenzhn)市に数年前に工場が作られた。凸版印刷・大日本印刷はPelics
Publishing
Houseまた北京パレスミュージアムとの協力合意ができている。写研・モリサワがスポンサーとなって2年に一度の新しい文字デザインのコンテストを開催している。森澤信夫氏は最近亡くなられたが、百歳誕生の寄付で『モリサワ・プリント・アワード』(モリサワ賞)を創設した。
ISO IEC10646が組織され、中国、日本、韓国が協力して漢字の統一コードCJKを定めた。富士、ハマダ、東洋インキ、東和、大日本インキなど各々が中国の関係ある企業と合弁事業を行っている。最近、シンガポールの企業が上海にナンバー3の印刷会社を合弁で作った。そのほか富士フィルム、APP
Paper Making Group(インドネシア)と合弁が合意されている。
中国印刷技術協会も、日本印刷産業連合会、日本印刷技術協会、日本プリンティングアカデミーと長期にわたる友好的な交流を行ってきた。日本印刷技術協会は14年の永きにわたり、印刷技術管理の通信教育講座を支援してくれた。研修生は6000人を超えている。日本の示唆によって造られたFAGATも日本、中国、韓国そしてタイの協賛によって始まり効果を上げている。
これからの中国とアジア諸国の関係について以下のような示唆をしたい。
a)FAGATの組織をより強固なものにするために、例えば日本に事務局を設置することである。その中で、Webサイトを利用して相互にリンクする。その運営費としてメンバーシップ費を徴収したり、寄付を募ったりする。
またFAGATメンバーを徐々に増やして行く必要がある。現在アジアは40カ国、東南 アジアは16カ国あるが、FAGATは7カ国である。この状況は、アジアというコンセプトから考えるとかけ離れている。FAGATをアジアで著名なものにしていくにはもっとメンバーを増やすべきであろう。
b)技術交流をさらに促進する。達成を分かち合い、知的財産権を尊重して協力をしあう。
c)中国、日本、韓国は古来からの印刷の歴史を互いに考慮して行く。例えば、平等・友好という立場をもとに同じ土俵にたって相互利益のためにやっていく必要がある。歴史というものは、その国のものだけに止めておくものではなく、世界に紹介していく必要がある。このような勉強会、討論を通して、理解が深まると思う。
d)
印刷の専門雑誌・新聞や定期的な出版物を交換する
e)
中国では中国語が話され漢字が使われるように、漢字の標準化、簡素化が行われている。
f)
メンバーは専門的、多面的な印刷の調査を専門家が互いに訪問し合って、技術交流をはかり、技術セミナー、展示発表会を行う。
g)
このメンバーは他の国際的な印刷の専門活動にも参加する。
21世紀はアジアの時代である。中国の発展はアジア、世界の発展と切り離して考えることはできない。
(注:1外務省資料より) WTO(世界貿易機関:World Trade
Organization)は、ウルグァイ・ラウンド交渉の結果1994年に設立が合意され、1995年1月1日に設立された国際機関です。WTO協定(WTO設立協定及びその附属協定)は、貿易に関連する様々な国際ルールを定めています。WTOはこうした協定の実施・運用を行うと同時に新たな貿易課題への取り組みを行い、多角的貿易体制の中核を担っています。
事務局はジュネーヴ(スイス)。加盟国は134ヶ国・地域(EUに関しては、15の構成国に加えてEC(欧州共同体)が独自に加盟国の地位を有し、ECがその構成国を代表して交渉を行っている)。現在、ロシア、中国、台湾等、30ヶ国・地域が加盟作業中。
2001/03/12 00:00:00