PAGE2001カンファレンスのC5セッション「カラー標準化の新たな挑戦」は,モデレータに(株)富士通研究所の臼井信昭氏,スピーカーにアドビシステムズ(株)のPeter Constable 氏,(株)プロ・バンクの庄司正幸氏,および(有)カラーズの平原篤邦氏の合計4人で展開された。
ICCプロファイルに対応していないDTPソフトを探すほうが難しいほど,ICCベースのカラーマネジメントの仕組みは,確固たる地位を確立しつつある。その反面,ユーザの立場での運用を考えると常にデバイスプロファイルが必要なCMSの仕組みは必ずしも有利であるとは言えない。例えば,デザイナが手元で印刷の仕上がりをシミュレーションしたいと思ったときには,印刷プロファイルが必要となるが,クリエイティブ作業の段階で,印刷条件(印刷機【印刷会社】,紙,インク等々)が確定していることは極めて稀であろう。また,シミュレーションの精度を求めると,さまざまな印刷条件の組み合わせのプロファイルを一つ一つ作成する必要があるが,作成や更新の手間やコストにしても,作成したとしても膨大な数のプロファイルを管理することを考えてもあまり現実的とはいえない。
カラーマネジメントが幅広く普及していくためには,ある程度標準的なプロファイルというのが求められてくるだろうし,カラーマネジメントされたワークフローの構築にあたってもデバイスプロファイルと標準化とをうまくミックスさせて考えなければならないだろう。
アドビシステムズ(株)の米国本社のPeterConstable氏からは,標準化のひとつの考え方として,カラーワーキングスペースという概念が紹介された。これは,グループワークでクリエイティブ作業をするときにベースとなるカラースペースを共有化しようというものである。Photoshop4では,RGBのカラースペース=ユーザが使っているモニタのカラースペースであり,極端な話モニタの数だけ固有のカラースペースが存在していた。これでは,グループで色の共有化は難しいので,デバイスとカラースペースを分離して考えて,カラースペースはみんなで同じものを使い,モニタで見るときには,各自が使っているモニタのプロファイルを利用して表示させるという仕組みを提唱している。またアドビでは印刷用途向けのカラーワーキングスペースとしてAdobeRGBを推奨している。
PeterConstable氏からは,その他に米国の印刷色標準であるSWOPの解説とPhotoshop6.0,Illustrator9.0,InDesignの3つのDTPソフトでのカラーマネジメント環境の話があった。
RGBは入力信号として用いられることが多いので,色空間を定義する条件そのものが実用上問題になることはあまりないが,CMYKは,あるインキをある紙に転移した結果を人間が主観的に評価するので,CMYK値を一意に規定しようとすると,その作成条件が非常にシビアに問われることになる。そのため万人が納得する標準のCMYKカラースペースを作成することは大変難しく,カラーマネジメントを普及させることを考えると,理想的な標準CMYKの追求よりも,厳密さと手軽さ,品質とコストとの兼ね合いといったビジネス的な視点で考えた方が近道かもしれない。
(株)プロ・バンクの庄司正幸氏からは,契約印刷条件としてのICCプロファイル活用という話があった。印刷プロファイルを単なる色合わせのツールとして使うのではなく,クライアントへの品質保証のツールとして戦略的に使おうというもので,ICCプロファイルに製版・印刷のノウハウを盛り込み付加価値をつければ,他社との差別化を図れるのではないかという提案である。
現在,JPCのカラーマネジメント部会が中心となり,カラープリンタでの印刷シミュレーション実験を行っており,その内容の報告があった。カラーマネジメントはまだまだ概念が先行しており,実運用が追いついていないという認識から,まずは実際に色が合うかどうか現場の中で試してみることを重視しているという。それから校正刷りではなく印刷物を最終ターゲットとすることから,印刷機のキャリブレーション(安定管理)が何より重要ということで,繰り返し再現可能でなおかつ高品質が得られる印刷条件を検証中である。また,契約印刷条件をうたうからには,誤差の許容範囲を明確にしておくことが重要ということである。
プロファイルベースのカラーマネジメントの前提条件はデバイスを安定(キャリブレーション)させることであり,印刷機の数値管理の重要性が高まっている。
(有)カラーズの平原氏からは,(社)日本電子製版工業会で作成した「NDK工程管理用デジタルテストチャート」の解説があった。同チャートの特徴は,従来からの一般的管理手法であるCMYK各色インキのベタ濃度管理ではなく,網点面積率75%における反射濃度管理用に設計されていることである。75%網点を管理することにより,階調表現とグレーバランスの的確な管理が実現できるという。また,テストチャートのデジタルデータのCD-ROMが添付されており,チャート購入者は,自社のニーズに合わせて自由に加工が可能である。また,印刷見本はジャパンカラーに整合させながら作成したものであり,ジャパンカラー対応プロセスインキとジャパンペーパー(アート紙)が使用されている。
そして,平原氏からの問題提起として,日本の慣習として,印刷オペレータは校正刷りに目視で色合わせすることが日常業務であり,これは,印刷機を「動かす」ことが仕事である。一方で,カラーマネジメントや標準化というのは,印刷機を安定させて「動かさない」ことが仕事となる。日本人の器用さが,標準化には仇になっている。また,クライアントが色を決定する現状のフローは,平台校正が基準となっており,校正刷りの色で善し悪しを判断しているので,印刷機側はその色に合わせ込まざるを得ない。本機と校正機の間のドットゲイン量の違いが色再現の違いとして大きな問題となる。スキャナの色分解カーブの設定も校正機を基準としていることが多く,たとえ「ジャパンカラー」といった印刷の標準色が決まっても,画像の色を決定するフローを変えない限り,印刷色の標準化は難しいのではないか。日常的に仕事が流れている中で,新しいフローに切り換えるのは並大抵のことではなく,標準化以上に大きな課題であるという。
平原氏の問題提起に対し,会場からは,CTP導入時が切り換えの大きな契機となるのではないかという意見が出された。
2001/03/13 00:00:00