富士写真フイルムにおられて、ロチェスター工科大学に行かれた大田登氏は、色は人間の感覚である視覚・聴覚・味覚・臭覚・触覚のうちで唯一、科学として定量的に扱えるから工業的な応用・発展の広がりがあるという旨を述べておられた。どうしても人間と言う生き物が光センサーであることから、定量化といっても絶対的なものではないが、光の刺激に対する応答量(感覚量)には次のような特徴があるという。
第1に、応答に個人差がない(あるいは少ない)。第2に、応答同士の足し算が成り立つ(加成性)。個人差がないとは、白昼の明るさ、曇り空などの認識は共通していることを指し、足し算は、電球と蛍光灯を両方点灯すれば、足した明るさに見えることをいうようだ。これは他の五感にはない特徴である。そのため色の科学は古くから発達し、今日の仕事のベースとなる三原色や、分光感度などの理論ができた。
色(測色)の定量化を総合したのが1931年のCIEであり、工業的な発達は各方面に及んだし、定量化のモデルもCIEの何々がいっぱいあるように、世界的な取組みがなされてきた。その延長にカラープリンタの隆盛や、ICCプロファイルの活用や、カラーマネジメントがあるわけだ。
とりわけカラー画像がデジタルで扱われるようになって、アナログの処理に比べて画像に対する任意の加工が行えるので、写真のような自然画像も「写真」ではなく「思い通り」に表現される方向にある。過去の画像ハンドリングの経験値はデジカメやプリンタにも何らかの実装がされるようになり、素人が使ってもそこそこの再現ができるように進歩している。
一方で従来では画像レタッチは職人的で感覚的な領域であって、いくらPhotoshopが優れていようが、画質の決定は人間の判断によるとされていた。しかし人間の感覚が要か不要かの二者択一で考える必要はない。素人が簡便に使える機能をプロの道具にも適応させて、プロから単純な作業を減らすとか、プロの手助けをする道具を作ることは意味ある。これは過去はスキャナのセットアップなどに使われていたようなソフトに限られていたが、もっと広い範囲に広がって行く可能性がある。
色の計測データは従来の色を扱う各工業分野での蓄積が、他の分野の応用にも役立つようになるだろう。物体などの分光反射率のデータベース、各照明器具や自然環境の光のデータなどがレタッチのアプリケーションの中でも参照できるようになれば、レタッチのやり方も変わるだろうし、レタッチを行う人や局面も変わるであろう。
それからさらに画像の品質の評価にも定量的な分析は広がっていき、画像はいじってから結果を評価するのではなく、「こうあるべき」というパラメータを設定したあとで人が若干補正するようなフローの逆転もあるだろう。デジタル時代はカラー画像にとっても新たな出発点といえるかもしれない。
JAGAT テキスト&グラフィックス研究会 会報156号より
2001/05/02 00:00:00