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顧客満足へのステップ:バリアブル印刷

●プリンティングとつくものはみんな同じ目的

木版の時代から考えても、印刷物はもともと幅広い需要があるものだったが、活版印刷以降の技術の発達で設備化したために、かえって印刷物の供給が限られてしまったのが近代の印刷史であった。通産省の工業統計における印刷とは、謄写版や複写業を含まないものと定義されていることにその一端が現れている。しかしオンデマンド印刷の時代にあっては、電子写真のプリント出力とオフセット印刷の境界はなくなる。従ってかつての印刷業の売り上げだけを見て社会的な印刷需要を推し量ることは次第に意味がなくなる。

オンデマンド印刷の位置付けとしてよく引き合いに出されるのは、例えば商品の開発から、量産販売、発売中止からサポート中止に至る全商品ライフサイクルを通じて、一貫したドキュメントの提供システムが構築できることがある。以前はライフサイクルの時期ごとに印刷物の品質、納期、必要量が異なるために、それぞれに適した印刷方法を使いわけていた。つまり一つの商品情報に関しても、コピー、社内印刷、軽印刷、オフセット印刷、などいくつかの印刷システムとそのための前工程を複数持つとか管理をせざるをえなかった。

ところが前工程はDTPになってどこでも同じドキュメントデータを扱うことができ、プリントは卓上プリンタでも版下出力でも数百〜千dpiになって品質的な差も解消し、ページデータはPostScript/PDF他一般的な形式でさまざまな出力機器に出し分けられる。こうして一貫したドキュメントシステムを用意して本来業務のサポート能力を高めると共に、トータルなコストダウンができる。この方法はマニュアルの分野では定着した。

つまり、印刷専門業者がもつ特定の印刷設備の性能によって、その設備の得意とする品質の印刷物を作って提供するのが従来型の狭義の印刷ビジネスである。それに対して、デジタルになったページデータをベースに、CTPはもとよりデジタル印刷機からプリンタまでを駆使して出力形式は何でも対応し、印刷物が必要になった段階で、その時々のニーズにふさわしい出力をして、必要な形態で届けるというサービスが登場しているのである。

このように解釈すればオンデマンド印刷は従来の印刷と関わりをもつ。逆にオンデマンド印刷を手がけるのであれば、従来の特定の設備中心からサービス中心に視点を変えた広義の印刷ビジネスを始めなければならない。このようなビジネスは、かつての謄写版や複写業が印刷産業のサービスの隙間から起こったのと似ていて、やはり印刷産業の外縁から起こってきている。

一般にオンデマンド印刷と呼ばれるものは多様な解釈があって、ショートランカラー印刷を指している場合や、製本まで一貫処理して冊子をジャストインタイムで提供をするもの、1部1枚でも出力するサービスなどなどあるが、こういった高機能プリンタ応用の中でオンデマンド印刷のユニークさを最も活かしたのがページバリアブル印刷である。

ちょうど伝統的な版を使う印刷が、版上のイメージの大量忠実複製を使命にしてたのと反対に、各ページごとに内容を変化させるわけで、「バリアブル」は「変えられる」という意味もあるが、プリントに至る処理としては「変数」という意味のほうがぴったりかもしれない。つまりページの一部分が変数になっていて、各ページごとに異なる内容が代入されて印刷されるものと考えてもよい。

●OneToOneマーケティング

ページバリアブル印刷が注目される理由は、一括大量生産方式の印刷やプリントよりも、相手に的確な情報を伝えることができると考えられたからである。手紙のような私信めいたメッセージングや、相手に合わせた訴求対象の絞込みを、コンピュータの仕掛けで手間をかけずに行い、相手からのレスポンス率を高めることができる。つまりバリアブル印刷はOneToOneマーケティングや顧客サポートと相性がよいと考えられ、特にOneToOneによる販売促進の面から注目を集めた。

一方で技術的にOneToOneを見ると昔からあるものである。それは請求書や領収書の処理の流れと同じようなもので、それに個別の文字メッセージや図版を添えて、例えばクーポンやダイレクトメールや座席の案内のついたチケット発行などは行われていた。つまりOneToOneとかバリアブル印刷は、実現手段として電子印刷は使っているものの、その背後にはデータベースに可変データ部分を入れておかねば、領収書と同じ手間で処理できない。

しかしDMなどモノの加工はこのような仕掛けでできるようになっても、それをビジネスで活かすにはマーケティング側のIT化というのが大きな課題である。つまり顧客からどのような個別情報をとりこんでくるか、それを整理してシステムに入力し、またそれらに対応して発信するところのコンテンツ制作やレイアウトなど表現の段取りが必要になる。

今まで大量印刷の際にはパンフレットの内容は一通り用意すればよかったPRの文言が、バリアブル印刷に対応させるためには顧客をいくつかのクラスに分けて、それぞれにふさわしい文言を用意しなければならず、販促担当者の仕事は何倍にもなる。そもそもそのように販促をケースわけしてプランできる担当者がどれだけいるのかということも大きな疑問である。

中途半端なOneToOneはかえって逆効果にもなる。顧客の個人ごとに提供情報を選択するというのは、従来の印刷物のカタログのように皆に同じ内容を丸ごと与えるのに比べて、限定して与えることなので、よほど相手がありがたみを感じるようにしないと、単に情報をカットして与えられたと映り、丸ごともらった方がよいと言われてしまう。

的確なOneToOneをするには、顧客の購入時点の情報を多く取得するのは当然として、顧客を追跡して足りない情報を埋め合わせて行かなければならない。例えば男性が女性用の靴を買った場合に、男性の属性と商品には関連はなく、例えばその靴を履く女性の誕生日とか何かの記念日かなど、男性と女性との関係が捉えられなければ次の販促に役立てることはできない。

このようにOneToOneマーケティングは出力機やコンピュータがあればできるものではなく、データの蓄積と分析をベースに行われるものなので、例えシステム提案はできたとしても立上げや、それを使った効果が現れるまでには時間がかかるものである。そのために今日のパーソナライズされたDMは、「あなたのバイオリズムは…」のようなノベルティ的なものでお茶を濁すケースが多く、あまり信用されているとは言い難い。

しかしそのようにバリアブル印刷を即売上向上に結びつけるのではなく、広義の印刷サービスとしてとらえると、さまざまな応用が考えられる。それは従来の大量印刷がされた後でクライアントなり印刷物を使う人が処理していことがバリアブル印刷の対象になるからである。例えば保険のように複雑な申込書は、予め申込者が記入すべきところを営業が調べて入力しておいてからプリントアウトし、それを申込者が「校正」するという流れにかえるとスムースに進む。

このようなフォームの類や、アフターサービス充実、大量印刷物に少ロットの刷り込み印刷をしているようなものを、販促権限責任を各営業所にわたしてパーソナライズ的な分散印刷に切りかえるなどバリアブル印刷は非常に広い応用があり、またビジネスとの密着度が高いことから、ビジネス用プリントの主流になるかもしれないものである。

●進むシステム化

冒頭に述べたように、結局プリンティングとつくものは方式は異なってもみんな同じ文脈の中にあるのであって、バリアブルプリントも出力機に対してはフレキシブルに対応できるように準備しなければならない。基本はワープロの差し込み印刷のようにソフトウェアで可変データに対応し、規模の異なるさまざまな出力機が使えるような方向にある。

差し込みの方法はいろいろあり、データをレイアウト前に差し換える方法、レイアウト後でRIP処理前に差し換える方法、RIP処理後の画像データで差し換える方法などである。実際には出力機メーカー側からバリアブル対応が発達した経緯により、出力に近い方つまりRIP後データの差し換えが最初に利用され、次第に前工程側で差し換えるように移ってきた。

レイアウト後でRIP前のデータを元にRIPに近いところで差し換えるのがEfiの方式である。この場合はレイアウトを大きくは変えられないのはRIP後処理と同じだが、データは飛躍的に軽くなる。これをより一般のパソコンソフトに近いもので実現するのがPrintShopMailである。さらにこれより以前のレイアウト前に差し換えるものは、サイズの異なる要素の組み合わせでも自動レイアウトするもので、なかなかレイアウトの微妙なバランスはとりにくく、まだ発展途上であるといえる。

また従来は出力機メーカーごとに独自のバリアブルのフォーマットを決めていたが、それではバリアブル印刷が発展しないので、PPML(Personalized Print Markup Language)という共通の差し換えルールが、PODi(Print On Demand initiative)という団体を中心にして普及されつつある。PODiは,1996年にAdobe,Apple,Scitexの3社で始まり,2000年11月の時点では、Adobe、Efi、NEXPRESS、CreoScitex、Xerox、HP、IBM、XEIKON、BARCO、SCITEX、PAGEFLEX、LEXMARK、OCE、CANON、EPSON、HITACH KOKI、MINOLTA、その他14社で、オンデマンドプリンティングの主だったところを網羅している。

PPMLは,可変データのRIPへの渡し方を定義しようというもので、差し替えのたびにRIP処理をしなくとも一度のRIP処理で何回でも利用できる。2000年のDRUPAでAgfaやXeikon,Adobeのブースでデモが行われた。また,ページの要素である写真やイラストのリソースが手元になくても,WEB上などそれがどこにあるかを記述しておけば取得できる。

PPMLはXMLで記述し、PostScriptやPDFをサポートしていて、従来のDTPの世界とWEBの世界の両方で使えるように考えられている。プリントに必要なマスク処理、画像の一部の切り出し、拡大・縮小、回転といった機能をXMLで指定できる。 PPML対応の最初の製品はXeikon社のデジタル印刷機CSP320D/CSi320DとEmergeというフロントエンドである。

PPMLのデータを作成できるオーサリングツールには,Datamerge,Private-I,Personalizer-Xなどがある。DatamergeはQuarkXPressのXTensionで、XPress上でバリアブルのオペレーションがすべてでき、レイアウトの変化に合わせてテキストのリフローができる。Private-Iも元Xeikon系のソフトで,PrintShop Mailは機能的に似ていて直接データベースからデータを取ってくることができる。AGFAが開発したPersonalizer-XもQuarkXPressのXtensionで、ver3からPPML出力ができる。

一般のパソコンで扱えるPrintShop Mailから、DTPと親和性の高いもの、WEBとの連動、またOPIに対応して本格印刷にも対応するもの、印刷のワークフロー管理であるJDFでのPPMLのサポートなど、バリアブル印刷のシステム化に関する道具建ては整いつつある。バリアブル印刷はIT化の中で印刷のさまざまな局面に関係し、多様な取組みがされつつある分野である。

(出典:社団法人日本印刷技術協会発行「プリンターズサークル 2001年6月号」より)

2001/05/29 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会