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B2Bの準備を怠って損をするのは誰?

最近のワープロソフトやDTPソフトも参考にしているJISの「日本語文書の行組版方法」では,文字列を行頭行末に揃えて,途中の字間を均等に広げる処理を「均等割り」と定義している。この機能は「頭末揃え」と呼んでいたところもある。また均等割りは,名簿の人名のように,字取り組みを意味していたところもあった。目次の見出しとノンブルの間にリーダを詰めるような処理を,写研のユーザは「SF」といっていた。

 このように,D印刷とT印刷では,同じ事をするにも慣例として違う言葉を使っているとか,同じ機能でもシステムの開発者ごとに呼び方が異なる。当然ながら技術の変遷が活字,写植,電算写植,DTPと進むにつれて,そこでの言葉も少しづつ変遷してきた。また古くは発注者ごとに独特の指定の表現があるとか,関東と関西で現場の言葉が異なる,また「トラッピング」とは製版では毛抜き合わせに関連した処理の用語であるのに,印刷現場では重ね刷り時のインキの乗り具合を指すなど,グラフィックアーツの伝統的な言葉は特定の限られた人々だけの間で使われてきたものである。

 これは欧米でも似た状況にあり,同じ英語でもイギリスとアメリカではかなり異なる用語を使うように,技術は共通していてもローカルな言葉が多かった。これはEUの統合化でSGMLが公式文書に使われるような時代になると,国際的な共同作業をする上での障害になり,何年も前からグラフィックアーツ用語の標準化活動が始まり,それは日本にも及んで,ISOやJISの規格や文書化の活動も行われるようになった。

 同じようなニーズは昨今の印刷関連のeビジネス化の流れの中でも起こりつつある。印刷物制作と言う仕事をネットワークを介して協同で行おうとすると,最初に問題となるのは作ろうとする印刷物の仕様(JobTicket)をコンピュータに入力して,その情報を皆がシェアすることで電子調達も可能になる。そのためには定義され公開された共通の用語を参照してJobDefinitionをすることが必要になる。

 つまり,印刷のワークフローを完全デジタル+ネットワークにして,中間の管理コストがかからないようにしていくためには,他の業界が行っているような業界標準作りの努力をしなければならない。そのワークフローが稼動する仕組みは,印刷関連機器やITのベンダーが努力し始めているが,そのワークフローに流すデータについて,またそこで流れるデータの管理ソフトについては,日本は非常に遅れていると言わざるを得ない。

 それは日本の印刷業界には今後の業務がeビジネスになるのだという意識が薄いことと,一部の製造業の顧客のみしか印刷会社に電子調達の圧力をかけていないからであろうが,今業界で話題であり各社とも取組みが盛んなISOの次は,B2Bになる可能性は高い。そういったeビジネスの機が熟すときに,業界標準の十分な準備ができていないとどうなるのだろうか。 それでもきっとなんとかB2Bには乗れるのだろう。ただしそこでは印刷関連用語は英語のまま使わなければならないとか,日本固有の印刷仕様は表現できないなどの制約があるかもしれない。これはちょうどDTPの立ちあがりの時期に日本の業界はDTPを軽視していたために,我々に必要な仕様が製品に反映されなかったことからも想像できることではないだろうか。

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テキスト&グラフィックス研究会 Text&Graphics 159号より

2001/06/18 00:00:00


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