製版フィルム廃棄損害賠償請求事件判決
平成13年7月9日、東京地方裁判所にて平成7年以来争われてきた製版フィルムの所有権についての訴訟判決が出た。判決は、ほぼ印刷会社の主張を認めた内容となっており、製版フィルムを廃棄した印刷会社に損害賠償の責任はないとした。
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本裁判事例は、印刷会社にとって大変貴重な「生きた教材」である。JAGATでは永く版権、知的財産権等の啓蒙活動に取組んできた。今回の裁判動向についても専門家の方々と共に注視してきた。本件の被告である印刷会社のご理解・ご協力のもと、「権利問題研究会」の方々によって、今回の判決内容を概観し、判決から学びべきこととして、実務上の留意点についてまとめていただいた。なお、直接的に製版フィルムの所有権に関係しない事件の一部を省略した(本稿ではあえて原告・被告とも実名を伏せてあります)。
目次■1.本事件の概要/2.裁判所の判断/3.判決から学ぶべきこと
■本事件の概要
1.事件番号
平成7年(ワ)第23552号損害賠償請求事件(A事件)
平成9年(ワ)第25536号損害賠償請求事件(B事件)
2.当事者
A,B事件原告(以下、原告) X出版社
A,B事件被告(以下、被告) Y印刷会社
3. 原告及び被告の請求内容
(1)A事件
被告は原告に対し、3600万円及びこれに対する平成7年12月22日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(2)B事件
被告は原告に対し、2500万円及びこれに対する平成9年12月5日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
4.事案の概要
原告が被告に住宅専門雑誌の印刷及び製本を依頼したところ、被告がその過程で作成した製版フィルムを廃棄したため損害を被ったとして、原告が被告に損害賠償を求めた。
5.両者に争いのない事実
(1)原告は被告に以下の住宅専門誌を発注し、被告は受注した。
住宅専門誌1(平成5年11月初旬発注、同年12月3日発行)
住宅専門誌2(平成6年5月初旬発注、同年6月5日発行)
住宅専門誌3(平成6年10月下旬発注、同年12月15日発行)
(以下、この契約を本件請負契約、これらの雑誌を本件雑誌という)
(2)被告は、製版フィルムを製本完了後に廃棄した。
6.原告の主張
本件製版フィルムの所有権は原告の所有であり、そうでないとしても、原告と被告との間には、本件製版フィルムを引き渡す旨の明示又は黙示の合意が存在しており、被告が原告に無断で本件製版フィルムを廃棄したことは信義に反する。
東京地裁平成7年6月16日判決は、業者が製版、印刷、製本を全体として請け負い、代金の支払いを受けているときは、作成した製版フィルムの所有権は注文者にあると判旨しており、被告主張の裁判例は、単純な受取書の印刷を内容とする請負契約に関するもので、本件と事案が異なる。
(1)被告が本件製版フィルムを破棄したので、増刷のために製版フィルムを再作成した。その結果、下記のとおりの製作費相当額の損害を被った。
住宅専門誌1 3022万円
住宅専門誌2 3801万9600円
住宅専門誌3 4266万2400円
なお、その内訳は、いずれも写真撮影費用、取材コピー・経費、デザイン・編集管理料、版下作成料、写真製版費用である。
(2)よって、原告は被告に対し、住宅専門誌1につき内金1800万円、住宅専門誌2につき内金1800万円(以上の合計金を請求する訴訟がA事件)を、住宅専門誌3につき内金2500万円(B事件)の賠償を求める。
7.被告の主張
(1)製版フィルムは、請負者が請負の過程で自己調達した材料をもって作成した中間生成物であり、請負契約の給付物でないから請負者の所有に帰すべき。東京地裁平成2年3月22日判決、東京高裁平成2年12月26日判決を参照。
(2)本件製版フィルムは印刷という本来の目的を達成して役割を終えている。何年も前の情報しか載っていない本件雑誌を再版することの可能性は疑問で、得べかりし利益の立証がない。再版の際の広告掲載料は支払われず、販売の利益は少なく、どの程度売れるかも疑問。
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2001/08/03 00:00:00