カラーマネジメントとは
カラーマネジメントとは色を管理する方法・手段全般のことである。しかし現在のカラーマネジメントシステムは,色のマッチング(色合わせ)を目標にしており,CMS=カラーマッチングシステムだと理解しておいたほうがよいだろう。
カラーマネジメントの基本用語
[表色系]
表色系とは色のデータを表す物差しだが,デバイスインディペンデントというところがポイントで,絶対尺度ではないということに注意したい。特にRGBはビットの割り振りをしているので絶対的な値のように思ってしまうが,実際はそうではない。
[濃度]
濃度は,一般に透過光・入射光を常用対数で表したもので,印刷ではベタ濃度管理に使われている。ベタ濃度を管理すれば印刷の皮膜が管理できて品質が安定するが,製版まで含めたオープンな環境において濃度ですべてを管理するのは難しい。
[ガマット]
ガマットとはモニタ,印刷,インクジェットプリンタなどそれぞれの色再現域を表すものである。
[色差]
色差は確かに色と色の距離を表わす数値だが,人間の感覚との関係はいろいろな条件によって左右されるということなので,一般にいわれるΔの値は微妙である。
[ICCプロファイル]
ICCプロファイルの実体は変換テーブル(Look Up Table)である。各デバイスに対して,例えばCMYKのある値に対するLab値が書かれている。重要なことは一つのプロファイルに対して必ず双方向(例えばデバイスがCMYKなら,CMYK→Lab,Lab→CMYKという具合)を定義しなければならないということである。実際に利用するときは,2つのデバイスのプロファイルを使って,例えばRGBから一度Labに落としてCMYKに変換するということになる。
[インテント]
RGBとCMYKなど異なる色空間の間では互いに存在しない色があり,色変換を行う場合は,これらの色を何らかの方法でマッピングしなければならない。ICCではその方法をレンダリングインテントとして,知覚・彩度・相対・絶対という4つが規定されている。
色合わせをするということは,プリンタ,印刷物,モニタのそれぞれ異なる色空間を互いに縮めたり延ばしたりして合わせ込むことである。4つのインテントは,その延ばし方・縮め方の方法である。結論からいえば,知覚的インテントを使うのがよいようだ。これははっきりした定義はないのだが,大きな色空間を,小さな色空間に合うように全体的に圧縮してしまうものである。
カラーマネジメントポリシー
カラーマネジメントのポリシーとしていろいろな設定がある。独立したプロファイルを使う設定や埋め込まれているプロファイルを使う設定などである。
現在ではTIFFやPDFのデータにICCプロファイルを埋め込むことができるが,きちんと理解しないまま運用すると二重にプロファイルをかけてしまうことになる。データの埋め込みプロファイルはすべて外して,ドライバやRIPで最終的にかけるとか,RIPもドライバも対応していないのであらかじめデータを変換してから運用するということがあるだろうが,社のワークフローとして,絶対的なルールを決めておかなければならない。
残念ながら現時点ではICCプロファイルをそこまで認識できるRIPがなく,埋め込まれたプロファイルをすべて無視してしまうものもある。おそらく今後は,埋め込まれたものを優先するか,RIPの設定を優先するかを選べるようになるだろう。
条件の問題
問題提起をしたかったのは,現在のCMSは現実性としては高いレベルにあるが,やはり限界があるのではないかということである。
個々のデバイスのガマットの差をどう吸収するのか。プロファイルの編集が必要だが,そのほかにも,測色機の光源と蛍光灯の標準光源が5000Kというときにそれらが本当に同じなのかどうかという問題がある。細かい点でいろいろと合わせ込みする必要があるのではないか。また,測色機同士でも差があるのではないかという問題もある。
さらに,紙に含まれる蛍光増白剤の影響も考慮しなければならない。インクジェットプリンタなどは蛍光色を入れて青白いものを使っているが,こういうことが測色機にどう影響しているのかまで考えなければいけないのではないか。
ICCプロファイルの仕様の問題
ICCプロファイルの仕様については,オープンなフォーマットであるのはよいが,拡張タグが付けられるという問題がある。つまり,ある領域がブランクになっていて独自に拡張できるようになっているのである。この部分を使えば便利ではあるが,クローズドなシステムになってしまい,他のシステムにもっていくと読めなくなる可能性がある。大日本スクリーンは標準タグしか付けていないので,大日本スクリーンのICCプロファイルはどこにいっても読める。ただ,基本的に,タグを付けるのは,そもそも仕様に不十分な部分があるからである。
運用形態の問題
運用形態としては,プロファイルデータを埋め込むかどうか,また,デバイスリンクプロファイルというプロファイルをどう捉えるかということがある。キャリブレーションとキャラクタライゼーションを区別していくとして,本当に印刷条件が一つひとつ変わったときにプロファイルをすべて作り直さなければならないのかどうかが重要なポイントである。機械と紙と刷り方と,各種の要因を考えていけば,たちまち数十種類の設定が必要になってしまう。そのときに本当にプロファイルをその数だけ用意しなければいけないのか,またすべてプロファイルによって運用するのか,あるいはインキ特性だけ取り出してプロファイルを作るのか。場合によってはデバイスリンクプロファイルという方法も使ってよいのではないかといった点は,今後考えていかなければならない課題だろう。
印刷産業界では,製版と印刷は別の分野と考えられてきたが,デジタル印刷やCTPによってその区別がなくなっている。そこで必要なのはトータルで効率的なカラーマネジメントである。さまざまなメディアが混在する中で,印刷メディアが十分な役割を果たすには,とりあえずは現行のプロファイルを用いたカラーマネジメントを導入しなければならない。そして問題点をきちんと把握した上で,試行錯誤しながら精度の高いカラーマネジメントシステムを構築しなければならない。
2001年3月26日techセミナー「色を科学でとらえる」より(テキスト&グラフィックス研究会)
2001/08/17 00:00:00