「特殊印刷」最新事情
特殊印刷は,それほど目立ってはいないが雑誌,POP,ポスター,DM分野での利用が徐々に増えている。雑誌では特殊印刷,特殊加工の表紙や広告ページあるいは付録の効果が高く,利用する顧客が増加している。
特殊印刷でも利用頻度が高いスクラッチ印刷は,より使いやすくなり新しい技術で利用用途もさらに広がってきた。感熱印刷や立体印刷は一時代前のものに比べて各段に鮮明なフルカラー画像が再現できるようになり,的を射た企画の中で使えば付加価値印刷というにふさわしい効果が期待できる。また,オフセット印刷でできる範囲も少しずつ広がってきており,より効果的に顧客が求める成果が得られる手段として提案していきたいものである。
「特殊印刷」は「付加価値印刷」
特殊印刷は,それほど目立ってはいないが雑誌,POP,ポスター,DM分野での利用が徐々に増えている。
特殊印刷は,一般の印刷物ではもてない人間の五感に訴える要素を印刷物に加えて表現効果を強め,求められる印刷物としての機能をより良く発揮させることを可能性とする,つまり,印刷物の価値を高めることができる手段である。そのため,大日本印刷(株)は,従来,「特殊印刷」といってきた呼称を「付加価値印刷」に変えたという。
雑誌売り上げを左右する特殊印刷
いま,特殊印刷が増加して効果を発揮している一つの分野が雑誌である。特に若者向けや女性向け雑誌の表紙,広告ページや付録に,さまざまな特殊印刷,特殊加工が使われることが多くなった。
消費者ニーズが多様化する中で対象を絞った広告・宣伝をしなければ満足な販売成果が得られにくくなってきているが,雑誌は市場のセグメントが明確な広告媒体としてその位置を高めてきた。その中で,広告クライアントからは広告ページをより効果的なものにするために,実物見本添付などの特殊広告企画の要望が強まってきていた。しかし,雑誌物流に支障が生じるとの理由で,雑誌の広告ページやその他の部分での特殊印刷,特殊加工利用にはさまざま制約があって,そのニーズを満たすことができなかった。
一方,長期低落に陥っている雑誌の売り上げを何としてでも挽回したい出版社側では,広告環境の変化に対応するとともに規制緩和によって低迷する雑誌売り上げに弾みをつけて売上増加に繋げたいということから,雑誌基準の改訂,規制緩和がなされた。
若者向け,女性向け雑誌で特殊印刷,特殊加工が増加してきた裏には以上のような背景があるのだが,実際にそのような企画を盛り込むと雑誌の売れ行きや広告効果に明らかな違いが出るという。
人気の「光る企画」と「折り加工」の表紙
雑誌のロゴに部分的にホログラムなどの金属光沢の箔押しをしたり,表紙全体に転写フィルム蒸着紙を用いた雑誌は,書店やコンビニでの棚置きでも目立つ。雑誌の表紙を片観音にしたり内三角折り(
表1を内側に2回折り返す)にしてその裏側に広告を掲載する企画も増えてきているが,広告クライアントにとってはより目立つ広告ができるし,出版社にとっては表紙の広告面を増やすことで収入増加ができるからだ。現在,雑協基準に合う特殊な折り表紙企画は10種類程度ある。
効果的な現物添付とポストイット広告
雑誌の特殊広告として現物添付の要望が強い。それだけ効果があるからである。
規制緩和によって,重さ3トンまでの荷重に耐えられるという条件を満たせば液体化粧品の現物添付も可能になった。
広告ページを目立たせる一つの方法で最近評価が上がっているのが,「ポストイット広告」である。ポストイットをクーポン券として使えるものにしたり,地図や電話番号,URLなどを印刷して注目度をアップするために使われる。また,隆起印刷(バーコ)の上にさらに金属光沢のラメを振り掛けて光沢をもたせ,非常に目立つグラフィック表現にした広告も化粧品広告として受けるという。
また,ある種の雑誌では付録の内容で売れ行きがかなり左右されるということで,CD-ROMあるいは工夫をこらした特殊印刷のノベルティ商品を付録に付けることが増えている。
使いやすくなるスクラッチ印刷
特殊印刷には多くの種類があるが,
表1は,JAGATが発行している『特殊印刷はやわかり図鑑』に掲載されている特殊印刷一覧表の内容を一部省略して掲載したものである。
全部で40種類がリストアップされているが,当然のことながら,それなりの効果(クライアントの満足)が得られて使用用途が広いために頻繁に使われる特殊印刷もあれば,利用用途が限定されて普段あまり見かけないものもある。
そのような中で,かなり使われている代表がスクラッチ印刷である。用途は,抽選券,ゲームカード,スクラッチくじ,雑誌付録,くじ付きハガキ,キャンペーン用品と幅広い。
スクラッチ印刷は,オフセットで全体の絵柄や隠蔽する部分を印刷後オフニスを施し,さらにその上に図柄を隠蔽する銀インキをスクリーン印刷で印刷するのが一般的である。この方式では表面を削ったときにインキカスが出るため,食品関係での販売促進ツールとしては利用不可とされてきた。そこで,グラビア印刷でできる粘着テープを使って隠蔽しているインキを剥離する「セロハンテープオフ印刷」が開発されたが,2001年になってスクリーン印刷でできるセロハンテープオフ印刷用インキが発表され(東洋インキ「TT164SS銀」),小ロットにも柔軟に対応できるようになった。
大日本印刷は,インキカスが出ないスクラッチ印刷と同じ機能を発揮する新しいインキを開発した。印刷するインキにはコインよりも硬い材料を含ませており,印刷物をコインで擦ったときにコインのほうが削れてインキが印刷されている部分にコインの金属粉が付いて絵柄が浮き出してくる。鉛筆出し印刷(デコマット)のコイン版ともいえるものである。
表現効果が格段に向上した立体印刷,感熱印刷
立体印刷には,
表1に示すようにメガネなどで覗くと立体に見える2色立体印刷,光の干渉で絵柄が見える2D/3Dホログラム,見つめていると立体絵が見えてくるステレオグラム,そしてレンチュキュラーレンズを使った立体印刷がある。
ステレオグラムは,立体で見せたい文字,絵柄などをスキャナで入力し,Macintoshなどのコンピュータ上で画像を処理して印刷をするが,今ではインターネットのWebサイトで,その作成方法に関する情報を提供するサイトや作品を公開するサイトがあるというほどのものになっている。
レンチュキュラーレンズを使った立体印刷では,600dpiという高精細印刷をすることで,かなりの枚数の画像が,1枚1枚明確に分離されてはっきり見えるようになってきた。感熱印刷についても,一時代前のものに比べて格段に鮮明なフルカラー画像が再現できるようになっている。いずれも見る者に強い印象を与えることができ,的を射た企画の中で使えば付加価値印刷というにふさわしい効果が期待できる。
進むオフセット印刷化
しかしながら,現実には,特殊印刷はそれほど使われてこなかった。費用や時間の問題だけでなく,取っつきにくさがあるからだ。
オフセット印刷でできるものが少なく一般の印刷業が自社生産をしにくいこと,外注で処理しようとしてもどこでできるのか,あるいは価格や納期を含めた取引条件がよくわからない,特許権などの情報が不十分といったことがある。
特殊印刷をオフセット印刷化しようという努力は継続してなされてきて,香料印刷用インキについてはかなり前から平版枚葉印刷機だけでなくオフ輪印刷でも可能なインキが出されている(例:東京インキ「オフセット用香料インキ・ハイセント」)。パールインキ印刷も平版印刷用のインキが出されているが,平版印刷用のインキ粒子径はスクリーン印刷インキの粒子径に比べて小さくせざるを得ずパール効果がやや落ちるという。感熱印刷,フォトクロミック印刷などの平版印刷化も試験段階では可能になっており,スクラッチ印刷を平版印刷機とインラインで結んだコーターで行う方式も考えられてきている。
従来,もっぱらスクリーン印刷で行われてきた「クリアー印刷」(表1の「スクリーン厚盛り印刷」印刷物の強調したい部分あるいは全面をUVインキで艶印刷する)と同様の効果を狙った平版印刷+インラインコーティング方式は,一般印刷の世界でも採用され始めている。特殊印刷でも平版印刷が可能な分野は広がってきている。
必要なWebの使い方,営業品目露出の工夫
今回,本稿の執筆にあたって,インタ―ネット上のホームページ,JAGAT会員企業の企業録,そして特殊印刷で最も多く用いられるスクリーン印刷業者の団体である全日本スクリーン印刷協同組合連合会のホームページ(
http://www.jspa.org/)および機関誌に掲載されている組合員名簿について,70種の特殊印刷,特殊加工の名称をキーワードに,該当する印刷・加工をしている企業を検索してみた。その結果,バーコード印刷,パッド印刷,転写印刷はそれぞれ5社から6社が抽出できたが,これらを除く特殊印刷に関して抽出できた企業は非常に少なかった(
表2)。
それだけ需要が少ないということかもしれないが,例えばスクリーン印刷業者のリストでは「プラスチック印刷」「金属印刷」「スクリーン印刷全般」といった抽象的な表記が多く,紙媒体でもWeb上でも,品目キーワードによる検索で抽出できない企業がかなりあるように思われる。Webの使い方や営業品目の露出の仕方に工夫が必要な企業が多いということである。
かなりクリアされている特許
特許の期限が切れているかという点では,スクラッチ印刷,液晶印刷,発泡印刷,隆起印刷(バーコ),香料印刷,蓄光印刷,ホロペーパー,パールインキ印刷などでは既に特許が切れているということのようで(注:本件については読者それぞれで最終確認をしていただきたい),制約は少なくなってきているようだ。
今後は,印刷物のリサイクルや安全面への配慮がますます重要視されてくるが,特殊印刷に使われる材料は,一般的な印刷インキ成分とは異なるし金属箔なども使用され,特にリサイクルの観点からどうなのかは気になるところである。
これに関しても個別に確認が必要だが,少なくとも雑誌の企画に採用されてきた特殊印刷についての問題指摘は今のところほとんどなく,従来,塩ビを使っていたフィルム利用のノベルティ商品を別の材質に変えるといった判断をした企業が2,3社ある程度という。
重要なのは,やはり「企画」
以上のように,より使いやすくより効果的な利用ができるようになった各種特殊印刷物だが,それを使い切れるか,顧客の満足を得られるかどうかはやはり「企画」次第である。「初めに特殊印刷ありき」ではなく,顧客が求めるコミュニケーションの目的やテーマが何かを理解してそれに合わせた特殊印刷を採用することが重要だし,一般印刷に比べてコスト高になるから採用することによる効果をしっかり見極めての企画でなければならない。そのためには,日常的にこれら印刷物の使われ方などを意識して見ておくことが役立つ。また,実際に取り組む場合にはこの分野に強いデザイナーと組んで進めるよう考えておいたほうがよい。
以上,特殊印刷の最新事情を紹介したが,特殊印刷それぞれの効果・特徴や企画のポイント・実用例,制作方法と注意点などの詳細は『特殊印刷はやわかり図鑑』を参照していただきたい。
なお,最後に,本稿の執筆にあたって貴重な資料,情報をくださった(株)大日本印刷,(株)大日本テクタス市谷に感謝したい。
(出典:社団法人日本印刷技術協会 機関誌 「JAGAT info 2001年9月号」より)
2001/09/13 00:00:00