わが社の「環境報告書2001」(第1回)
〜環境負荷低減へのチャレンジ〜
清水宏和
(清水印刷紙工株式会社 代表取締役)
「第5回環境レポート大賞」(主催:財団法人地球・人間環境フォーラム,社団法人全国環境保全推進連合会,後援:環境省)の受賞作品が2001年11月に発表された。「環境レポート大賞」とは優れた環境報告等を表彰することで,環境情報の開示と環境コミュニケーションを促進し,企業の自主的な環境保全の取り組みを促進することが目的で,今回で5回目を迎える。応募作品259点から環境報告書部門において初めて印刷会社が受賞した。優秀賞に凸版印刷株式会社,奨励賞に清水印刷紙工株式会社が選考された。 特に奨励賞は,「規模の大きくない事業者やサイトの環境報告書や取り組みを始めて間もない企業の工夫や努力」に対して与えられるものである。
そこで,環境を自社の経営戦略として取り組んでいる清水印刷紙工の企業としての姿勢,取り組みの背景を中心に紹介する。具体的なインキの共同開発・印刷現場を通しての取り組みについては、「わが社の『環境報告書2001』〜環境負荷低減へのチャレンジ・インキと印刷現場での取組み〜をご覧いただきたい(12月27日アップ予定)。
●地味だが環境は根本課題,努力が認められる
当社は2000年11月にISO14001の認証取得を受け,2001年11月に特段の問題点の指摘を受けることなく初めてのサーベランス審査を終了した。2001年3月,当社の環境負荷低減を目指す製品の紹介や,環境マネジメントシステムの構築状況などをまとめた最初の『環境報告書』を発行,「第5回環境レポート大賞」で奨励賞を受賞し,各方面から多くの反響が寄せられた。
受賞にあたっての講評では,「従業員26名の小規模企業の環境報告書である。パッケージングでの環境対応型商品の開発の重要性を認識し,取り組むとともに,環境マネジメントシステムを立ち上げ,それに組み込んでいる。目的,目標もきちんと立てられ,実績把握もされており機能していることがわかる。はがき大の用紙16頁でコンパクトにまとめており,印刷会社として当然かもしれないが,ユニークな工夫を凝らした作品である。中小企業でISO14001の認証取得をした企業が環境報告書を作ろうとする際に参考となるものである」との評価を受けた。
『環境報告書』の位置付けとしては,これからも環境保全活動の記載だけにとどまらず,幅広く当社を知っていただけるような会社案内の代替として毎年発行していく方向で考えている。社外に向けては,環境保全・製品開発の両面で少しでも成長しているところを理解してもらえるように,また社内向けには毎年少しでも前進するためには何をしなければならないかを考え続けることを目的として,今後も継続的にリリースしていきたい。
●他社との違いが環境負荷低減に
私個人と,会社における共通の基本的思考として,とにかくどんな事柄でも構わないので,まずは他人と違うことを追求することに全エネルギーを集中させるように心がけている。すべてにおいてオンリーワンになることは不可能だが,自分がハンドリングしているものの中に,一つでも二つでも人との違いがはっきりとわかるものがほしいと常々考えている。7年前に社長に就任して以来,他人と違うことを追求するという観点から試行錯誤を繰り返した結果,印刷業においての差別化を環境負荷低減に見いだし,未開の分野であるここでなら鮮明な違いを出すことができるかもしれないという考え方に帰結した。
印刷業では,一般的に顧客の要望そのままに製品にするというのが常で,印刷会社から固有技術や固有製品の提示を積極的にするということは極めて稀である。しかし,この技術については負けない,この製品はパテント化されていて他社では作れないなど,自社の強みを前面に押し出したセールスを展開することに活路を見いださないことには,今後ますます厳しさを増すであろうサバイバルゲームに飲み込まれて潰されてしまうと感じていた。このいい知れぬ恐怖感を少しでも軽減するために,環境負荷低減を志向した製品作りに軸足をおいていこうと決心した。
●中小企業こそマネジメントシステムが必要
社内のパッケージングデザインにおける究極的な環境負荷低減とは何か,また製造工程においては印刷インキを成分から見直して市販されている物より環境負荷低減に貢献できる物を新たに作れないか,などの問いかけから幾つかの製品が生まれ,お客様の賛同を得て商品化が具現化するようになり,この一連の流れをシステム化できないかと考えるようになった。
システム化を考えたのは,先代社長が7年前に急逝した際に,社内のほとんどが属人的に,即ち社長の頭の中で動いていたことによる混乱に1年も振り回されてしまった苦い経験があったことに起因している。先代社長を責めるつもりはないし,中小企業のトップというのはおそらくかなりの部分で同じような経営スタイルであることを考えると仕方なかったと思う。しかし,会社が危機に瀕してしまった時に,仕方なかったで片付けられるほど世の中は寛容ではないので,何らかの枠組み=システムを構築する必要性に迫られていた。数年間の迷走の後に,比較的自主性が重んじられているISO14001=環境マネジメントシステムの構築が当社のような組織体ではベストであると結論を出し,その準備に取り掛かることにした。
●環境マネジメントシステムは経営者が作り上げる
環境マネジメントシステムの骨格は社長自身が作り上げなくてはならない。社長自身が他人と違うということに力点をおけば,そのようなシステムを構築できると思う。システムの随所に社長の考え方を色濃く反映させることが可能で,それをきちんと明文化し,契機とすることができると思う。
私は先々代社長である祖父とは幼い頃から成人するまで,朝から晩まで片時も離れることはなかったので,自分の魂のほとんどは祖父が形成してくれたと感じているし,他人と違うことを念頭において行動せよと毎日のように言い聞かされて育った。先代社長である父には,海の上でヨットというスポーツを通じて自然環境の尊さを存分に学習させてもらったことから,環境問題に真剣に取り組む機会を与えてもらえたと実感している。私自身に未完成な部分が多いのは隠しようのない事実だが,2人の教えを今の時流に合うように修正しながら,部分的に自分自身の考え方も織り交ぜて,当社の環境マネジメントシステムの中核を3人の協力作業で考えたつもりである。システムの中に先人たちの貴重な教えを残せると思うし,自分が考えていることについても社内に形にして残しておきたいと考えている。社長に万一のことがあった時に,まずは社員がより所にできる根幹をきちんと整理しておくこと,欲をいえばさらに細かい事柄についてもシステムという枠内で整理をつけておくことが肝要であると考える。
当社のような規模の企業で,社内の細かいデータまで公開することを訝しく思う周囲の声もあった。おそらく印刷業界で当社程度の会社サイズで環境報告書を発行しているところはないだろう。即ちこれが他人と違うことを追求するというコンセプトに合致している。
私は自分が存在している限り,先人に教えられたとおりに他人と違うことを追求することにすべてのエネルギーを投入していきたいと考えている。それが不十分であると少しでも感じた時には仕事を辞めようと自分に向けてコミットメントしている。
2001/12/25 00:00:00