日本の成熟化、先進国の印刷の成熟化という状況のもとに、印刷のビジネスも曲がり角にあり、いままでのビジネスは縮小しつつある。これを脱却するには印刷の再構築が必要で、技術、サービスなどいろいろな角度から印刷の再定義をし、将来につながるようにビジネスの視点を据えて、新たな将来ビジョンを掲げなければならない。
ビジョンなしでもDTP化やデジタル化は取り組んでこれたが、それは生産の合理化でありコストの低下というところしか目に見えた効果がない。今ほど制作コストが下がってくると、発注者側から見ると印刷のハンドリングコストが下がらないことへの批判が高まっている。その典型的なものが郵送料で、印刷の費用を上回ることも珍しくない。また印刷物の在庫を抱える側からすると、モノとしての管理コストがかかる。
だからいくら印刷コストを下げても需要の喚起にはつながらないし、かといってモノのハンドリングコストを下げるのは難しい。amazon.comなどは書籍の流通倉庫をもち、そこでは人件費を最大限に圧縮できるように、倉庫の管理システムの構築に金をかけ、他にない方法を編み出したという。しかしこういうことができるのは特定の会社だけであるとすると、出力前の段階でのソリューションを考えなければならない。
発注者側ではデータベース、ネットワーク、オンデマンド印刷など、ITによるソリューションに切り替えて、WEBやPDFでの技術サポートのように、必ずしも大量印刷物配布をしなくなる場合もある。しかし大量印刷物を作る場合であっても、受発注は早晩SCMに対応しなければならなくなり、オンデマンド、データベース、ネットワークの利用は必須になる。要するに印刷物になるのであろうとなかろうと、ITを前提にビジネス・サービスを再構築するしかないのである。
ここからサービス面でフォーカスすべき課題というのも浮かび上がる。IT化は受発注共通の課題である。IT化の成果がコストを下げるだけでは新たなビジネス領域は生まれないので、周辺の業務をIT化にあわせて取り込んで、パフォーマンスを上げるようなビジョンが必要である。
IT化が必至であるとすると、写植や製版が統合されてDTPになったように、DTPはその印刷物を必要とする業務の処理システムと統合されていく。統合されていくのに対して「待ち」の姿勢ではコストダウンという変化しかない。印刷物を使うプランニングや印刷発注準備やデータ管理などのIT化を推し進めるプロジェクトに積極的に関わらなければ、DTP周辺業務をビジネスとして取り込むのは難しい。
こういう取り組みの例には、校了後の印刷データをオフィスで再利用するようなデータベース化が以前からあった。今日、印刷の最終データをXMLで扱えるようになれば、こういう試みは以前よりスマートにいくだろう。印刷の仕事をもらおうという姿勢から、顧客にどのような貢献ができるか、という視点でシステムを見直すように変わらなければならない。
テキスト&グラフィックス研究会会報 Text&Graphics 175号より
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2002/01/28 00:00:00