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デジタルメディアの中での自分の立脚点を明確に

ITバブルとか、ギガヘルツのクロック神話は終わりとか言われても、コンピュータは半年で新製品という状況が続いている。CPUはまだムーアの法則の上を走っている。この状態は少なくともあと数年は続くとみられる。
しかし安いマシンを大量に販売という時代は終わった。デジタルの意味は少しづつ変わり、今までやっていたことのデジタル化が武器になるのではなく、その上でどのような新たなパフォーマンスを見せつけるのかが問われるようになった。

世の中にはデジタル化に疲れたという人もいれば、これからが勝負であると手ぐすね引いている人もいる。疲れた人は過去のビジネスをデジタルにどう載せ替えたらいいか発想ができないで、昔を懐かしみ、今後さらに苦労が続くことを嫌っている人である。しかし他方には、デジタル化したことを土台に次にどのような応用展開が広がるのかを発想する人もいる。過去の情報産業を引き継いだままでデジタル化の将来の姿を描くことは、どうも無理難題のようである。

例えば、ユビキタスコンピューティング(いついかなるところでもコンピュータ・ネットが使える状態)などは、数年前まではXeroxやMITやNTTばどの研究所が夢想するテーマでしかなかったものが、携帯電話にCPU+JAVAというものが巷にあふれ、あっという間にビジネスの課題になってしまった。また映画のCG活用などのように、近年に様変わりするものが次々と登場してくる。数年先の事業プランなら、今は存在しないものも想定しなければならないかもしれない。

とはいえ、ブロードバンドだ、何だと、これらのニュースを手広く追いかけても、結果としてはハズレのものの方が多い。しかし中には当たっているものもあって、一体何を信用して、何を無視すればよいのかわかり辛い。しかしそれこそメディアのプロの嗅覚というかリテラシーの問われるところである。だから日々のニュースとは別に、デジタルメディアの性質に関するトータルな意識を高めておかなければならない。

デジタルがメディアに及ぼす影響は、今日起こっている現象を観察していてもなんとなく察せられるものである。例えば昨今パソコン関連で流行るものにTVの動画キャプチャがある。パソコンで数十GBのハードディスクを何に使うのかと思いきや、TVの録画かよ、という気がしないでもないが、DTPの次が動画であることははっきりしてきた。これが日本の放送という巨大メディアの壁に穴を開けることになるかもしれない。

TVのデジタル化は放送局がデジタル放送で意図していることとは別に、見る側の使い方がが一人歩きすることもあるだろう。ビジネスでは、パソコンでTVを見る人を対象に、インターネットで双方向を意識した番組つくりや、タイムセールなどの商品販売やマーケティングが広告代理店を通さずに勝手に行われるようになるだろう。

コンテンツに関しては、今でもTVの放送内容や出演者が2chでタタかれることがあるように、TVの内容が録画して画像付でじっくり批評されると、TV出演者は晒し者になるかもしれない。当然録画によるイリーガルな情報再配布も伴う。そのうち行き過ぎに対しては一定の規制がされて是正されるだろうが、「行き過ぎ」が起こることはそこに活力があることでもある。そこに新たな秩序が必要なことと、そこに力が湧いて出ていることの両方を理解するトータルな見方がないと、その先が読めない。

この底力を考えると、きっとパソコン通信やWEBに続いて、動画メディアとか私的放送がボトムアップで育つ時代がくるのだろう。そこでは知的財産権の一進一退があり、既存の放送とは重ならないような、一部重なるような微妙な関係の中で電子ミニコミは市民権を獲得していくと考えられる。新聞の中にチラシを折り込んだように、新メディアに付随して新たなビジネスがきっとあるのだろう。

デジタル技術は既存の壁を壊してきた。レコードがCDとなり、パソコンも自動車もCDを利用するようになった。DVDは家電でもあり、パソコンでもあり、ゲーム機でもありという状況である。しかしデジタル技術が新たなビジネスを興すのではなく、デジタルが既存のメディアの壁を破壊して、新たなビジネスにチャンスを与えるのである。新たなビジネスの中でも、前述の「底力」によって自立して、デジタル技術の破壊力に便乗して、コミュニケーションの本質に寄与するものが生き残る。

技術そのものは常時流れている。そればかり見ていても右往左往してしまう。自分が立ち帰るべきところをはっきりさせないとクロスメディアはあり得ない。まずはデジタルメディアの目利きになって、なるべく早い段階で実験的に関わりつつ、自分のコアコンピタンスを強め、クロスメディアの中でのゴールを明確に掲げることが、うまい航海法なのだろう。

関連情報 : PAGE2002では、「コミュニケーション再構築」をテーマに、紙媒体と電子メディアの今後の関係を探るコンファレンスを、2月6日(水)から3日間開催します。また電子ペーパー、有機EL、その他これから登場する高精細液晶などの特別技術展示コーナーも設けます。ご期待ください。

2002/01/16 00:00:00


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