本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。

ビジネスとして成立したオンデマンド印刷分野

デジタル印刷システムの新製品は次々と出されてくるし、オンデマンド印刷市場が数年後にはかなり大きな市場になる、といった相変わらずの情報も出てくるが、オンデマンド印刷ビジネス全体として大きな進展は見られない。しかし、「最適な印刷物をジャスインタイムで提供して欲しい」という意味での「オンデマンド印刷のニーズ」はさらに強くなってきており、一部ではビジネスとして成り立っている市場もある。ただし、「数千万円のデジタル印刷システムを使って儲かる市場が、今までの印刷業のビジネスモデルで成り立つような形ではない」という状況はいまだに続いている。

JAGATは、デジタル印刷システムを使った小ロット印刷やバリアブルデータ印刷だけがオンデマンド印刷と考えているわけではないが、以下に、デジタル印刷システムを使ってビジネスとして成り立っている4つの例を紹介する。
共通項は既存の印刷市場において問題解決を提供していることである。決して新しい市場ではない。小ロット印刷では、印刷以外の機能の提供や他社と組んだ販売と生産の分離というビジネスモデルがポイントである。大ロットのバリアブルデータ印刷では、拡大する既存市場のニーズに、総合的なサービス提供の一環としてバリアブルデータ印刷を組み込んでいるところがポイントである。

1日300点の名刺受注

B to Bの通信販売企業が印刷会社と組んで、名刺,レターヘッド、封筒といった端物印刷のビジネスを大きなものにしつつある。
昨年11月の時点で、名刺の受注は 1日平均300点という。顧客への通常売価は1980円だから、通販会社の月間売上は月30日として約1800万円になる。この商売を、契約している印刷会社側から見てみよう。印刷にはドキュテックを使って、多分10面付けで印刷することになるだろう。300点のうちの100点を受注したとすれば、{100点×2面(表裏印刷)×100枚}/10面付け=2000枚通/日の印刷となる。年中無休を基本として1ヶ月30日の稼動とすると月600,000万通しの仕事量である。

端物印刷市場を大きなビジネスにした例は以前から存在していた。マイプリントの「イージーオー」、「融合セールス」そして「集中生産」を組み合わせたビジネスモデルでの展開である。同社の場合は、小売業やサービス業等10業種以上に販売(受注)チャネルを張り巡らしてイージーオーダーの仕事をかき集め、ハガキの印刷に4色オフセット印刷機等の高額設備を使って集中生産するという形で数百億円規模のビジネスにした。上記の例は、すでに150万以上の事業所が登録している通販企業だから、密度が薄い市場から効率的に仕事を集めることができるという点が大きなポイントである。ちなみに、契約している印刷会社の1社は、極小ロットのカラー印刷を対象にフル装備の4色機を使った「オンデマンド印刷」で大きな利益を出している。

データ管理能力が売りの取扱説明書のPOD

(有)オンデマンド印刷(名古屋市)は、2001年半ば時点で11台のDocuTechをフル稼働して取扱説明書をはじめ一般商用印刷,書籍,説明書,DMなどで,最大1000万カウント/月の印刷実績を持つビジネスを展開している。
同社は工作機械メーカーの取扱説明書の印刷からスタートした。従来の外注処理ではやむを得ず余分な部数の印刷をしたり、最新の改定情報を反映したマニュアル作成ができない、あるいは新製品リリース時に印刷工程に時間が掛かりすぎるので原稿執筆工程に十分時間がとれないといった問題を抱えていた。これはどこでも見られる問題である。

同社の成功のポイントは「電子版下管理システム」である。このシステムは,従来の印刷会社でいう在版管理業務を電子化したものだが、冊子の中に色紙が入る場合,例えば「何ページ目に青い用紙を差し込む」といったことまでの木目細かな管理もできる。データのバックアップやデータ検索の仕組みもきちっと作り、上記の問題解決と同時に顧客側の在庫ゼロ,省スペース化を実現した。 さらに,電子データをコンバータによってTIFFファイルの形にできるのでワンソース・マルチユースも可能にしていること、オンデマンド印刷で求められるスピードに対応するため、社内に一般印刷業でも持たないような本格的な後処理設備を完備して,素材から完成品まで社内で終了できる体制を整えていることも大切な要素になっている。このような専門機能を持つことによって、印刷業からの仕事の受注も含めて仕事が確保されている。

低稼動率でも成り立つオンデマンド印刷ビジネス

大判プリンタを使った極小ロットカラー印刷も、一つ一つは大きな商売にはならないが、そこそこに利益を出せるビジネスとして定着している。
小部数の大判ポスター市場に対しては、1枚当り単価が非常に高くさまざまな方法が開発されてきた。しかし、いずれも、現在、大判プリンタが実現している価格に比べれば1桁高い価格で、納期を含めて市場一般が納得するものではなかった。

大判プリンタによる大サイズの小部数印刷が成立しているポイントはふたつある。ひとつは、極端に言えばデータが用意されていれば、そのデータをプリンタに流し込むだけで製品ができることである。つまり人件費の要素が非常に小さい。もうひとつは設備価格が安くなったことである。
あるサービス提供業者の価格表で見ると、インキジェット方式の大判カラープリンタによるA倍版の印刷価格は11000円(コート紙での印刷)である。この価格と固定費としての人件費、設備費用等から設備の稼動率はそれほど高くなくてもそれなりの利益が得られる点がこのビジネスの特長である。ただし、大判プリンタに掛ける仕事が身近に豊富にあるわけではないから他社の下請けも前提として考えることになる。

非現金決済の増加に伴って伸びるDPS

いま、印刷産業の中で最も伸びているひとつの分野は、主にフォーム業界企業が取り込んでいるデータプリントサービスである。
例えば、トッパン・フォームズの品目別売上高推移を見ると、既存のBF事業の売上高はほぼ横ばいだが、DPS(データプリントサービス)は年率2桁で伸びている。DPSとは、同社が1991年に商品化した糊付けハガキ「POSTEX」などのハガキや封書フォームに、顧客から受け取ったデータをパーソナライズ化するところから、そのデータの印刷、発送までを一括アウトソースで受けるビジネスである。データのプリントには高速のデジタル印刷システムが使わる。

このビジネスの背景には、カード利用や携帯電話の普及によって、購買時点で現金を授受する以外の決済方法が増加し、郵送するDMの需要が過去5年間で24億通も増加していることがある。印刷の仕事として今までにない新しい仕事ではない。
このように拡大する既存市場に対して、いままで蓄積してきたデジタルデータ処理能力を活かし、デジタルデータの処理、加工技術を当てはめたりそれを使った印刷だけではなく発送までをアウトソーシングで受けることがこのビジネスのポイントである。ただし、IT化の進展によって、請求明細はウエッブ上で見るようになって請求書の内容は簡略化され、このような需要は数年後にはかなり減少すると見る当事者もいる。

(印刷マーケッティング研究会主催セミナー「オンデマンド印刷ビジネスを展望する」より)

PAGE2002 におけるオンデマンド印刷のテーマは、2月6日 PAGE2002基調講演分科会「オンデマンド印刷」と、2月7日出力トラックで採り上げます。

2002/01/18 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会