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成長を続けるWEB〜ユビキタス・ネットワーク時代に向けて〜

PAGE2002コンファレンス メディアトラック 「成長を続けるWEB」セッション(2/7 E1)では,野村総研 中島 久雄氏,ソニー 黒葛原 寛(つづらはら・かん)氏,パワー・トゥ・ザ・ピープル 有吉 昌康氏,日経BP 竹田 茂氏をお招きし,Webサイトの成長を振り返りながら,これからのユビキタス・ネットワーク時代に何ができるのか等のご講演をいただいた。


ITの利用動向について−ユビキタス・ネットワーク時代に向けて−

(株)野村総合研究所 情報通信コンサルティング2部 上級コンサルタント 中島 久雄氏のご講演より

野村総研の中島氏からは,消費者のインターネット・携帯電話等のIT利用動向,主要IT市場の普及予測,ユビキタス・ネットワーク化とその本質についてのお話があった。
2000年3月まで(第一次インターネット時代)は,電子商取引ブームもあり,ニュー・エコノミー論議も醸し出された。しかし,近年のITバブル崩壊後は,期待と現実が乖離している状態と言えるだろう。

このような状況下でも,PC利用者は確実に増加し,生活者の45%がPCインターネット(職場含む)を利用している。特に男性の20〜40代では,PCインターネット利用者が60%を越えている。携帯電話を加味すると,インターネット利用者は57%まで跳ね上がる。若者の中には,携帯電話だけでメール,インターネットをする者も多い。携帯とPCを併用している人も増加傾向にある。

最近では,ブロードバンドも普及し始め,家庭PCインターネット利用者の15%に達した。2001年9月の調査時点では,CATVインターネットが11%,ISDN回線(フレッツを除く)が5.1%,ADSLが3.9%の普及率である。インターネット利用者は,ブロードバンドの利用意向が強く,約半数がブロードバンド利用を望んでいる。野村総研の予測では,2006年には全世帯の約50%が,ブロードバンド世帯になるとしている。

EC(電子商取引)の利用経験者も増加し,ECでの年間平均利用金額は,4.6万円/年となっている。携帯電話の有料コンテンツ利用者も増加し,月平均のコンテンツ利用金額は,455円となっている。主要IT市場は,2006年では,13.9兆円になるだろうと予測されている。

これからのユビキタス・ネットワーク時代には,「いつでも,どこでも,誰とでも,何とでも」が,技術要素となる。ブロードバンド,モバイル(無線),常時接続,IPv6,バリヤフリー・インターフェースがキーワードになるだろう。2005年には,ユビキタスネットワーク環境が整備される。「非PC利用」という日本独特の特長を活かし,少子化・高齢化も加味した新サービスの開発が期待される。時間や場所の制約を超え,情報を活用できる社会の実現も近い。


Webサイト 今後の方向性

ソニー(株) ブロードバンドネットワークセンター ホームページ室 統括部長 黒葛原 寛氏のご講演より

ソニーが手掛けるWebサイト数は,約800サイト。音楽,映画サイトもアーティストごと,タイトルごとに作っているので,そのくらいの数に及ぶ。ソニーのホームページ室は,ソニーグループサイト群のサイトマネージメント的役割を果たし,グループ全体のコーポレートイメージ向上を図っている。

Webサイトは,もはや情報入手手段としてだけでなく,コニュニケーション手段,企業活動の一環として,また他にもさまざまな目的を達成する手段として,市民権を得たと言えるだろう。ソニーでは1994年より,Webサイトを情報発信ツールとして採用した。
2000年からは,各種eビジネスの実用化の手段として,Webサイトを位置付けている。

ネットワーク環境も,アナログ電話モデムから,ISDN,ADSL,CATV,FTTH・・・と変貌している。また,有線に加え,ワイヤレスサービスも普及している。ネットワーク端末も多岐にわたり,PC,携帯電話に加え,ゲーム機,PDA,カーナビ,各種家電などが次々に出た。
今後は,PCよりも携帯電話やゲーム機,カーナビなどでWebにアクセスするような時代がくるだろう。例えば,ネットワークハンディカムなども面白いだろう。思いもよらない端末同士がネットワーク上でつながり,気が付いたら身の回りのほとんどのものが,ネットワーク端末になっていた,という日も来るかもしれない。

Webサイトは,単なる情報発信ツールから,コミュニケーションツールへと変貌している。電気,ガス,水道・・・のように,ネットワークも家庭に入り込むようになるだろう。他メディアとのシームレスな融合がなされ,「どこでも,誰とでも,何にでも」つなげるユビキタス・バリュー・ネットワークが実現される。
サイバー空間を利用した,バリヤフリーネットワークの世界では,Webを意識させない自然なGUIにより,ごく自然に,無意識のうちに,色々なネットワークにつながるようになるだろう。
必要なのは,コンテンツであり,そのコンテンツがどこから送られてくるものなのかは,消費者には関係ない。ワンソース・マルチ発信でも,ごく自然に,違和感なくコンテンツを楽しめる,ユビキタスネットワーク時代の実現も近い。


消費者間の情報交換と企業のマーケティング -P2Pコミュニティの台頭-

(株)パワー・トゥ・ザ・ピープル CEO 代表取締役社長 有吉 昌康氏のご講演より

パワー・トゥ・ザ・ピープル(以下,PTP)の有吉社長は,野村総研に10年間にわたり勤務。経営コンサルタント,企業・マーケティング戦略をご専門にされていた。2000年5月にPTPを設立,『消費者の消費者による消費者のための商品やサービスの評価サイト』を運営している。

このサイトは,様々な商品やサービスを,消費者一人一人が自分の視点からバッサリ切り,良いものは良い,悪いものは悪いと評価するサイトである。PTPは,メーカーにその声を届け,よりよいモノ作りやサービスをしてもらうことを目的としている。

PTP(会社名の略号とともにサイトの愛称)は,言わば,アメリカの「Consumer Reports」や日本の「暮らしの手帖」のWeb版で,様々な商品・サービスの評価をインターネット上で公開している。違う点は,「Consumer Reports」や「暮らしの手帖」がアナリストによる評価であるのに対し,PTPは,一般消費者による評価であるということだ。PTPでは,一般消費者による掛け値なしの客観的な評価を見ることができる。しかもそれはまさに「ホンネ」であり,一番信用できる情報なのである。

PTPでは,「批評の自由競争」という考え方を取っている。日常品から家電等に至るアイテムまでが項目別にランキングされ,一般消費者に支持されるものが上に来るシステムを採用している。このサイトは,評価の点数が一番高いものを探したり,納得がいくまで商品を比較することができるのが魅力である。
異色のものとしては,政党のランキングもある。今後は病院の評価もやりたい。我々一般人には病院の評価は難しく,横ヤリが入る可能性も高いが,病院をサービスとして捉えた評価を知りたい人は多いだろう。PTPとしては,そういうところにも果敢に挑戦して行きたい。

PTPにより,消費者の声が届かない業界や企業に対し,正直な評価や改善要求をフィードバックすることができる。一般消費者の声を反映させ,企業はより良い商品を開発し,サービスの向上をするようになるだろう。ひいては,それは一般消費者の利益につながることになる。ブロードバンド,ユビキタスの時代になると,いつでもどこでも高度なコミュニケーションが可能になるため,P2Pコミュニティが台頭し,消費者情報や消費者間の情報交換がますます重要な情報源となる。


Broadband Relationship

(株)日経BP インターネット局 企画部 企画部長 竹田 茂氏のご講演より

1994年からインターネットがヒートアップしたが,今はインターネットを冷静に見る時代に来たという感がある。情報リテラシーや社会インフラ,情報技術も変貌した2002年は,インターネットをもっと冷静にやろうと思っている。

個人的には,「インターネットは事業の鏡」であったと思う。世の中には,インターネットにより紙媒体が脅威にさらされる,と考える人もいるだろうが,そんなことは全くない。
電子出版の最大の間違いは,作り手側だけの一方的な押し着せで作られている,ということだ。紙の本でやっていることをなんとか電子化したい,と作り手は思っているだろうが,その考え方は全くユーザー側に立っていないのである。

単行本は,なぜあんなに心地良いものなのだろう? 軽くて持ち歩きにも便利であり,満員電車の中でも片手でパラパラとページがめくれる。出版社ごとの独自の書体も,マニアにとってはたまらない。そういう既存の本のすばらしさを,電子出版で再現できるのだろうか? 無理である。

電子出版の作り手は,なんとか既存の本のようにしたい,と努力しているだろう。その考え方がそもそも間違いなのである。電子出版にするのだったら,紙の本にはない価値を新たに創り出さなければならない。例えば,重要なエッセンスだけを抽出し,サマリー的に見せるとか,そういう付加価値を付けなければ,電子出版の意味はない。紙の本と同じことをしてはダメなのである。紙の心地良さを越えられるワケがないのだから。

「ブロードバンド」と聞くと,人々は何かものすごく新しいことができると期待をする。「ワンソース・マルチユース」などという考えもあるが,個人的にはそれはあり得ないと思っている。TVで見る映画をPCで見ると,とてもクールだし,何か不自然な感じがするだろう。さきほどの電子出版でもそうだが,人がコンテンツを見るときに,「不自然」な感じがあるものは,基本的にはダメである。これからは,デバイスで再現するときの心地良さを追求していくことが必要になる。不自然なものは,結局長続きしない。

インタラクティブTVも,個人的にはどうかと思う。疲れて家に帰ってTVを付ける。一方的に映像が流れ,何も考えず,ぼーっと画面を見ているだけの心地良さ。それが,視聴者参加型で,TVにいちいち反応しなければならないと思うだけでうっとうしい。

情報家電についても同じことが言える。冷蔵庫に保存する食品の賞味期限を入力し,期限が来たら知らせてくれる冷蔵庫はどうか? 主婦がいちいち賞味期限を入力するのか?おそらくそんなめんどくさいことはしないだろう。これはあくまで技術者的な考え方で開発されている。作り手側で良かれと思っても,使い手側は全く心地良くはないのである。

ずいぶんと否定的なことばかり言ってきたが,インターネットは,既存のものの心地良さを気付かせてくれる鏡だったと思う。これからは,ユーザー側の立場に立ったもの作りをする必要がある。出版社としては,これからのインターネット時代にどういう本を作るべきか,を考えていかなければならない。

2002/02/16 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会