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広がる有料コンテンツ

デジタルコンテンツのビジネスは、最初の試行錯誤の段階では苦悩の連続であった。しかし昨今、端末の高性能化やブロードバンド化の後押しにより、コンテンツサービスのアイデアはビジネスへと着実に発展しつつある。PAGE2002コンファレンス 「メディア:コンテンツの有料化」では,電子書籍や会員制のWeb、プリント・オン・デマンドなどのビジネスに関わる方を招き、実際に体験した失敗/成功の生々しい話をご紹介いただきながら、有料コンテンツの今後の可能性について熱い議論が交わされた。

 アイ・ビー・エス 代表取締役 桜井恵三氏はeBookの日米の動向と、電子書籍普及における課題について解説した。電子ドキュメント作成サービスを行うアイ・ビー・エスは1997年に電子書籍の制作と販売を行うebook.co.jpという社名の関連会社を設立した。5年間電子書籍を販売する中、桜井氏は昨今電子書籍の市場は整いつつあることを感じるという。(桜井氏講演資料 PDF:13KB)

 桜井氏は電子書籍が普及するための課題として、フォーマットの標準化をあげる。英語圏においてはMicrosoft ReaderやAdobe eBook Reader、日本ではAcrobat eBook ReaderをはじめHTMLやT-Timeなどのフォーマットで電子書籍が提供されている。このように、複数のフォーマットが存在すると、ユーザ側がフォーマットにあわせたビューアを用意することが必要となり、不便を感じる。また、小額課金の決済方法や著作権保護の仕組みも電子書籍普及には欠かせない技術課題である。

 2002年は、コンテンツを配信するための環境が整うと桜井氏は予測する。ADSLやCATVのような常時接続の高速回線はさらに家庭に普及する。小額課金の決済も実現し、Microsoft Readerの日本語版も登場すると予想される。大手の電気メーカーや印刷会社は高精細画面や電子ペーパーの技術開発に力を入れていおり、タブレットPCについては2002年内に登場するといわれている。

 ネットワークへ接続する端末は、PCだけでなく、タブレットPCやPDA、携帯電話など多様化することは確実である。そこで、出版社などコンテンツを保有するところでは、さまざまな媒体へ展開できるような準備としてXMLへの対応が急務であると、桜井氏は強調した。

 農山漁村文化協会 藤井宏一氏は、ルーラル電子図書館のサービスとビジネスについて紹介した。農業情報はデータベースと相性が良いという観点から、農文協は自社で発行する出版物のデータベース化を行い、会員制で利用するサービス「ルーラル電子図書館」サービスを開始した。農業技術はコンピュータ技術のように変化の激しいものではない。10年前の技術を生かすこともできる。その一方で、地方によって作物の作り方は異なる。データベースに情報を入れれば、過去の記事を「秋田県の技術」というキーワードで検索することができる。(藤井氏講演資料 PDF:295KB)

 ルーラル電子図書館の主なコンテンツは、農業技術の専門書である「農業技術体系」、農業雑誌「現代農業」、昭和初期の日本の食事を紹介する「日本の食生活」である。検索については、検索窓にキーワードを入力して検索する方法だけでなく、本の目次から検索するページを用意し、ユーザが欲しい情報に容易にたどり着けるような工夫をしている。検索結果は所在情報までは無料で公開し、本文は会員だけがダウンロードできる。本文はテキスト情報を主体にしたHTMLと紙面情報を正確に伝えるためのPDFの2種類から選ぶことができる。

 ルーラル電子図書館の会員は約2000名で、1年の会費は2万4000円、売上は年間約4000万円になる。一般的な宣伝は行っておらず、雑誌の現代農業に広告を掲載している程度である。インターネット自体が広告効果を持ち、検索エンジンでヒットしたコンテンツから雑誌の定期購読やルーラル電子図書館の会員に申し込むケースが増えてきている。サービスを開始する当時、雑誌の購読者が減るのではないかという心配の声もあがったが、紙とWebは相乗効果を生み、農文協のコンテンツビジネスは広がっているという。

ブッキング常務取締役左田野渉氏からはオンデマンド出版ビジネスの失敗と成功について話があった。ブッキングは出版流通の改善をめざし、日販が出版社29社によびかけて共同出資によって設立された。現在、書店から注文される本は4割しか読者の手元に届かない。そこで、品切れという環境を改善するため、在庫の無い本はオンデマンド出版して、読者に届けるというコンセプトでビジネスを開始した。(左田野氏講演資料抜粋 PDF:305KB)。

しかし、ブッキングが設立当初にかかげたオンデマンド出版のビジネスは低迷する。その原因として、左田野氏は(1)小部数のため売上規模が小さい、(2)写真などの印刷品質に限界がある、(3)取り次ぎに出版の主導権を握られたくない出版社が多い、という3点をあげる。

新たなビジネスモデルを模索する中で、ブッキングは、出版社に良いコンテンツを提案してもらうのではなく、読者が欲しい本の出版を依頼するという逆の発想で、オンデマンド出版を始める。復刊ドットコムというサービスでは、投票形式で復刊を望むリクエストが一定数以上集まれば、ブッキングが出版社に出版の交渉を行い、出版に結びつける。出版化が成功したら、読者はネット上で購入することができる。発行する部数はそれほど多くはないが、価格は元の本の1.5〜2倍と高めに設定されるので、利益をある程度確保できるという構造である。

復刊ドットコムは開始して1年程度であるが反響は大きい。現在、日々約150名の会員が入会し、全体で約5万3000人にのぼる。復刊のリクエストには1日200票が集まる。ブッキングでは、会員に対して毎週1回、復刊状況などを伝えるメールマガジンを発行している。Webに情報を公開するだけでは見る人の数に限界があるが、メールマガジンを発行すると投票した本の購入を後押しする大きな効果があるという。左田野氏はECを進めていく上ではシステム的にメールマガジンを発行し、会員とコミュニケーションを深めていくことが重要だと語る。

2002/02/17 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会