スキャナやプリンタの普及により,小ロット印刷物や極短納期物はオンデマンド(POD)化されつつある。経済環境の変化によりクライアントは在庫をもたずかつ他品種少量へ如何に素早く対応するか知恵を絞っているのである。一方,印刷側に於いてもCTPやDI機の導入でデジタル対応,短納期化がはかられ,一部印刷機器メーカからもオンデマンド機が上市された。
2000年のDrupaにおいても印刷業界と複写・プリント業界のせめぎ合いの構図が打ち出された事も記憶に新しい所である。印刷業界と複写・プリント業界がPODで激突を開始したとも言えよう。さてこの様な中,PAGE2002では印刷と複写・プリント業界が今後とも対立してゆくのか,又,オフセット印刷とPODの関係が今後どうなるのか,どう関係を構築すべきなのかをテーマとして討議を行った。
モデレータ・講師として複写・プリント業界から,株式会社リコー 画像技術開発本部 EA二リーダ 板谷正彦氏を,印刷業界からの講師としてハイデルベルグ・ジャパン株式会社 デジタル本部 本部長 宮城荘一郎氏より以下のお話しと討議がなされた。概要は以下の通り。
板谷氏:
PPC用紙の生産量推移からは成長にかげりが見られつつある。一方歴史的には情報関連の新技術(電話,ラジオ,TV,PC)が発明されるたびに印刷は危機に陥ったが,結局印刷量はその発明のために大きく増加した。複写機・プリンタ業界から見ると,この大市場は非常に魅力がある。ドキュメントのデジタル化がこの契機となったのである。デジタル化により従来の印刷とオフィスプリントの境界が崩壊しているとも言える。
特に顧客のビジネス手法の変化,省資源・無駄の排除,高付加価値化等がこの動きを加速している。ここでPODの利点について再確認すると,小部数印刷対応で経済性・環境への適合性が高い事,短納期,バリアブル・プリントでの高付加価値,グローバル・ネットワークへの対応等がある。電子写真技術やインクジェット技術等が画質,プリント速度ともに向上し,技術的にこれを支えているのである。そして液体現像方式等の改良等により技術的進歩はまだまだ可能と思われる。
宮城氏:
ハイデルベルグの歴史は品質重視の歴史であり,現在は加えて顧客重視で活動している。又,当社はトータルソリューションプロバイダーとして印刷会社のデジタルワークフローの確立を図るため,上流から下流までの各種製品群を提供している。さて電子メディアの投入時期を西欧での新聞用紙の使用量を調べると,電子メディアは印刷メディアの需要を喚起して来た事が分かる。つまり印刷メディアとeメディアはともに成長していると言えよう。
言い換えれば,印刷メディアはeメディアにとっても必要不可欠なコミュニケーションツールなのである。この認識のもと,当社はモノクロ高速デジタル印刷,カラー高速デジタル印刷,ダイレクトイメージング印刷,CTPオフセット印刷等のソリューションを今後も提供してゆく。特にデジタル印刷の将来性を考えると,デジタルカラー印刷の成長が大きく,次はデジタル白黒印刷であると考えている。白黒デジタル印刷に対しては先日,Digimaster9110 を上市し,またカラーデジタル印刷に対しては NextPress2100 を本年末に投入の予定である。
ディスカッション:
オンデマンドビジネスを考えると,現状は(1)既存印刷の単純な置き換え,(2)小部数・短納期対応,の2つであろう。逆に言えば,従来の印刷ビジネスモデルの中でオンデマンドビジネスが行われている。結果として比較的少数の成功者しかいない。印刷やPODという言葉が先行しているが,顧客の視点が乏しい。より顧客の立場でニーズを発掘してゆく事が重要であろう。この為には装置発想ではなくソリューション発想が大事である。メディアも含めて多様な対応も考慮すべきであろう
いずれにせよ印刷需要は今後,更に多様化する。又,電子ペーパ等OnScreenメディアも今後各種出てくるであろう。益々顧客の視点でニーズを発掘する事が重要となる。顧客の視点で考えれば印刷とPOD等のプリントは,プリント形態としても業界としても補完関係にあると認識すべきである。顧客,印刷業者,機器メーカが協力してwin-winのソリューションを実現する事が今求められている。印刷とプリントはせめぎ合うのではなく協力し共存する方向と考えるべきであろう。
2002/02/25 00:00:00