PAGE2002ではコミュニケーションツールの一つとしてのモバイルについて講演と討議を行った。
モデレータはモバイルメディアマガジン誌編集部の大沼 一志氏,講師とし日本IBMの竹村 譲紙,高岡短期大学の前田 和紀氏の3名の方々である。大沼氏には全体の動向を,竹村氏にはメーカとしての立場で,前田氏にはユーザとしての立場でご講演を頂いた。モバイル機器の活用によりライフスタイルやビジネススタイルが大きく変化しつつある事,特にネットワークにあるデータが増加しておりホット・スポットの活用によりビジネス・スタイルが大きく変容している事等が浮き彫りになった。以下,各講演内容,討議内容を記す。
大沼氏:モバイルが変えるライフスタイルという視点で考える。モバイル機器は電源容量の課題も随分改善されて来た。一方,最近の傾向として,モバイル機器に存在するデータが少量となる反面,ネットワークに存在するデータ量が増加している。このネットワークのデータをいつでもどこでも使えるのがモバイルの良さである。携帯電話を例にとっても,機能,サービスが大幅に改善され,場所によらず仕事が可能となった。
他方,このような普及につれ,モバイル機器を導入する事が目的化してしまい,導入後に使用されなくなったり,導入のガイドラインを整備していない為,導入後に私用で用いられる等の弊害も目立つ様になってきた。しかしモバイル機器の普及により時間・空間の概念が昔と様変わりし,ライフスタイルが大きく変化しているのが現状であろう。友人との待ち合わせ時に,会合場所を曖昧にしていても携帯で連絡を取り合う事で支障が無くなって来たり,音声のみならず文字伝達も高速で可能なため情報伝達が早く正確になった。まさに発展期に入った感がある。
竹村氏:メーカとしての立場で本日お話しする。昨年ADSL加入は200万世帯に達したと思われる。次は光の時代になると予想されているが,このような普及状況を考えるとデータを持ち歩く必要性は無くなっている。また自分の都合にあわせた身勝手な事ができるのがこのようなブロードバンドであり,携帯電話の普及により個人同士の直接的な情報伝達も可能となった。
このようにメディアが普及し,個人の自由になり,場所や時間をえらばず使えるとカルチャーや常識が変化する。インターネット,ブロードバンド,ワイアレス,モバイルはこの変化を推進する鍵である。IBMはこの認識でビジネスをおこなっている。市場規模を考えると,PDAは130万台の規模,携帯は6千万台,PDAはPCの10分の1の規模である。PDAに関しては「どう使うか」という点に対しアプローチできるか否かが市場拡大の鍵と思われる。
モバイルではネットワークが最も重要であり,ホットスポットがこの代表である。ホット・スポットは点のカバーと,高速なネットが特徴である。高速性という点でビジネスが大きく変わる可能性がある。
前田氏:メーカとは逆のクリエータとしての立場で考える。コンセプトを重視して,物の考え方を変える事がクリエータとしては重要である。スクリーン(ディスプレイ)ひとつを考えても,フラットで固定したものと考える必要はない。スクリーンの概念を切り替えると今までと全く異なったものが見える。実例として紙布をスクリーンとした例を示す(実演)。フレキシブルかつスクリーンの内側にまで入り込めるという新しい可能性をご理解頂けると思う。物の考え方一つで様々な可能性が出てくるという例である。
さて,デジタル技術をデザインという視点で考えるとデジタルの線は自然さがなく、暖かみがない。しかしデザインでは一つ一つの要素に分解し,コンセプトに従ってまとめ直す作業が必要であるが,この作業はデジタルの方が早い。この意味でデジタルをどう使いこなすかが大きな課題の一つである。ビジュアル・コミュニケーションがクリエータの仕事であるが従来はクリエータの仕事をデジタル技術が追いかけていた。
しかし最近はクリエータの方が1歩遅れている様に思われる。他方,海外でのプロジェクトに従事したことが以前ある。このプロジェクトではモバイル機器を使用して国内とデータのやりとりをし,仕事を実施した。この経験で言えば固定的なオフィスをもつ事の必要性が今低下している様に思われる。この意味でも考え方を変える重要性を再確認している所である。
以上,モバイル機器によりライススタイルが大きく変化している事,高速ネットワークがこの変化を推進するドライビングフォースとなって居ること,これによりユーザは時間・空間の拘束から離れ,仕事や生活で高い自由度を得られる可能性がある事が示された。この講演後,以下のディスカッションが行われた。
最近,記者発表があると発表直後に直ぐインターネット等で情報公開されてしまい,紙メディアとして非常に困る事がある。一部の記者発表場にはモバイル用にワイアレスの線が張ってあるケースも多い。紙メディアとしては即時性以外の点で差別化する必要が出ている。モバイルの普及で紙がなくなるという事ではなく,一層の差別化が必要となって来たのである。この話しを別の視点で言えばモバイルを利用するに従い,固定したオフィスを持つ必要性が低下している事になる。
しかし大事な問題としてデータ授受速度の問題がある。従来はPHS等で64K等遅いがどこでも通信可能という環境を利用していた。しかし最近はホットスポットという高速な場所が多くできている。ホテルや飲食店等で設置が進んでおり,都もサポートする動きがある。航空会社等のラウンジやSOHO等でもその検討が進んでいる。社外にいても生産性を挙げようというのがこのホットスポットの試みである。
但しホットスポットは点の世界であり面をカバーしている訳ではない。このような高速の環境を利用できるのであれば離れた場所にいる人間同士でも協力して仕事を行う環境が実用レベルで容易に可能となって来たのではないかと考える。環境としての点と面のカバーはこの様にホット・スポットと携帯やPHSを組み合わせる事で可能となるが,ホット・スポット圏外にでるとデータ授受速度は急に低下する。遅いのは非常にストレスが溜まる事もあり,仕事の優先順位を変える等,点と面を考え使い分ける事が重要となろう。
以上,高速ネットワークを利用する事で仕事のやり方・優先度も変化する可能性が在ることが最後に指摘され,討議を終了した。PDA市場はどう使うかという提案を模索している段階との事であったが,モバイル全体としてはネットワークの高速化と相まって着実にビジネスの中で活用され,コミュニケーションツールとしてその役割の重要度が高くなっている事が再認識された。
2002/03/10 00:00:00