広報の電子化は趨勢だがデジタルのハードルは高い
〜見積もり項目にはないサポートビジネスが埋もれている〜
クライアントの電子化,内製化イコール仕事が減る,と考える営業対応では負け組である。新たなサービスはいくらでもあるはずだ。なぜならビジネスの基本はアナログであるからだ。目的を実現させる手段,作業としてデジタル技術を利用しているだけである。営業の第一は創造力である。広報宣伝担当者とどう付き合っていくか,予算環境は厳しいが,想像力を豊かにして取り組んでほしい。
■節約モードに後退
恒例の『社内誌白書2002』(日本経営協会)が発表された。何より気になるのが,予算の動向であろう。節約時代がかなり続いたこともあって,昨年はその反動か回復基調であったが,やはり今回は後退傾向が出ている。
予算は「据え置き」「増加」は減少し,「減少」が増えた。経費節減の内容は,「ページ数削減」(24.1%),「取材費・謝礼の節減」(23.7%),「カラー・色刷りの削減」「発行回数の減少」(18.3%),「担当者の減少」(10.0%),「紙質のダウン」(9.5%)などが上位に挙がっているが,どこもあの手この手の方法を駆使しているようだ。「発行停止」という最悪の選択は数としては少ないものの,前回1.3%であったものが今回3.7%と2倍になっているのがちょっと気になる。
1号当たりの外注費は前回同様「50〜100万円」が最も多いが,50万円を軸に以下・以上で括ると,50万円以上は46.3%から38.7%と約8%ダウンしており,50万円以下は25.7%から27.4%に増えている。外注経費は低額の方向に動いており,削減されていることは明らかだ。
■担当者は印刷の強味をよく把握している
昨今はメディアの多様化が注目されているが,メディアの種類が1種類か複数かの比率は,55:45で昨年と大きな変化はない。それぞれのメディアの比率も「雑誌型」(76.9%),「イントラネット」(31%),「新聞型」(14.6%),「電子メール」(12.2%),「ビデオ」(7.4),「グループ報」(6.9%),「雑誌・新聞型以外の印刷社内報」(6.4)と続き,大きな変動はないが,イントラネットが着実に伸び31%に達した。これは2年前の15.7%の2倍になっており,今後も伸びるであろう。ただこれでメディアの棲み分けができたということではなく,細かく見るとトップの雑誌型が80%を割ったこと,ビデオが漸減していること,イントラネットが30%を超えたこと,など変化の予兆がうかがえる。
電子メディアと印刷メディアの共存については,74%の担当者がどちらも必要と考え,電子メディアがあれば印刷社内誌は不要と考える担当者は5.7%とわずかである。この傾向は変わっていない。「印刷社内誌が必要」という理由は,職種・職場・企業などによっていろいろ挙がっているが,「読みやすい」「一覧性」「携帯性」に集約できる。一方,「不要である」という理由としては,「コミュニケーション機能」「柔軟」「スピード」「経費節減」である。
「経費節減」は別にして両者の理由を集約したキーワードはメディアの企画・提案をする上で重要なポイントになろう。
■変わり始めたら早いデジタルの世界
印刷社内報の本文制作(組版)の方法については,DTPが64.2%で他を圧倒しているが,DTPと電算写植の交代はたった3年前のこと(DTP39.4%に対して電算31.8%)。5年前にさかのぼるとDTP24.1%,電算54.4%で電算が半分以上を占めていた。今回の電算は14.1%で時代の趨勢が見事に現れている。改めて数字の変化を眺めると,変化し始めると早いもので一挙に変わっているのがよく分かる。
■DTP化しても使いこなせるクライアントはわずか
編集制作にDTPを利用しているという企業は約70%に達した。毎年10%ずつ割合を伸ばしてきたがここ1年は横ばいで,一段落したようだ。担当者がどこまでDTPを活用しているかを見てみると,担当者自身で使いこなしている人はわずか12.8%にとどまっている。
その大きな理由は,企画・原稿作り(文字・写真),校正・チェックなどで活用度が高くても,レイアウトデザインのデータ作りは印刷品質に直結しており,テクニカルスキル,センス,知識ともに高度なものが要求されることから外注率が高く,77.4%が外注しているという実態がある。完全な内制化は少数派であろう。
また,編集制作で利用している機器としては,カメラ,パソコンが9割弱と高い比率であるが,3番目にデジタルカメラ(70.4%)が入っており,昨年と比べ17%(53.5%)も増加している。今後は銀塩フィルムからデジタル画像に取って代わるのもそう遠くではなさそうだ。写真はRGBデータのままで入稿ということになろう。
ここ2〜3年のもう一つの大きな変化は,ワープロ利用の激減である。2年前には36.6%あったものが,今回は10.6%で来年はいよいよ一桁になり,近いうち調査対象からも外れることは明らかだ。ここにも時代の流れを感じる。
■自治体広報の電子化が動き始めた
時代の変化といえばe-Japan構想により電子政府化がいよいよ動き始めるが,今回調査(公務関係の団体も0.2%程度含んでいる)のように民間会社を中心にした広報・社内報のDTP化はかなり進んだが,各自治体広報の電子化はこれからが本番である。日本広報協会調べによると,2000年度での自治体広報のDTP導入実績は,約3200団体中610団体(20%)で,今後は急速に伸びるであろうことは容易に予測できる。同協会の担当者は,DTP=Mac=Quarkという図式できたが,1998年ごろからその図式が崩れ始め,今後はOSとしてWindows,ソフトはタテ組への対応に優れたものへ移っていくであろうという。
当然DTPシステムが導入されたからといって,すぐにうまく運営できる保証はない。ことに自治体の広報担当者は3年程度で人事異動することが多く,継続的なスキルアップができなかったり,広報部門が首長(知事・市町村長)の直轄であるため,トップの入れ替えによって編集方針,デザインが大きく変わるといったことなどから,電子化は自治体の現場担当者だけでなく,仕事を受ける印刷会社側もかなり負荷が大きくなるであろうという。
しかし,これは大きなチャンスである。印刷作業の受注ではなく,DTPあるいはデジタル化の支援を積極的に行うと共に蓄積した表現スキルによるデザイン提案をする絶好のチャンスである。なぜなら,広報誌は確実に定期発行をしなければならない物であり,DTP化したからといって失敗は許されない。その担当者の不安を印刷会社がサポートし吸収してあげることができるのか,印刷会社の常識を押し付け,いまだにWindowsデータはできません,営業にとってサポートは面倒だ,適切なアドバイスができない,といった営業対応のままなのか,大きな岐路に立つことになろう。
自治体の電子化は時代の流れであり国家の方針である。担当者のスキルや知識のなさに閉口しようとも,プロとしてクライアントの電子化(これからはWebも含め)にどう関わっていくか,その戦略がなければ取り残されるのはわれわれの側である。(杉山慶廣)
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2002/03/22 00:00:00