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電子送稿フローを確立するために

印刷物制作における電子送稿の概念

電子送稿に対する一般的な概念は明確になっているわけではない。電子送稿への関わり方はさまざまであるが,以下のように分けることができる。

生活者サイド

最終的に印刷物による情報提供を受け取るところで,この場合にペーパーメディアによる情報受領を想定しているので,電子送稿では直接的な対象とはならない。しかし,今後はデジタルコンテンツをネットワークなどで提供することも意識しなければならない。

印刷制作サイド

印刷発注者,広告会社,製版会社,印刷会社,出版社といった,印刷コンテンツならびにメディア制作の役割を担う企業側であり,複雑で混乱ぎみな分業制作の流れがある。雑誌広告などの印刷物制作では,これらの企業間で原稿データ,校正データ,印刷データなどが電子送稿されたり,写真原稿・校正刷り・印刷物などの現物が物流しながら進行され,製造されていく。

なお,電子送稿はMOなどのオフラインメディアによる方法と,通信線によるネットワークによるやり取りの両方を指しており,ネットワークによるやり取りのみを想定しているのではない。

システム開発サイド

電子送稿に関わるハード,ソフトの開発メーカー,ベンダーと,共通互換ルールの策定を行っている公的・私的団体などが属するサイドであり,印刷制作サイドが利用する生産システムや規約などの策定,提案を行う。

印刷制作サイドにおける協調と競争の区分け

電子送稿においても,従来のアナログ工程で「版下は線画で原寸仕上げ」「カラーは透過原稿で入稿」のような,業界共通ルールと同様の共通互換性のある業界ルールを明確化することにより,企業間で協調するところと競争するところを,きちんと区分けする必要がある。

電子送稿における課題と提言

全般的に制作物(原稿,校正など)のデジタルデータ化はある程度進んできた。しかし,管理情報(仕様,指示,確認など),品質情報(色校正や訂正情報)などのやり取りのデジタル化はほとんど進んでいない。分散作業環境における制作ツールや,作業方法の不統一による品質面でのトラブル,修正作業時の煩雑なデータの内容確認作業が日常化している。

こうした問題の共通要素は「標準がない」ことに起因しており,(1)電子送稿へのネットワーク利用,(2)色再現(特に色についての品質管理),(3)ツール(アプリケーション)の選択,(4)制作手順,(5)相手の技術力,(6)付加情報(入稿する部品データなどへの属性情報),(7)協調と競争の区分けに対する認識,(8)標準ルールの策定と整備,(9)顧客側業界が電子送稿ルール作りで先行,の9課題が指摘されている。

今後は,系列外の企業同士においても,データの共有化によるコラボレーションが各工程で必要になってくる。そのため,特定の社内システムのみ処理できるような電子送稿への対応では通用しなくなる。

電子送稿に関わる印刷制作サイドである印刷コンテンツならびにメディア制作を担う企業は,企業の枠を越えて受注から納品配送まで一貫して行えるような電子送稿対応のシステム化を行う必要がある。
さらにシステム開発サイドにも,スムーズな電子送稿を実現する技術開発やルール作りが必要になってくる。

ネットワーク利用の課題と提言

ネットワーク利用の共通課題は,「速度と高コスト」であるが,印刷会社・製版会社では,相手により「方式や異なるフォーマットやバージョン」を運用することの大変さがある。また,相手側に十分な「ネットワーク環境がない」という現実も多い。

出版社・広告会社では社内の運用環境,人材強化,負担の少ない運用性,社内や相手とのルール化,雑誌広告では複数の業者間の電子送稿ルールが課題とされている。
速度やコストの解決は時間の問題であるが,データとそれに付随する情報をどのように一体化して送るのか,また色の確認はどのように行うかなど,情報の管理や品質の確認方法など,運用についてのルール化が大切になると考えられる。

デジタル制作環境の標準ルール化の必要性

電子送稿を行うための原稿制作から製版出力に至る分散作業体制のなかで,基本的なデジタル環境の条件がそろっていなければならない。DTP作業で使用されるフォント情報,使用アプリケーション,バージョン,画像情報などの明記,原稿データの作成手順や設定内容について印刷品質を考慮したものにすることなども含めて,制作側への技術情報の啓もうや教育が必要になる。

さらに,DTPソフトウエアはメーカーサポートが打ち切られているにもかかわらず,旧バージョンが使い続けられることもある。そのためプロフェッショナル用途のソフト販売や,サポートに対するメーカーへの要望事項もある。

制作会社から印刷会社にデジタルデータで送付される場合のほとんどは,DTPアプリケーションに依存したデータフォーマットである。これらのデータフォーマットは訂正対応といった融通性には富んでいる一方で,出力エラーの可能性や不確定さをも同時にもっている。そのため,確実性をもったデジタルデータ交換フォーマットとして,PDF/X-1が考えられていたが,ISOのDIS投票で否決され,国際規格化は見送られた。

ただし,出版・印刷業界において,このようなデータフォーマットの必要性は明らかなので,今後も規格化の努力は続けていくべきである。また,印刷業務の自動化やCIM化のための規格は,ほぼCIP4/JDFで統一されていくと考えられる。まずは各プリプレス・印刷機器メーカーの対応に期待したいが,印刷会社側でも社内生産管理システムの整備が必要となってくることも忘れてはならない。

一方,日本を中心にAMPACの議論が進められているが,これはJDFと対立するものではない。AMPACの利点としては,デジタルデータとしてのノウハウの蓄積が示される。JDFの固定的な作業指示ノウハウを生かした作業指示として,運用することも可能となる。両者の利点を組み合わせることも今後検討する必要がある。

色再現

納期短縮の課題解消に向けてネットワークやカラー出力機の能力を生かすためには,印刷物の品質基準,特に普及している業界標準の色基準が必要である。印刷制作サイドに広く認知された色の基準がないために,最終印刷物の品質保証書になるべき色校正刷りやカラープルーフ出力が得らにくい。

雑誌広告では,印刷作業を担当する企業でないところで色分解・色調整が行われていることが多く,印刷会社が色校正を保証できない原因にもなっている。しかも「デジタルプルーフを使用する顧客とのコンセンサス」作りは,ほとんど行われていない。特に雑誌広告では,一カ所で色分解された印刷データ(CTP出力データなど)を,複数の印刷会社で分散印刷するような「N:Nの関係における色の一致」という問題や,複数の製版所で色分解された広告ページを面付けして,同時に印刷する時の色の課題がある。業界の意識改革の必要性が根本にあるが,業界ルールの不備,カラーマネジメント技術の未成熟,さらにカラー出力装置(モニタ・プリンタ・印刷機)の問題など,多くの条件がからんだ大きな課題である。

カラープリンタやネットワークを活用して,データで受け取った校正データをスムーズに出力し,デザイナーや印刷発注者が色校正できるようにするためには,米国のSWOPにみられるように,色の確認を行うすべての関係者が納得できるような,業界横断的な標準印刷色などの基準と運用ルールが欲しい。

また,印刷物の種類,品目,目的によって,仕上がり品質のクラス分けを行い,コストパフォーマンスについての考え方をしっかりもつことも必要である。
デジタルプルーフ導入のステップは,カラーマネジメント技術を導入して,最終的には用紙別の印刷(本機)のカラープロファイルを作成し,カラープリンタ,カラーモニタとの間で色の見えをそろえることである。また,色を見るための視環境を整備するために,印刷色評価用の照明を取り入れることも忘れてはいけない。

機器ベンダーは,ICCプロファイルとCMMによるカラーマネジメントツールをもっと高精度で,さらに使いやすくする努力が必要である。印刷機メーカーには,印刷品質がより安定した,カラーマネジメントに容易に対応できる機械の開発への努力が望まれる。

求められる業界横断的な動き

顧客側の動きをみると,新聞社や雑誌出版社は,広告出稿主から求められた納期の大幅な短縮に対応するために,実証実験を実施したり事業会社を立ち上げている。広告会社でも,媒体管理から制作管理まで行う事業を開始するなど,具体的な動きを先行させている。逆に印刷側が遅れている。

これに対しては,印刷業界においても,印刷側からの共通ルール提案などの情報発信を今後,さらに強化していく必要がある。そのためには,もっと関係団体の連携を強めて,業界横断的な共通互換性のあるデジタルデータの交換ルールを策定し,印刷産業のe-ビジネス化をスムーズに進行させる基盤を整備することが必要である。

(平成13年「印刷業界における電子送稿のあり方に関する調査研究報告書」日本印刷産業連合会より)

■出典:JAGAT発行 プリンターズサークル2002年3月号

2002/03/26 00:00:00


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