RGBの標準色空間として,Windowsの世界を中心に普及が進むsRGBとその将来動向について,PAGE2002の画像トラック「標準化動向」セッションから,三菱電機株式会社映像情報開発センターの杉浦博明氏の話を中心に紹介する。
カラーマネジメント手法比較
画像機器のデジタル対応やインターネットの発展等により,デジタル画像がさまざまな機器間を行き交うようになってきた。そこで必要となるのがカラーマネジメントである。
異なるデバイスで同じ色再現を得るためには2つの手法がある。
(1)プロファイルによる方法
色彩画像信号に加え,各々の機器の色彩特性を色変換部に引き渡す。
(2)標準色空間による方法
伝送する色彩画像信号が準拠するべき色空間を一意に決める。
プロファイルによる方法は、例えば,スキャナで入力した画像をモニタで出力する場合は,スキャナの特性の情報とモニタの特性の情報をパソコンのOSやソフトの色変換部に渡して,適性な画像になるように変換処理を行う。ICCプロファイルによるものが有名であるが,モニタの世界ではVESA(The Video Electronics Standards Association)という標準化団体によりEDIDという規格が定められている。
標準色空間による方法は,画像に信号を加えるのではなく、標準の色空間を1つに決めて、画像機器が各々それに対応した画像信号を作成したり,色再現を行う。これは何も新しい方式でなく、テレビは昔からこの方式を採用している(ITU-R BTの放送規格)。また,カラーファックスについてもITU-Rの規格がある。
sRGBは,IEC(International Electrotechnical Commission)で定められた規格で,この2年くらいでかなり認知度も普及も高まっている。
2手法のメリットデメリット
まずプロファイルによる方法は、メリットとしてはプロファイルのサイズを大きくすることにより,精度の高いカラーマッチングが可能となる。
デメリットとして,逆にプロファイルのサイズがネックとなることがある。またプロファイルを規定した状態からデバイスの設定を変えたり経時変化が起こると効果が期待できない。例えば,MicrosoftのOSの中に各社のモニタのICCプロファイルが入っているが,ユーザがモニタのコントラストやブライトネスを変えたりすると使い物にならない。
こうした点から,一般コンシューマというよりも,どちらかというと印刷業界などプロフェッショナル向けである。
標準色空間(sRGB)による方法は、メリットとしては画像データだけを送れば良いので、伝送するデータのサイズを小さくできる。それから,メーカーがディスプレイやプリンタを開発するときに、それぞれの機器の色に関する設計目標が明らかになる。
デメリットとしては,そのデバイスの特性がsRGBの標準的な特性からずれていくと色が悪くなる。そのためデバイスがsRGBの色再現からずれていないことを示すガイドラインの策定が必要となる。
sRGBとは
sRGBとは,メーカーや機器毎に著しく異なっていたRGBの色再現性・色空間を統一しようという試みである。一口にRGB色空間と言ってもNTSCもあればハイビジョンのRGBもあるし,各社のローカルなRGBもある。さまざまな機器がデジタルで結ばれるようになるとバラバラでは困る。また,インターネットの時代になり「e-Commerce」や「ネットオークション」が盛んになってくると,Webサイトのカラー画像表示が「カタログ」として重要になってくる。
sRGBは、1999年10月に国際標準として発行されている。IEC 61966-2-1というのがsRGBの規格番号であり,日本規格協会から購入可能である。
sRGBでは大きく分けて2つのことが定義されている。1つは基準となる標準の状態(Reference conditions)、もう1つはCIE XYZ値との変換式(Encoding transformation)である。
標準的なディスプレイでは,輝度レベルが80cd/u,白色点がD65、RGB色度点はITU-R BT.709-3というハイビジョンの規格が採用されている。ガンマ特性は2.2で、現状のパソコン用CRTモニタのスペックにかなり近いものである。CRTがベースになっている色空間と理解してもらいたい。
sRGBに対する不満解消に向けて
sRGBの問題点として,sRGBの色再現域はカラーのCRTディスプレイ特性に準じているので、例えば銀塩写真や印刷など他のカラー画像機器において可能な色を再現することができない。例えばエメラルドグリーンや濃いシアン,オレンジのあたりなど、モニタでは再現できない色をプリンタでは出力できる。この問題は,sRGBが発行された当初からずっと指摘されている。
そこでsRGBの改訂が進んでいる。標準化の世界では、一度できた標準は未来永劫有効というわけではなく、発行するときに、何年後に改訂するというメンテナンスサイクルをアナウンスする。
変化の激しい分野なので、sRGBは発行から3年後に改訂することになっている。発行が1999年10月なので,改訂時期は2002年10月となり,それに向けて審議が進んでいる。
その主な内容は、当初のsRGBは0〜100%の範囲であったものを−50%〜+150%までの信号を表現できるeg-sRGB(extended gamut-sRGB)である。
eg-sRGBは、マイナスを表現するために10ビット表現となる。プラスされる2ビットのうち1ビットは拡張される色空間部分のマイナスの値と100%を越える値を表現するために割り当てられ,もう1ビットは刻みの単位を細かくして精度を高くするために割り当てられる。この拡張により従来の三原色で囲まれた外側の色も表現できるようになる。
同時にsYCCについても審議されている。YCCとは,RGBから3×3マトリックスで変換して得られる輝度とふたつの色差信号で構成される色空間で,JFIF(JPEG)やExifなどのベースとなっている。
しかし,YCCは元のRGBの色空間に規定がなく,色再現に混乱をきたしていた。sYCCはsRGBをベースとすることで,色空間を一意に決めている。しかも,RGBのマイナス値と255より大きい値を認めており,sRGBよりも広い色域を持っている。
また標準ディスプレイでの色の見え方を定義したsRGBに対して,画像を入力するときの標準色空間として,scRGB(Extended RGB color space)の審議も進められている。こちらもsRGBより広い色空間を持っている。
sRGB関連の審議団体
sRGBは,国際的にはIEC/TC 100/TA2において審議されている。色空間に関係する業界はディスプレイ、印刷あるいは写真など多岐にわたる。sRGBおよびそれに関連した色空間は,IECで審議されていたため,ややもするとその議論が電気業界寄りになりがちであった。一方、印刷,写真に関する標準化はISOを中心に進められている。
国際的にIECおよびISOが色空間の標準化活動でもっと協調すべきとの議論が1年ほど前から起きている。そこで,日本国内においては,その機運を先取りして(社)電子情報技術産業協会(旧:日本電子機械工業会)のカラーマネジメント標準化委員会の下部組織として61966-2、sRGB等対応グループを設置し,各関連業界からの専門家の意見を反映できる体制を整えている。
■出典:JAGATinfo 2002年4月号
2002/04/10 00:00:00