カオスの中の印刷経営 以前の記事はココ
日本の時間当たり人件費は米国より高いし、物価水準はデフレが続いているのに、先進各国と比べても20%は高いという。人件費を基本給部分で大幅に下げたいし、物価も20%は下げたいところだ。そうすれば先進各国とバランスがとれるのだろうが、この5年以内には不可能な話だ。金融界、出版界、官公庁などの社員給与レベルは、民間部門と比べて異常に高いから調整すべきだが、全体を下げるとなると容易なことではない。
人件費や物価レベルを下げられないとすれば、製造業のコスト高は他国と比べても異常な高さで、競争力がなくなる一方だから、労働力依存度の高い産業から日本を脱出するだろう。失業の原因になる空洞化は避けたいというのが国民の悲願だとすれば、産業構造を変えなくてはなるまい。すなわち製造業の空洞化はやむを得ないが、代りにサービス業体質を強化することである。
すなわち海外生産に依存しにくいナノテクノロジーやバイオテクノロジーを中心にした高付加価値商品を開発すること、企画・デザイン・情報処理など知的集約度の高いサービス商品を開発すること、短納期を必要とするワークフローを育てること・・・・・。このように日本社会の新しいパラダイムは短納期、サービス化、知識集約化、多種少量化などの経済システムになるのだが、そういう社会になれば当然のこと、労働環境や雇用システムも変ってくる。労働時間の弾力化、労働契約の弾力化、労働教育とワークフローの標準化などが必要になるのだが、特に後で述べるようなHolon型就労とManual型就労の概念を普及させ、定着させることが必要になるだろう。
問題は国内における印刷雇用の形態変化である。日本社会の現在の高い人件費、高い物価体質は簡単には直らないのだから、むしろそれに相応しい社会体質、生産構造を作るべきで、それが出来なければ日本社会そのものが崩壊してしまう。他産業のことは兎も角、印刷産業はどうしたら良いのだろう。
高度知識集約化、短納期化、高度情報化、高品質化、多様化、小ロット化、パーソナル化などという体質が新しい印刷界の体質になる。こういう機能を満足させることが出来る印刷界なら、他国からの進出や他国への流出を恐れることはない。
そのためには、どのような雇用形態、生産システムにしたら良いのかということだ。何度も言うように、終身雇用や年功序列型賃金システムのような雇用慣行は止めなくてはならない。契約型で、弾力性のある、多様化した雇用慣行を作らなければならない。昔なら雇用慣行は労働組合と接点を持ちながら作られたものだが、新しい慣行は、多分、テクノクラート型の執行役員と、パートナー機能を持つホロン(Holon)型社員達の中で作られていくことになるのだろう。
その一方で、物の単位はゼロ3桁づつ変化する。メータ、ミリメータ、マイクロメータ(100万分の1メータ)、ナノメータ(10億分の1メータ)。新しい時代の技術はミクロの時代ではなく、ナノ技術の時代になる。医療技術、画像技術、コンピュータ技術、ロボット技術などは全く新しい技術時代を迎えようとしている。
そうした時代の雇用はどうなるのだろう。高度技術社会に対応した雇用形態のことだ。会社の中のワークフローが変るのだからISOへの対応も変るのが当然だ。顧客満足を達成するためのISO9000s、社会の環境満足を達成するためのISO14000s、新しい視点からワークフローの手順書作成が必要になる。現在のISOマニュアルでさえ各種保険の約款と同じく、社員が暗記できないようなマニュアルである。高度技術社会になったら手順書はもっと複雑になるので。マニュアルとして使うには不適切なものになる。従って、ISOそのものの発想も変えなくてはならないし、マニュアルの作り方も変えなくてはならなくなるだろう。
私はこの時代の雇用形態は、前述のように自主的判断業部を中心にして行動する、パートナー型、Holon型の社員像とハイテク・ワークフロー環境の中で行動する、マニュアル重視の現業社員像と二種に大別されると思っている。
ネットワーク時代は沢山の情報が飛び交い、しかも迅速な判断と決断が求められる。それを実行できる社員とは、全体の動きを確実に把握できる機能と判断力を持ち、その決定を他のセクションに伝達したり、自ら行動を起す能力、一方、自分の行動の結果と情報を全体にフィードバックする能力を持った社員、すなわちHolon型(全体子)型社員のことである。
また、ナノ・テクノロジー時代はワークフローも非常に多様化するから、航空機のような高額資本財を使用する高度マニュアル型社員も必要だし、日常のロボットやネットワーク端末を使用するパートタイマー型マニュアル従業員も必要になる。このように21世紀の雇用形態は益々多様化するだろうから、雇用契約も多様になるだろう。
続く
2002/04/03 00:00:00