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デジタルと紙のシナジー

私は3年前から毎年4月行われるオンデマンドショーアワードの審査委員をやっている。2000年には中西印刷とカシヨが大賞に、2001年には東京書籍印刷が大賞に輝いた。この他にもいろいろな会社が受賞している。このイベントはアメリカのオンデマンドショーを主催しているCAPベンチャーズと日本のGSMが開催し、この賞は日本におけるオンデマンド プリンティングの認知度の向上を目的に、多様な実例を紹介するものである。

オンデマンドプリンティングの切り口として、インターネットなどの革新的技術を用いた先進的なプロジェクトをイノベーティブ技術部門とし、ビジネスのリエンジニアリングなどを実現したプロジェクトがデジタルプリント部門、パーソナライゼーションのプロジェクトがワン・トゥ・ワン・コミュニケーションズ部門と、3つに分かれている。

2002年は事業スケールの大きいものや、ずば抜けた技術力を示すような応募がなかったので大賞はブランクだが、この3年間の受賞の流れをみると、オンデマンドプリンティングが新たな段階に入っていることが感じられた。応募内容は、初期に多かった教科書的題目どおりのオンデマンド印刷や、印刷側からの視点で考えたようなものは減り、時代にあった発想、企画のこなれ、身の丈にあったビジネス、というのが特徴だろう。

2002年に受賞した2社は、みつわ印刷と高速オフセットで、結局過去からも受賞者の顔ぶれは印刷会社が圧倒的に多い。みつわ印刷は、WEB上で日記をつけられるサービスをしているところと連携して、書き溜まったら980円で本を作ってもらえるサービスを提供している。もと原稿が定型のフォーマットに日記を書くようなものなので、組版レイアウトなどの前工程なしで1冊でも自動でオンデマンド出版ができる。

定型フォーマットにネットワークで入力すれば本ができるという仕組みは、もとはマニュアルのために構築したものだという。これは今後いろんな展開が考えられ、書いたり編集をしている人が、自分で必要な時にボタンを押せば本が送られてくるとか、蓄積されたコンテンツをどこかに送ることができるようなもので、印刷のオンライン自動販売機のようなものである。

高速オフセットは、やはりWEB上の仕組みで、絵葉書を選んで表面に宛名と「一言」を書くと、絵葉書が宛名に送られるという仕組みである。葉書の表には、ちょうどバナー広告のような、モノクロのスポンサー名が入り、そのスポンサーが印刷代と料金後納の郵便代を負担する。処理は基本的には無人であり、利用者は無料で絵葉書が出せる。

これももとは自動車販売会社のイントラネット利用のようで、営業マンが顧客のフォローに一言書いた入り、車検の近づいていることを知らせたりするのを、WEB上の操作だけでできるようにしたものである。葉書のようなオフラインのメディアもオンラインの処理で片付く点が面白い。今後のオンラインのさらなる普及と共に疎まれそうな印刷物郵送を、面倒くさくなくできるというのは「妙」である。

両者とも規模の大きな仕事ではないが、「従来の印刷よりもオンデマンドの方が得」という題目を振りかざすのではなく、軽いノリで実際になじみやすい肩の張らないアイディアである。これは受賞社に印刷会社が多い点にも関係していると思える。
つまり、従来の印刷を打ちのめしてまでオンデマンド印刷に切り替えるような対立的な発想ではなく、オンデマンドやその基底であるデジタル/ネットワークと、紙へのプリントのシナジーというか調和的な発想が出来ることであり、じつはそのことはエンドユーザ自身にも言えることで、デジタル・ネットワークがあるから「もう金輪際、紙は使わない」と宣言する人がいたら変人である。

オンデマンドプリンティングで、ちょっとリッチな気分になるというのは、ビジネス戦略としては論理性が乏しいように思うかもしれないが、今の時期はデジタル・プリンティングが日常生活にさりげなく受け入れられる要素を拡大することは、実は戦略的に大きな意味がある。それは現在まだそこかしこに見受けられるデジタルプリントへの違和感を消していくプロセスであるからだ。

従来の印刷物と同じプロセスを踏む必要はない。それよりもスマートかつスピーディーにこなす方法がネットワークには似合っている。この時代に活躍する人は、資本力や技術力よりも感覚のスマートさに優れた人なのかもしれない。

2002/04/05 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会