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写植フォントのオープン化(1)−フォント千夜一夜物語(2)

日本で日本語DTPの普及を遅らせた原因はいろいろあるが、主な原因は日本語組版ソフ トと日本語フォントにあるといっても過言ではない。

現在の若いDTP関係者は理解できないかもしれないが、当時の日本語DTP(Mac DTP)は日本語フォントがない、そして組版ソフトは満足に日本語組版ができない、という状況であった。

したがって印刷業界ではDTPに関心を寄せなかったし、Macintoshというパソコンに馴 染み(なじみ)が薄かったことも一因であろう。

しかしデザイン関係では早くからDTPに大きな関心をもって、先進ユーザーたちは先行 投資をして使っていた。そこで起きてきた不満が、画像処理機能よりはフォントの問題で ある。デザイナーにとっては、フォント(書体)の少ないことはデザイン品質に影響を与 えるからで,使えないことと同じである。

つまりデザイナーは、従来の版下同様に写植書体を使いたいという願望があるから、得 たいのしれないフォントでは満足しないわけだ。

●アドビの日本市場戦略
ところが日本の写植メーカーは、自社の写植システムに使うために莫大なコストとエネ ルギーをかけて数多くのフォント(書体)を制作し販売している。したがって各メーカー の専用フォントである。

欧米のITCやBitstream、Linotype、Monotypeなどのようにフォントを開発して、販売 するというフォントビジネスを目的とする企業ではないし、そのような企業は日本には存 在しなかった。

ところがワープロやパソコン、電子組版、DTPなどが登場してくるにしたがって、高品 位なデジタルフォントの需要が高まってきた。DTPを日本市場に普及させるためには、日 本語フォントは不可欠な要素である。

米アドビシステムズ社(以下アドビ社という)は、DTPにおける業界標準である PostScriptを開発し、Linotype社などと協力して欧文フォントのPostScript化を図った。 そして次のステップとして,日本語フォントを手に入れるべく画策した。

ところが「日本語フォントであれば何でもよい」というわけではない,ということがわ かった。欧米人にとっては、日本語書体(漢字・かな)はどれも同じに見えたようである。 あるアドビの日本人スタッフA氏が,日本市場のマーケティングの結果「日本のグラフ ィックアーツ業界では,写植がポピュラーであるから写植書体がよい」とのアドバイスを 受け、写植メーカーへのアプローチが始まった。目標は写研、モリサワ、リョービである。

アドビ社は、まず写植機メーカーナンバー1の且ハ研にアプローチした。1986年ころの ことである。しかし結果は不成功に終わった。理由は「自社フォントを他社システムに搭 載すること」や「字母の外部への提供」は会社のポリシーに反するとのことで受け入れら れなかった。

将来のDTPとPostScriptに自信をもっていたアドビ社としては、この(株)写研の閉鎖的な 応対は意外であったようである。そして次にアプローチしたのは(株)モリサワとリョービ(株) である(つづく)。

澤田善彦シリーズ>

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印刷100年の変革

DTP玉手箱

2002/04/16 00:00:00


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