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技術と、サポートと、コンテンツと、販売と…

テクノロジーはユニバーサルなもので、どこでも同じように働くが、テクノロジーを働かせる環境・条件はそれぞれ異なっている。コンピュータ・ネットワークの話題といえばブロードバンドであるが、国や分野ごとの温度差は大きいように思える。

ネットバブルからの再生の旗手のようなブロードバンドだが、もともと日本がFTTH(ファイバー・トゥ・ザ・ホーム)をするといっていたのが遅れ、大穴の韓国がトップクラスに踊り出た。光ファイバを掲げる日本に対して、韓国の電話事業はADSL化とうまいタイミングにあったと考えられる。

ADSLがブレイクするぞ、との話の元はアメリカにあった。アメリカでは既存の電話回線が日本よりもADSLに向いているといわれていた。しかしADSL業者の倒産が相次いで、普及やサービスレベルは今ひとつである。ADLSは既存の電話線が使えるはずだったが、実際に接続しようとすると問題が出て、開通させるのが大変なようで、ADSLは実験室的な能力の高さと、現実の加入者線路やその他環境からくる制約のギャップが大きいことがわかる。

アメリカで進んでいるブロードバンドはCATVである。かつてCATV事業者は技術も設備投資も異なるインターネットなどのサービスには熱心でなかったが、ADSLなどのブロードバンドISPの進出で危機感が芽生え、本格的に参戦してきた。

CATV業者は競争相手より圧倒的に広いエリアでビジネスをしていて、すでにサポートサービス網を構築しているし、開通までの期間や故障の対応というサポートサービスの肝を知っている。営業面ではCATVとインターネットの抱き合わせ販売や、客が食いつく料金設定も心得ている。販売網も大型量販店と組んで、テレビやビデオ、PCなどさまざまな機器を買う際の割引販売などが展開できる。

このようにアメリカのADSLは後発の既存のメディアに負けてきた。ADSLよりも有望のようにいわれた無線系のインターネットは、アメリカではADSL以上に分が悪い状態にある。国土が狭く微弱電波でも人々に到達できる日本では、iモードなどの爆発的普及を足場に、次はFOMAなど次第にブロードバンド化を狙っているが、国土の広いアメリカでは携帯電話自体の普及が難航している。

もはや日本のブロードバンドは料金的にはアメリカよりも安いほどになった。アメリカのADSLでもっと金をかけて戦えば状況は違っていたかもしれないが、既存の電話設備にそれほど金をかけるわけにもいかないのだろう。アメリカのADSLは短期の収支バランスのためにむしろ値上げ傾向にある。

日本は家庭への回線の光化を予定していたので。ADSLという予定外の支出を好まなかったのであろう。そして2002年にやっと家庭に月額何千円で光ファイバーを敷いてくれるFTTHが始まった。こつこつとインフラを構築していく日本の光ファイバーが近い将来日本をブロードバンド大国にしてしまうかもしれない。

日本のブロードバンドで見えないのはコンテンツである。先に発達した韓国にブロードバンド向けコンテンツが元からあったかどうかは疑問だが、ブロードバンドが出来てからの応用は速かった。韓国の応用の容易さは知的財産権など権利問題の国情の違いがあるとも聞いている。
アメリカは巨大マスコミのブロードバンド参入による複合メディア化が進もうとしている。オーディエンスのマス化で、巨大な金が動くようになり、インターネットもマスメディア的になるということなのだろうか。

以上、多方面から総合的に考えなければ動向は見えてこない。新技術の話は聞く人の総合性を試すためにあるといってもよいくらいである。

■出典:通信&メディア研究会 会報「VEHICLE」156号(巻頭言)

2002/04/22 00:00:00


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