ユーザーのフォントテクノロジーに関する知識が豊富になってくると、しだいにフォント 価格に対して疑問と不満が湧出してきた。
つまり「どうしてフォントは高いのか」、「同じデザインのアウトラインフォントなのに、 なぜ高解像度版は高いのか」、「マスターフォントを開発すれば、同じアウトラインフォン トは低解像度用にも高解像度用にも共通ではないのか」などの不信感を抱いていた。
日本語フォントの開発費のコストは、フォントメーカーによって諸説がある。文字数は 7000〜8000字としても大別して、新書体をデザインしてアウトラインフォントを制作する 場合と、字母が用意されていてそこからアウトラインフォントを制作する場合では大きく 異なる。
開発費の原価計算は方法によって異なるが、1億円から数億円かかるといわれる。それ にはいろいろな要素が絡んでいるので一概にはいえない。デザイナーのレベルの問題、制 作オペレータの質的問題、制作システムの問題など、これらによって大きく生産性が異な る。つまり製造原価に大きく影響することになる。
なかでもフォント制作ツールは大きなウエイトを占める。加えてデザイン品質の付加価 値が存在する。フォントが安かろう、デザインや品質が悪かろうでは価値がない。しかし これも一般人にはそれほど関心事ではなく、それより価格が安い方が魅力であろう。この 需要と供給の関係は何事においても同じことである。
●日本語版TrueTypeの登場
多くの欧米や日本のプリンタやタイプセッタメーカーは、日本のDTP市場に進出するた
めにポストスクリプト対応のRIPやフォントを求めるようになった。しかしアドビ社のラ
イセンス価格は高額であったため、ポストスクリプト・クローンと呼ばれるサードパーテ
ィ開発のRIPやフォントの需要が増加してきた。
これらの市場動向を見ながらRIとBitstreamは、前述のモリサワ基本5書体に追従する がごとく、リョービ5書体(本明朝-L/M、ゴシック-M/B、シリウスM)のポストスクリ プトType1化を促進することにした。
Bitstreamには世界的に有名なデザイナー(M・カーター他)がいたので、フォントデザ インやテクノロジーに関しては信頼がおけても、欧文フォントの経験しかない外国のフォ ントメーカーは、漢字・かなの概念や微妙な表現が理解できないため、遠く離れた米国と のコミュニケーションは困難を極めた。
制作プロセスとしては、R側がもつフォント制作システムのIKARUSで、アウトライン化 したIKデータを米国Bitstreamへ送りType1に変換する。そして紙に出力したものを日本 のRIに送り、RIのデザイナーがデザインチェックする。そしてBitstreamへ返送し修正 する。
このプロセスを5書体に対して、各約8000字行うわけだから時間とエネルギーは大変な ものである。このことはモリサワも開発当初に、似たような苦労を重ねたようである。製 造側の論理でいえば、これらのすべてのコストがフォントの原価計算に含まれていること を考えれば、一概にフォント価格は高いとはいえないかもしれない。
後年、台湾のフォントメーカーのダイナラブinc.とリョービフォントの共同開発を提 携したことがある。同じ漢字圏のデザイナーでも文化の違いがあると、漢字デザインの感 性において微妙に異なる。特に仮名デザインについての理解が困難で、いくら説明しても なかなか意思が通じないという経験がある。
その頃米アップルコンピュータ社とBitstream社の間で、TrueTypeの日本語フォント開 発の話がもち上がりRIの協力を求められた。つまりリョービフォントのOEM提供である。 しかしリリースするまでいろいろ紆余曲折があった。その一つが出力解像度制限(600dpi) の問題である(つづく)。
■DTP玉手箱■
2002/07/27 00:00:00