本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。

東京国際ブックフェア2002報告

リードエグジビジョンジャパンは、2002年4月18日から21日の4日にわたり、東京ビックサイトにおいて東京国際ブックフェア2002を開催した。開催期間中の来場者は約4万2千人。同じ会場では、デジタルパブリッシングフェアや学習書・教育ソフトフェアなど合せても同時に開催された。
ここでは、JAGATから出かけたスタッフがそれぞれ印象に残った点を寄書き風に紹介する。

デジタルと出版の距離

デジタルパブリッシングフェアを見るつもりで久ぶりに出かけてみたが、かつてあれだけ電子BOOKをやっていたSONYも、また最近話題のAdobeも、eBookのマイクロソフトも、Appleも出ていないのでびっくりした。出版社が電子メディアに肩入れしていないのが理由ではないだろうか。一人気を吐いていたのは凸版印刷で、電子ペーパーとか、雑誌へのさまざまな付録の添付(デジタルとはどういう接点?)、出版編集向けシステムは、みな人だかりがしていた。

そこで(株)セルシスのコミックスタジオというのを見た。いわゆる手描き+版下の世界にコテコテにはまったソフトで、さすが漫画大国の日本製ソフトではある。この会社はアニメソフトなどをやっているが、出版系の人はCGや3Dがこれほど進んだ今日でもこんな博物館的なソフトが欲しいのだろうか?要するに、紙媒体に携わっている人は、最初からコンテンツをWEBやアニメなどに展開する気がないのではないかと思えた。

もっとも、何もデジタルの可能性があるから、今までの紙媒体の人がいろいろなことに挑戦しなければならないということはない。紙媒体は確立した世界で、その価値が簡単に崩れるものではないでだろうから、今までの修練の積み重ねをしていくことは、それはそれで正しい。

しかし新しいものは出版界からは出てこないのではということを改めて感じた。
【O.O】

基調講演「本は生き残れるか」

基調講演ではノンフィクション作家 佐野 眞一氏が『激動の出版業界 - 「本」は生き残れるか』について語った。400名以上が集まるほぼ満席の状態で、出版業界の危機感は相当高い。本は残るが出版業界は崩壊すると佐野氏は語る。出版不況が続く中、老舗の取次や書店の倒産、廃業はますます深刻化している。この背景にはデジタル化社会への急速な移行が大きく影響している。出版流通システムはデジタル化への対応が不十分であると佐野氏は指摘する。再販制度や・委託販売制度に保護されたままでは出版の未来はない。

出版業界はBookOffなどのような新規ビジネスに対して敵対視している。しかし、今出版業界に必要なことは在庫品を効率的に処分するアウトレットとして位置付けていくようなビジネスモデルの変革である。また、BookOffよりも脅威になるのは100円ショップではないかと指摘する。100円ショップには辞書や料理などの実用書から小説までそろっており、書籍のデフレを顕著に示している。出版業界の厳しい状況を乗り切るためには、現状をしなやかに受け止める柔軟性が求められている。
【R.K】


簡易組版ソフトを無償で提供

三松堂印刷イメージファクトリーでは,出版社向け制作支援システムとして「出版P2Pプラン」を提案していた。これは,最もコスト増の原因となる入稿から組版,校正の部分を効率化することで,制作費のコストダウンを図ろうというものである。Windows環境の原稿作成用エディタSAP2(この2は上付)を開発し,出版社や執筆者に無償で提供する。簡易日本語組版ソフトで,執筆者・出版社側はこれを利用することで,パソコン上で編集・校正作業を行える。日本語組版に欠かせない外字もWebで配信する。簡易組版されたデータは,マルチテキストコンバータMAGICで変換され,写研などの組版ソフトで組版される。

着実に進む電子出版ビジネス

電子書籍は,各種端末への配信ビジネスとそのソリューション提案が目立った。
ebook用専用端末の登場が,普及のための一つのカギになるのかと考えていたが,ザウスルなどPDAや携帯電話向けのサービスが着々と進んでいるようだ。新潮ケータイ文庫は,携帯電話画面にテキストがタテ組みで表示される。また,コンテンツも既存のものだけではなく,ケータイ専用に連載形式で有名作家の書き下ろし作品も登場している。シャープとNTTドコモは,FOMAやPHSを利用してPDAに配信するXMDFを開発し,サービスを提供している。 コンテンツ配信ソリューションでは日立システムアンドサービスのDRM,三菱自動車エンジニアリングの電子出版・配信サービスソリューションなどが目に付いた。各社がeBookビジネス市場に向けて本格的に力を入れ始めたようだ。
【H.O】


気になる「電子ペーパー」の動向

PAGE2002基調講演,コンファレンスでも関心度の高かった「電子ペーパー」。やはり,凸版印刷のブースは人だかりで,商用化に向けての前進を感じさせられた。PAGEでの展示にはなかった新サンプルに,システム手帳にはさみ込む電子ペーパー(地図情報やスケジュールを載せたもの)があった。軽量・薄型・携帯性をうたって,さまざまな用途をアピールしていた。 電子ペーパーの出版ビジネスへの参入の可能性は,いつどのような形で開かれるのか。今後の動向が見逃せない。米E Ink/MITのジェイコブスン氏の示す「Last Book」が実現されるのはいつなのだろう。
【C.O】


新潮社「新潮ケータイ文庫」

 新潮社は,有料の小説配信サービス「新潮ケータイ文庫」を出展した。利用料は月額100円。現在は,ez-webとJ-skyでサービスを提供している。
 「新潮ケータイ文庫」は,毎日配信される人気作家の書き下ろし小説が購読できるサービス。人気作家 乃南アサの新感覚ホラー小説「あなた」,服部真澄の国際派企業サスペンス小説「GMO」や,中村うさぎの問題作「愛と資本主義」などが,配信される。 ほかに,星新一の「日がわりショートショート」,吉本ばなな,泉麻人,椎名誠などのコラム,「江戸川乱歩傑作選」などが閲覧できるコンテンツや,新潮文庫のキャラクター「Yonda?」の待受画像ダウンロードサービスなども利用できる。思わず笑ってしまう,かわいしのぶの「本日の回文」など,楽しいコンテンツも盛りだくさん。連載小説は,一回1200字,週5回更新される。バックナンバーも閲覧可。  J-phoneのJAVAアプリ対応機種では,「抜群に読みやすい」縦書きが可能となった。「タテ書き」は,4月から開始された新しいサービスであるが,それを「読みやすい」と感じるかどうかは,人によって違うだろう。

凸版印刷のブースでは,電子ペーパーの展示に注目が集まった。ブースの前面に展示されていたのは,以下のものである。
・フレキシブル電子ペーパー
 125ppiのPDA画面。3ヵ月半電源無しで,画像を保存できる (2005年以降,市販予定)
・カラー電子ペーパー
 カラーフィルターを利用したカラー化実証実験のプロトタイプ。(2004年市販予定)
・モノクロ電子ペーパー
・Ink-In-Motion
 厚さ0.8mmの店頭POP広告用電子ペーパー。(2002年春発売)
・システム手帳レフィルの電子ペーパー・・・手帳にはさみ,メールを見たりもできる。(実験段階)
【M.K】


2002/04/30 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会