印刷会社の生き残り戦術の一つにデジタル技術環境を理解し,自社で新たな印刷ワークフローを構築していくことが挙げられるだろう。そこに顧客満足を絡めてサービス提供を行うことが,特長となり強みに変わる。
今回は,XMLを利用して新たな付加価値を創出している,株式会社真興社の代表取締役社長の福田眞太郎氏に同社の姿勢を伺った。
そこで同社では大日本スクリーン製造の協力を得て,写研データを生かしたフルデジタル環境を構築した。写研データもその他のDTPデータも同時に取り組んで面付けをし,RIP処理後各種のデータへ出力するシステムである。これは今でも見学に訪れる人がいるくらい画期的であった。現在は,写研と並行してMacintoshはもちろんWindows環境にも対応している。
一方でDTPによって他業種との垣根がなくなりつつある現実がある。昔の写植の感覚で印刷会社がDTPをやっていたのでは,商売として成り立たないという。周辺業界からの参入もある。顧客とコラボレーションしていかないとこのままではデータを支給されて刷るだけの仕事しか来なくなる,といった危機感もある。
専業企業として差別化を図るためには,それなりのスキルを売り物にしなくてはならない。そこで始めたのがXMLであった。
顧客ごとに専用画面を作成し,チラシ,はがき,名刺,スリップ,バーコードなどの印刷を簡単に発注できる。テンプレートで作っておき,選んでもらって入稿するだけである。デザイナーやオペレータの必要もない。
目的はASPであり,定型的なものにしておいて,一部変更すれば自動組版ができるようにしてある。後はフォントや色を選んだり,長体・平体も掛けることができる。はがきは,読書カードなど書籍ごとに書名を差し替えるだけで簡単に発注できる。プリントアウトもすぐできる。問題がなければ発注画面に移り,納品場所,値段などが表示され確定する。発注ボタンと同時に組版がPSデータに出力され,後はフィルムで出したりCTPにしたりして印刷物になる。
今までは発注するとなると社内で取りまとめる部署があり,専従の発注者がいたが,これなら各制作担当者からじかに発注できる。その分の間接コストも削減される。
このシステムは,今のところ顧客である出版社に対するサービスの意味合いが強い。将来的には高度な組版にも対応していき,辞書のようなものも想定している。XMLのタグ付け文書を作成しておいてもらい,何回も繰り返して,最後にノンブルを通して印刷することも可能だろう。
XMLから印刷物を作成する場合は,同社内のAVANASBookStudioから組版定義データを作成,XSLTで定義したスタイルをそれぞれ自動組版エンジンにセットする。そしてI-connectorによって作成されたXMLデータを自動組版エンジンに登録する。PDFで可視化し,修正・追加の作業後に印刷物用データに変換するという提案である。
これならXMLの敷居が高いと感じている企業でも,Accessの使用法をある程度理解していればXMLをうまく活用できる。
検索方法としては,階層検索,条件検索,全文検索があり,署名,発行年度,タイトル,キーワードなどがあり,AND検索などの機能も付け,目的とする論文を絞り込んで素早く探し出せるようにしてある。
インターネットは双方向であるから,どのような検索キーワードが多いか,月当たりのヒット数,PDFのダウンロード回数と著者,出版物の関連などの情報を蓄積している。それをマーケティングデータとして顧客にフィードバックする。検索機能付きのCD-ROM化のお手伝いもできる。
顧客のために何ができるかを常に考えているという福田社長が,自らノートパソコンを持参し,顧客の元でデモを見せたり,勉強会を開いたりして,XMLの必要性や「アーカイブシステム」や「オンラインジャーナル」を啓蒙しているそうである。
今までは防戦のためであったが,これからはXML自動組版を武器に新しい切り口で,プロとしての特長を出したいと抱負を語っていた。(上野 寿)
■出展:JAGAT info 2002年5月号
2002/05/10 00:00:00