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写植フォントのオープン化(3)─フォント千夜一夜物語(4)

写植メーカーの三社三様の思惑によって日本語DTPのフォント環境は、1992年ころまで 貧弱な状況が続いた。今でこそアドビ社はPostScriptの仕様を公開しているが、当初は Type1フォントの仕様は非公開で、高額なライセンス料を必要とした。

そのためハイフンやハーリクイーンなどが、PostScriptクローンRIPの開発や販売に力 を入れたことや、URW社がPostScriptフォントの開発ツールを開発し、「IKARUS(イカル ス)」システムとともにフォントメーカーに販売するようになった。つまり市場の多くの Type1フォント(PSフォント)は、PSクローンフォントである。

●漁夫の利を得た新興フォントメーカー
ソフト開発力のあるフォントメーカーは、独自でPostScriptを研究しフォント開発を行 なっていた。その先駆者のフォントメーカーがフォントワークス(香港)で、1990年にゴ シック系の「ロダン」という名のフォントをパッケージで発売した。

当時の日本語DTPのフォントはモリサワ2書体だけであったから、Macデザイナー達は 競って太ゴシックのロダンを購入した。しかしこの「ロダン」が、写研の「ゴナ」という 太ゴシックに類似しているという問題で、販売停止の警告が写研から出された。

ところがフォントワークスは海外企業であるため、係争問題にはならず警告に止まり和 解になったようである。しかしその後フォントワークス側は非を認めて、デザイン修正を 行ったという経緯があるようである。

しかし皮肉なことに、これが逆宣伝効果をもたらせた。当時写研の「ゴナ」シリーズは 垢抜けしたゴシック体で、デザイナーには大変好評であった。写植版下では必ずといって よいほど、見出し文字に「ゴナ」が使われていた。

そこに「ゴナ」に類似の「ロダン」という噂が広まり、多くのユーザーは「ロダン」を MacやRIPにインストールするようなった。その結果フォントワークスは日本市場のシェ アを獲得し、続いて明朝系の「マティス」を発売した。そしてその後のフォントワークス の隆盛は続いた。

●思いつきではないモリサワの決断
モリサワの大英断の背景は1986年ころに遡る。森澤社長が第9回のドルッパ展を見学し たときのMacintoshとの出会いである。この出会いが衝撃というほどではなかったが、直 感的にPostScript言語が写植業界の将来を感じさせるものがあったという。

これがPostScript言語との出会いの最初であった。と同時にアドビ社のプロポーズを 「自分が断ったら、他に取られるという思いがあった」と社長は後に述懐している。 もし同じような直感が他の2社にも働いていたら、DTPのフォント環境も変わっていた であろう。なぜならばその後にリヨービを初めとして、写研以外の多くのフォントメーカ ーが続々とPSフォントのパッケージ販売を始めたからだ。

いずれの産業においても、情報の収集と経営者の決断の優劣は、企業の将来を左右する 大きな重要な要素になるといえる見本であろう。

モリサワのデジタル化への切り口は、第3世代CRT写植機「202E」の開発・販売であろ う。当時モリサワはCRT写植機「202E」の開発・販売に関する契約を、マーゲンターラー・ ライノタイプ社と結ぶべく精力を費やしていた。

そのころマーゲンターラー・ライノタイプ社は、ベクタ方式の日本語フォントの制作に 着手していたが、そのツールはIKARUSシステムではないようだ。しかしモリサワはCRT 写植機「202E」搭載のために、当初このツールでベクタフォントを制作していた。

後年モリサワはIKARUSの導入を図り、モリサワ書体ライブラリがもつ100数十書体の字 母のデジタル化およびPostScript Type1フォントの充実、New CIDフォント、そして OpenTypeフォント開発へとフォント業界のリーダーシップの地位を築いた。

しかしアドビ社は、モリサワとの共同開発の提携後も、リョービとの交渉はあきらめな かった。それはリョービの「ナウ書体シリーズ」が魅力だったからだ(つづく)。

お詫びと訂正

その後の調査の結果、上に記述された記事中、以下の部分は事実無根であることが判明いたしました。

「しかしこの「ロダン」が、写研の「ゴナ」という 太ゴシックに類似しているという問題で、販売停止の警告が写研から出された。 ところがフォントワークスは海外企業であるため、係争問題にはならず警告に止まり和 解になったようである。しかしその後フォントワークス側は非を認めて、デザイン修正を 行ったという経緯があるようである。 しかし皮肉なことに、これが逆宣伝効果をもたらせた。」

関係者の皆様には多大なるご迷惑をおかけしたことをお詫びするとともに、今後はこのようなことがないよう十分な調査を行うことを約束いたします。

平成15年7月
社団法人日本印刷技術協会

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2002/05/25 00:00:00


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