統計的にみると豊かになった日本に足りないものは、気力であろう。数字では生活水準が劣る発展途上国の方が活き活きしている。日本人なら「今更そんな商売やってもしょうがない」と思うようなことでもコツコツしようとしている。20世紀には「これからは日本の時代だ」という意気込みがあった。21世紀になって「我々の時代だ」という論調は日本で見つけるのは困難だが、中国もインドも21世紀は我々の時代だと考えている。
この差は何だろうか? 第2次大戦後は、焼野原にもかかわらず、これから欧米型の開かれた社会になるという期待が社会の底辺まであった。それはちょうど今の中国やインドに当てはまる。ビジネスに関する法や制度がまだ固まっていない若い社会では、マーケットは未開拓で、規制も少ない。しかし、自分の他に頼るべきものはなく、すべて自己責任で行動しなければならない。だから、自律的で柔軟性に富んだ会社でないと長くは経営できない。
日本もそのような道を経てきた。戦後すぐは「刷る」だけで儲かったのが、時代を経るにしたがって、利益の源泉を他のところにも探しにいった。未だに印刷より儲かるものは見つかっていないといわれるが、今でもへこたれずに顧客に密着して派生業務の拡大に努めるところはある。中小企業にそれができるのは、自分自身を変えて変革を乗り切ることが、大企業よりも行いやすい特徴があるからだ。
ふりかえると、日本の印刷産業はバブルの弾けた1990年代初頭でひとつの時代の区切りを迎え、それ以降は極端にいうとデジタル化によるコストダウンで帳尻を合わせてきただけで、新たなビジネスへの挑戦を止めてしまった中小企業が少なくない。贅肉落しとしてのリストラはしなければいけないが、それだけでは印刷産業全体が縮小スパイラルに陥ち込んでしまう。
今求められているのは、新しいビジネス環境や新しい技術環境に、自己責任で自律的に柔軟に立ち向かう気力であろう。JAGATでは技術フォーラムの「2050年の印刷を考える」で、(1)印刷文化は簡単には揺るがない、(2)グラフィックアーツの能力を生かしたクロスメディア、(3)パフォーマンスアップはeビジネスで、(4)デジタルプリンティングで領域拡大、という今後の印刷の4つの柱を、印刷新世紀宣言としてまとめた。
この新たな印刷のドメインをモノにするために、JAGAT大会2002では、最近の価格低下の裏にある印刷業の構造変化、残された大きな課題である労務管理の変革、従来苦手であった新規事業構築のポイント、というテーマと、そして目下新たな事業展開の真只中にいる若手経営陣のディスカッション、という構成で、「逆境の中の一歩」を共に考えます。
日本に残された数少ない選択肢を考えると、今日の困難がチャンスに思えるくらいの気力が必要だ。それには新たな世代や新たな仲間も多く加えていかなければならない。今日の経営者だけでなく、次世代を担う人のマインド作りのためにも、ぜひJAGAT大会2002にご参集いただいて、今までとは一味違う幅広い交流を図ろうではありませんか。
関連情報 : JAGAT大会2002 逆境の中の第一歩
2002/05/29 00:00:00