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字種/フォント増加と需要の謎

DTPの立ち上げ期から、フォントが少ないとか字種が足りないという声は絶えなかった。それが今日では逆転して、そんなに多くの字種がいるのかとか、どうやって使うのかという声が聞かれるようになった。これはDTPのフォント環境が成熟したことの証と率直に受けとっていいものだろうか?

これらの背景には、JISの第3第4水準、Unicodeの拡張、OpenType、Mac OS X の日本語対応、などそれぞれ全く別個に動いているいくつかの要素があるので、これらを総合して日本の文字環境が一体どうなるのかを思い描くことは非常に難しい。このままでは個々の努力が実らないで店晒しになる危惧さえあるように思える。

数年前までなら、例えば日本語文字環境コンソーシアムというような、欠けている部分を補って活用できるようにする横断的なプロジェクトが興されたであろうが、今はユーザ・ベンダーとも金欠状態なので、手弁当で研究調査などしていられなくなったことは残念である。

可能性の低い期待をもたずに、現状をよくみてみると、どのようなことがいえるのだろうか。AppleはMac OS X という大きな契機があるので、上記の最近の動向をなるべく多く取り込んで、さらにDTPの世界を意識して写植の文字まで積んで、一挙に扱える文字の拡張を図ったが、同じOpenType環境に移行しつつあるWindowsはあわてて動く様子はない。

もともとOpenTypeはAdobeとMicrosoftが共同で作業したもので、AdobeとしてはPostScriptフォントの延命策としてWindows上に活躍の場を広げるつもりがあったであろう。しかしその段階では日本語字種が倍増することは考慮に入れていなかったかもしれない。運が悪いというか、字種の増加はフォントベンダーに負担をかけるので、数あるフォントベンダーが足並みそろえてUnicode対応の日本語OpenTypeをだすのは時間がかかり、OpenTypeのアドバルーンのインパクトは薄れてしまう。

また同じUnicodeをサポートするMicrosoftとAppleの間で、日本語として扱う範囲や時期の考え方が合わないなども起こった。要するにあわてないWindowsは、まだ拡張部分のニーズはないという判断であろう。とすると、この世の中で圧倒的に使われているWindowsでニーズがないものが、DTPでニーズがあるのだろうか。

確かに印刷用約物などDTP固有のニーズはあるが、それは原稿を書くなどコンテンツ生成側には関係ない。このように印刷用と、Windowsなどをベースのブラウザの世界が異なるとすると、電子文書の交換やマルチメディアにおけるワンソースマルチユースという点では要注意なことが増えてしまう。

この文字種増加に対応するようにツールをコツコツ作って少しづつ使用範囲を広げれば次第に妥当なものになっていくだろうが、各社の思惑に引きずられ過ぎると歪なものとなって頓挫するかもしれない。

テキスト&グラフィックス研究会会報 Text&Graphics 183号より

2002/06/10 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会