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コミュニケーション再構築
「PAGE2002概要報告


■ASIA FORUM
日本からの情報ポート
Vol.5, No.3

2002年7月1日


2月6-8の「PAGE2002」は,さまざまな事情を反映してか,展示会全体の来場者数は減少し7万2230人にとどまったが,出展者数は132社,出展小間数は678小間と過去最大規模となった。
特に基調講演のテーマとなった電子ペーパー,ディスプレイ,モバイル,バーチャルなど,これから印刷メディアとの共存や競争の対象となるデバイスを実際に見ることができる「特殊技術展示コーナー」は非常に強い関心を集めた。 また,「ITソリューションパートナーコーナー」には,デジタルビジネスの創出企業が37社出展して,昨年以上の盛況となった。
コンファレンス・セミナーの3日間の講演者数も過去最大の143人,受講者数は2089人となった。 また併催のジョイントイベントには17団体が参加し,来場者数も1300人と昨年以上の賑わいをみせた。 「PAGE」はプリプレスの展示会というようりも,コミュニケーションの場としての位置付けがますます大きくなりつつある。

コミュニケーションの場としてのPAGE

(1)ジョイントイベント

 ジョイントイベントは,広い意味でのグラフィックアーツや情報技術関連の活動を行なっている組織や団体に,いわば場所を提供するかたちで,それぞれセミナーやシンポジウムなどの行事を行なってもらうというものである。デジタルコンテンツ協会からWorld Wide Webコンソーシアムまで,あらゆる分野の団体に参加いただいた。なかでもJPC「OpenTypeの最新状況を解明!!」,日本エディタースクール「校正記号の使い方」「文字の組み方ルール」など,日本雑誌協会「デジタル原稿のカラーマネージメントと雑誌広告基準カラーの確立に向けて」などは,立ち見が出るほどの盛況だった。参加者が多いこと自体は,タイムリーなテーマであることや各団体のPRの効果などさまざまな理由があると思うが,大事なのはJAGATはあくまでも場所を提供する立場に徹しているということである。そのために,JAGAT主催のコンファレンス・セミナーとはまったく異なる視点に立つ催しが実施できるわけで,そのことの持つ意味と可能性は小さくない。今後もPAGEの大きな特色のひとつとして維持していきたいイベントである。

(2)ITソリューションパートナーコーナー

 今年の「ITソリューションコーナー」の出展は昨年の1.5倍の32社。このコーナーは,通常の製品展示とは異なり,印刷会社も含めた多様な分野でデジタルビジネスを展開している側が,来場する印刷関連企業側へサービス提供をするための出会いの場である。
2つある展示会場Aのうちひとつの会場の3分の2のスペースに小さなブースが迷路のように並び,多くの来場者が集まっているさまはまるで市場のようで,展示会場の中ではもっとも熱気があった。展示会の原型とは本来こういうものだったのではないかと思った。製品でもシステム構築でもよい,メーカーでも印刷会社でもよい,それぞれなにかひとつのソリューションをアピールし,来場者はまたそれぞれ自分のニーズにふさわしいサービスを見つけて話を聞き,話が合えば商談に進む。
PAGEも含めた現在の多くの展示会は,出展社が人を集めることに意識を集中した結果,大きなブースに多くの製品を展示し,展示そのものの派手さを競うのが常態になってしまったが,そうでなければならない理由はなにもない。展示会の持つ「お祭り」的な意味は重要だが,そのあり方は一様でなくてもよいはずである。

(3)特別技術展示コーナー

 展示会の「原型」を考える意味で興味深かったのはことし初めて設置された特別技術展示コーナーである。ディスプレイ技術,ネットワーク技術,サイバースペース技術など,印刷とはあまり関係のない分野の最新技術の展示である。このコーナーは基調講演と連動していて,今後,印刷メディアとの共存・競合の対象となるであろうデバイスを見てもらうという意味合いである。
中でも注目を浴びたのが電子ペーパーの展示である。凸版印刷からはEInk電子ペーパー,富士ゼロックスからは光書き込み方電子ペーパーが展示されたが,折り曲げ可能なフィルムのようなデバイスに瞬間的に情報を記録・表示し,消去も再書き込みも可能で着脱自在。デモを見ているとじつにおもしろい。おもしろいが,具体的に今,なににどう使うかはわからない。出展社もよいアイデアがあれば教えてほしいといっていたが,これこそまさに技術展示である。DTPもその登場時に最初に「面白い」と感じて飛びついたのはアグレッシブなデザイナーたちであった。印刷業界の大方は「こんなものは印刷には使えない」と言っていたのではなかったか。

 ジョイントイベントのすべてが成功裡に終わるとは限らないし,ソリューションパートナーコーナーで即日商談が成立するわけでもない。また,技術予測は容易ではないから,今回の特別技術展示が将来どういう展開を遂げるかもわからない。ただ,こういう場で広い意味でのコミュニケーションが成立し,そしてそれが展示会そのもののありかたを考えるうえでも重要ではないだろうか。

コンファレンス・セミナーで見る関心のありか

 今年のPAGEの基調講演は「印刷への挑戦」というテーマで,上記特別技術展示のような電子メディア,電子デバイスの将来展望を行なった。午前中は総論,午後は各論。展示会場でも人気のあった電子ペーパーのセッションは超満員だったし,オンデマンド印刷のセッションも盛況だった。ただしこれは,現状のビジネスではなく,将来オフィスや家庭でオンデマンド技術がどのような形で使われるようになるかを考えるという内容である。コンファレンスの2日目,3日目のセッションは初日に比べると低調だったが,50人以上の入場があったのはOpenTypeのセッションとPDF/1bitTIFFに関する「出力直前処理とフロー」である。
 セミナーではXMLの3セッションとCMS,「DTPtoDB」などへの関心が高かった一方,現実的にはいちばん関心があると思われるWEB制作関連のセミナーは思ったほど人は集まらなかった。
 以上のように入場者数の多かったセッションを列挙すればおのずと関心のありかの察しはつく。要するに将来技術への関心は分野を問わず極めて高いのに対して,現状技術の導入や運用については関心のあるテーマはごく限られてしまうということだ。これは当然といえば当然だが,書籍やWEBなどで日常的に情報提供が行なわれているテーマとレベルのセッションにはわざわざ出かけて来たりはしないということである。PAGEならでは,コンファレンスならではのセッションが求められているわけで,人を集めるという視点からすれば,テーマのさらなる絞り込みが必要だろう。
しかし,もともとコンファレンスは人を集めるのが主目的ではなく,入場者数は少なくても参加していただいているみなさんにとっては重要なテーマなわけで,結局は内容の問題だ。各セッションについては,このあと本誌や「Printers Circle」,JAGATのWEBサイトなどで順次報告していくが,今後のPAGEへの反映という意味でも参加されたみなさんからのご意見をいただきたい。

展示会場

(1)OS X,OpenType,InDesign

 モリサワがOpenTypeフォントのパッケージリリースを発表したが,フォントワークスやイワタも今年中にはリリースしたいとのことだった。各メーカーとも今年のうちにOpenTypeへの対応を進めるのは間違いないだろう。
アドビのInDesignのデモンストレーションは通り抜けができないくらい人が集まっていたが,InDesignの現場導入はあまり進んでいないと聞く。次世代DTPソリューションパビリオンは,Mac OS X対応アプリケーションを一堂にならべたもので,おそらく日本では初めての試みだったが,人の集まりは今ひとつだったようである。
 Mac DTPは今後どうなるのだろうか。  なんといっても代表的なアプリケーションがOS Xに未対応で,出力環境も整っていないのがネックだが,生産システムとしてDTPを構築している場合は,そう簡単にOSやアプリケーションを変更するわけにはいかないという事情もある。OSやアプリケーション自体の機能のよしあしではなく,ワークフロー全体の安定性や生産性を確保するうえでの判断の問題として捉えられているのだ。新しいOSでこんなことができるとか,このソフトの新バージョンにはこんな機能が付いたというPRだけではアピールできない時代なのである。
 しかし,アップル側の意気込みは大きい。アップルが「次世代DTP」というのは,ユニコードベースの文字環境,OpenTypeによるホストフォントの出力環境,およびOSレベルでのレイアウト環境の整備など,OSが提供するDTPの新しいインフラを指す。従ってアプリケーションなどが対応しないといけないが,ただ,アップルというOSがこれほどまで日本のDTPを向いているというのは特筆に値する。ユーザとの間にうまくコミュニケーションが成立すればよいのだが。

(2)プルーフ,電子送稿など

 プルーフやオンデマンドのソリューション提案を行なっていたところが活気があった。富士ゼロックスはe-Proof Solutionと題して,CTP時代のリモートプルーフシステムを展示していた。汎用のレーザプリンタとカラーマッチングソフトウェアを使って,雑誌広告などのカラー校正出力をネットワーク経由で行なうというものだ。キヤノンもまた同様のコンセプトで,カラーマネージメント,リモート出力の展示を行なっていた。
プルーフやリモート出力の分野では雑誌広告などの電子送稿が話題である。アドダムは展示だけでなく雑誌協会のジョイントイベントセミナーにも参加していた。
 クレオジャパンのSynapse InSiteは日本初登場。クライアントがプリントジョブを印刷会社にインターネットで送り,RIP処理済みデータをリモートプルーフする。インターネットとブラウザ以外の特別なツールは不要である。

(3)出力,カラー,ワークフロー

 ハイデルベルグ・ジャパンの日本初公開のDigimaster9110は,ノンインパクトのモノクロのデジタル印刷機で,A4サイズ毎分110ページという高速印刷を行なうもの。また,日本アイ・ビー・エムからInfoprint2000など印刷業界向けのソリューションが出されていたが,大きなメーカーは単一の新製品ではなく総合的なシステムコンセプトの提案型が多い。富士写真フィルムのFFCMSもそうだし,大日本スクリーン製造の生産システムe-Productionもそうだ。
 出力分野で注目されている1bitTIFFワークフローのソリューションがあちこちのブースで展示されていたのが目を引いたが,これはPDFとの二者択一などではなくて仕事に応じて利用するものである。サカタインクスの参考出品eXflowはホットフォルダでデータを最適化し,PS/PDFファイルのプレフライト,面付けなどの製版処理を自動化するほか,各社の1bitTIFF対応の出力デバイスを駆動するもので,ワークフローに応じた柔軟な対応を提供する。ジーティービーはプルーフ,殖版,ストリップ修正や調子加減など,1bitTIFFデータをハンドリングすつ各種ツールを展示していた。大日本スクリーンの1bitTIFFの殖版ツールBitstepperや,東洋インキの殖版・大貼システムPlate Front ver1.6など,各メーカーそれぞれが自分のワークフロー提案の中に位置付ける形での対応を行なっている。
 PDFワークフローは足踏み状態のようだ。PDFは出力ワークフローでの利用と,WEB/ネットワークでの利用との両輪で進んでいて,これがシームレスにつながるようになれば面白いのだが,なかなか難しい。ハイデルベルグ・ジャパン,大日本スクリーン製造,日本アグフア・ゲバルト,富士写真フイルムなどがそれぞれPDF/ジョブチケットを利用したシステム提供を続けているが,むしろ,ユーザ側で低価格のツールを使ってPDFを最適化するカスタマイズ的なワークフローのほうが,少なくとも現状ではWEBとの連携もとりやすいのではないだろうか。

(4)XML,WEB

 XMLはインフラだから本格的な対応が進めば進むほどユーザからは見えないものになる傾向がある。騒がれているうちはまだ導入段階であり,騒がれなくなったときにはもうあらゆるところでXMLが使われているということになるだろう。PAGEでは例年通りITソリューションパートナーコーナーを中心に,ずっとツール開発に取り組んでいるきているアンテナハウスやトータルメディア研究所をはじめとしたメーカー,企業が出展していたし,一般展示でも,方正やシンプルプロダクツなどのメーカーがXML対応をうたっていた。データベースとの関連ではメディアフュージョンのXMLデータベースエンジンYgdrasill1.5を出展していた。
 WEB関連も組版やデータベースとの連携システムが進展している。プロセス資材のF2000はクライアントや印刷会社をインターネットで結び,原稿制作から印刷物作成のワークフローを構築するとともにマーケティング情報のフィードバックまでサポートするものだ。また,方正のWeblisherは,新聞の記事データをWEB用で利用するためのデータベースシステムで,有料コラムの料金管理などを行なうものだ。

テキスト & グラフィックス研究会
JAGATinfo 2002年3月号より
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2002/07/01 00:00:00


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