CTPは既に普及期に入ったともいわれている。フィルムレスによるコストダウンはだれの目にも魅力的に映るだろう。しかし,メリットを得る具体的な方策は,各社のノウハウに掛かっている。そこで今回は,互恵印刷の代表取締役社長の高名昭夫氏に同社のCTPへの取り組みを伺った。
会社設立以前は,海外向けマニュアル制作会社の製造部門だった。文字は欧文中心で,100%マニュアル制作会社からの受注だったが,会社設立時に,受注率を年間売り上げの30%にまで引き下げ,ほかの仕事を拡大させていこうと思った。そこでダイレクトプリントの研究会に参加し,A半裁のシルバーマスターを2丁掛けで,A全判印刷するノウハウを共有した。
当時扱っていたある発動機メーカーの取扱説明書は,排気量別,機種別,また言語別にも作成されていたが,英語はもちろんフランス語,ドイツ語,ほか数十カ国語に及ぶ。それらの組み合わせで何十万ぺージにもなるため,コストダウンするにしても,版そのものの問題であり,フィルムレスしかないと思った。
「モノ造りとしての印刷業者が抱える永遠のテーマは、製造コストの削減、製作時間の短縮、さらに高度な品質,この3点」という同社にとって,シルバーマスターに取り組んだのは当然の流れだった。
また,自社の特色を打ち出すには,単能的なスタイルのほうが効率的だと考えた。しかし,ネガを撮って刷版を作成するのでは,体力のある会社にはかなわない。そこで,シルバーマスターを2丁掛け・フィルムレスでページ物専門の印刷を行うスタイルを確立し,以来そのまま持続している。
印刷の部分は,品質水準の均一化と生産効率の向上を考えて,すべての印刷機を同一機種「小森リスロン40E」に統一した。現在のところ単色機10台と菊全判の2色機が1台ある。また,全機にピンシステム(QM-III)を装備させ,生産性を大きく向上させるとともに,すべての台の印刷位置,表裏の見当が自動的に合うようにした。
その代わり同社では版下の中身には一切手を入れない,DTPによる制作も行わない。文字の変更も原則顧客側で直してもらうようにしている。だから完全校了データが前提である。制作の部分がないので,その分受注の窓口は狭くなるが,できるところだけに絞る姿勢は崩さない。紙の手配も顧客から支給してもらうことがほとんどだという。
最初のころは,青焼きを出さないことで驚かれることがあったそうだが,今やだれも校正を寄こせとは言わないそうである。面付け上に問題があれば,刷り直しをするという。
恐らくここまで徹底している会社はまずないだろう。顧客満足というと,われわれは顧客のいうことを何でも聞いてしまうことと勘違いしてしまう。同社では,自社のスタイルに合う顧客の満足度を高めている例かもしれない。
現在対応しているのは,Macintosh版のQuarkXPress3.3J/4.1J,PageMaker6.0J/6.5J,InDesign1.0Jのみで,これ以外のページレイアウトソフトやWindowsデータは,PDF入稿をお願いしている。さらに,例えばTrueTypeフォント指定は,アウトライン化していただく,などの注意点を入稿の手引きとしてまとめている。また社内にチェッカーマンがいて,入稿に関する問題点があれば,顧客に対して1社ごとのレポートを提出している。
CTPはコストの削減に役立つだけでなく,さらに高精細の印刷結果が得られる。極小ルビ文字も飛ばないし,つぶれずに印刷できることが,大きなメリットでもある。CTPに向くのは,高いクオリティが要求される物。墨一色の場合,品質に重きをおかない印刷物も多く,それらはアナログのダイレクト印刷を選んでいただく。品質より価格を重視される場合が多いそうである。
やはり同じように校正紙の提出は行っていない。印刷品質のレベル確認には,出力テスト,試し刷りをしている。印刷後の「部抜き」で最終確認をお願いしているとのことである。
それまでモノクロ一辺倒だったが,CTPを導入してから2色を始めた。「カラーをやっている印刷会社からみると,2色はカラー印刷物とは言わないらしい」とのことで着手した。2色のページ物印刷は,まだフィルム出力が多いと感じており,そこにビジネスチャンスを見た。
今後は2色ページ物にも焦点を合わせて,拡大していきたいと抱負を語っていた。本屋に行って,棚をのぞいてみると文芸書などの単行本は圧倒的にモノクロ1色のみで,実用書の類はほとんどが2色であったという。2色印刷の理想をさらに追求していきたい考えである。 まだまだ仕事の中心はアナログだが,CTPのほうも売り上げが伸びており,対前年同月比では200%を超えたという。
■出典:JAGATinfo 2002年7月号
2002/07/12 00:00:00