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電子ペーパーに見る,先にやることの意義

2002年4月の東京ブックフェアでは,凸版印刷の電子ペーパーの展示がひときわ目をひいた。PDA風やシステム手帳風モックも出され,研究開発の段階から商品開発へと,この1年間で大きな前進があったように思えた。

そこで,電子ペーパー事業推進部課長の檀上英利氏に,電子ペーパー事業の経緯および今後の展開についてお話を伺った。現在は電子ペーパーの立ち上げの微妙な時期であり,話の内容をモロにすると誤解があるかもしれないと考えて,その内容をベースに当方のコメントを含めて書いているので,インタビューとは異なることをご承知願いたい。

そもそも凸版印刷が提携している米国イー・インク(E Ink Corp.)社(http://www.eink.com/)は,電子ペーパーの研究をしていたMITメディアラボの Joe Jacobson 教授が1997年に興した会社で,凸版印刷自身はそれ以前からMITメディアラボとの交流はあったが,直接そのプロジェクトには関わらず,商業化に向けた会社設立後に提携をしている。

設立直前の1996年ころから画像関係の学会などでイー・インクの活動は知られるようになったが,電子ペーパーそのものが原理は古くとも,目に見えるものはまだ商品のリアリティが判断できないレベルであった。

凸版印刷のイー・インクへの関わりは,周囲からは商業化目的には早すぎるようにも見えたが,2001年中頃に国内にサンプルを提示した時には一挙に表示品質は上がっていて,各方面から引き合いが来るようになった。

さばききれないほどの引き合いに対して,電子ペーパー事業推進部が作られ,推進のための専任スタッフを置いた。他に製造面では研究開発の部署と,それぞれの事業分野での用途開発が平行して行われていて,各部門がいろいろな人に電子ペーパーを見てもらって得た意見を集約している。

2001年に公開した時点では,それ以前からイー・インクの動向を知っていた国内の人が反応し,その中から共に一生懸命やりたいパートナーと組むことになったようだ。おそらく新技術の適用は,それがもたらす明確なメリットに惹かれて行うものと,メリットが曖昧でも「世界初」の商品を出したいという理由で行うものとに分かれるのだろう。

凸版印刷の電子ペーパー戦略はこの二つの時期的にずれる要求をうまくブリッジするようにロードマップを作っている。電子ペーパーは究極的には相当あまねく出回るものと位置付けていて量産で稼ぐモデルではあるが,そこに至る中間は空白地帯で,取り組む各社とも,どのような中間目標を作るかが最大の課題である。

大手印刷会社は,過去のプリンテッドエレクトロニクスといわれる電子部品開発では,方向が正しくて社内社外に説明がつくものなら,時間がかかっても実現してきた経験をもつ。またイー・インク側も日本の大手印刷会社はカラーフィルタからもろもろのエレクトロニクス部品およびその加工,さらにコンテンツのハンドリングまで総合的に技術をもつので,電子ペーパーの立ち上げに向いた相手と考えたのであろう。

凸版印刷の最初の取り組みとしては,パソコン用には大サイズが必要とか,液晶の値崩れが激しいとか,今すぐ多階調電子ペーパーの量産ができないなどの制約があるので,電子ペーパーですぐに価値が高まる分野として冒頭のモックのようなサンプルが作られたのであろう。

2003年には家電メーカーから電子ペーパーを使った最終商品が出る予定で,それはおそらく電子出版的なものが含まれるだろう。モノが出ればいろいろな人に触れられてアイディアが出てくるし,価値を見出してくれる人はいる。凸版印刷も,販売促進にとって重要なのは,最初に商品をだすことだとしている。それで新たなアイディアが出てもすぐに応えられないものもあり,実用化という点ではいろいろなパートナーといろいろな応用に取り組む模索の時代が続くだろう。

役割分担は,ナノテク素材のような電子インクはイー・インク社が供給し,それをシート状にするところが凸版印刷,その後ディスプレイに組み立てたり,製品に組み込むところはさまざまなパートナーの仕事となる。長期的には電子ペーパーとインターネットとコンテンツの結びつきで広がる世界は確実にあるとみて,凸版印刷はまず製造に軸足を置いて,そこから上流・下流に徐々に展開を図ることで,総合印刷会社としての長所を出そうとしている。

電子ペーパーの数量がでるに従って,次の段階のアイディアが広がっていくだろう。電子ペーパーはホットな分野なので,技術的には新たな方式が出ても,先に製造や応用開発のノウハウを積み重ねていけば,おそらく別の電子ペーパー技術でも生かすことができるだろう。

2002/07/14 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会