米国で著名なフォントメーカー&ベンダーであるBitstream社とRIは、リョービ書体の ポストスクリプト・フォントの共同開発契約を締結した。1990年のことである。
一方アドビシステムズ社はモリサワと提携し、最初は2書体(リュウミンL-KL、中ゴシ ックBBB)を開発、1989年に日本語ポストスクリプト・プリンタ(NTX-J)に搭載し発売さ れた。
その後1991年に追加3書体(太ミンA101、太ゴB101、じゅん101)を開発し、モリサ ワの基本5書体がRIPやプリンタに搭載されるようになった。これがポストスクリプト基 本5書体といわれるもので、ポストスクリプト・プリンタやタイプセッタのRIPにバンド ル(標準搭載)されるようになった。
これがいわゆる純正ポストスクリプト・フォントである。この5書体のフォントは、し ばらくの間パッケージフォントとして市場で一般販売されなかった。つまりハードウェア とフォントを一体で購入する必要があった。
後年になってパッケージフォントとして販売されるようになったが、出力解像度により 販売価格を別にするという戦略をとった。つまり当初のポストスクリプト・フォントは低 解像度版、高解像度版に分けて販売されていた。しかも高解像度版は1書体約30万円弱と いう高額であった。
●はたしてフォントの値段は高いか安いか
多くのDTPユーザーはこの価格に対して不満を抱いたが、フォントベンダーは強気の姿
勢を崩さなかった。フォントメーカーのモリサワとしては、製品を造る側の原理に立って
開発に要したエネルギーやコストを考えれば、当然な結果ともいえるであろう。
フォントの価格が安いか高いかは、使う側の価値観に大きく左右される。つまり印刷物 制作にフォントを使って商売にしている場合と、単に文書作成に必要な場合とでは価値観 が異なる。
しかも書体デザインは工芸であるし、後加工はアナログでもデジタルでも製造作業であ る。関係者以外には理解できないことであろう。したがって書体に対する価値観は、あた かも写植の文字盤を購入するのと同様な理屈である。そして当時のメイン文字盤は20〜30 万円ほどであった。
低解像度版フォントとは600dpi以下の普通紙プリンタ用で、高解像度版とは1201dpi 以上のフィルム出力のタイプセッタに使われるものをいう。したがって中間の解像度601 〜1200dpiのプリンタでは使えないし、またそのようなプリンタは存在していない。
しかし当時の市場のモノクロプリンタは解像度300〜400dpiが主流で、グラフィックア ーツ業界では校正ゲラ用に使っていた。この程度のプリンタでは、いくらアウトラインフ ォントとはいえ、印刷物には使えないからだ。
しかしプリンタ技術の進歩は早く、解像度は年々向上してきた。まず解像度600dpiプリ ンタが登場し、そして700dpiや1200dpiなどのプリンタが、しかもカラープリンタが登場 するようになった。
その結果600dpiのプリンタ品質は、モノクロの文字印刷では印刷に遜色ないくらいに進 歩していた。そこでフォントベンダーは市場対応策として、601〜1200dpiプリンタ対応の 中低解像度版と称するパッケージを販売せざるを得なくなった。
他のフォントベンダー(ポストスクリプト・クローンメーカー)も例外を除いて、モリ サワのフォント価格に照準を合わせ、若干低価格にパッケージ価格を設定した。つまりモ リサワのポストスクリプト・フォントのパッケージ価格が、市場のプライスリーダー役を 担ったことになる。
「ポストスクリプト・クローン」とは、ポストスクリプトの機能を模倣した互換製品を いい、第三者のメーカーが開発したポストスクリプトRIPやフォントに対していう。現在 ほとんどのポストスクリプト・フォントメーカーは、クローンメーカーといえる。またRIP でいえば、ハーレークイーンRIPがクローンといえる。
クローンメーカーの先駆者としてはNIS(日本情報科学)、フォントワークス、エヌフォ ーメディアなどの名が挙げられるが、当初アドビ社はポストスクリプトの仕様を公開して いなかったため、苦労してポストスクリプト・フォントを開発していた(つづく)。
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2002/07/16 00:00:00