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時代が示す、DTPから先の道

アメリカのフロリダ州オーランドで6月22日〜25日に行われた新聞制作展 nexpo2002 報告3。
景気後退の中での展示会であったために出展社は過去最低になり、人出も最低規模であった。しかもDTPというのは何年か前のInDesignの登場以降の変化はなく、一見すると何が新たな展示であるか、見分けるのに苦労するようになっている。パッケージソフトとして出てくるのはプレフライトチェックのようなものだけで、しかもそういった新たなソフトの殆どは非アメリカ製なのである。あとはシステムインテグレータがシステム構築を行ってソリューションを提供するようなものばかりで、なかなか内容が言い表しにくい。

日本でもDTPの改善の話になると、「ワークフロー」云々の問題になるが、これは何か決まったパターンがあるわけではなく、結局利用者側の諸条件に左右される話である。データベースで集中管理するのがいいか、分散的にデータを置くのがいいか、先に部分部分を完成させてからページをまとめるのがいいか、まとめてから部分を変更できるのがいいか、などなど一般論ではかたずかないが、実際には「私のところはどうすればいいのでしょう」的な視点の利用者が多い。

今のシステムインテグレータが問題にしていることは、もっと視点の異なるフレームワークの提案になっていて、「Adobeも、Quarkも勝てない、新聞システム」でも述べたように、制作システム全体を構造化しておいて、まず誰が何をいつまでにするか、という入力を最初にして「管理ありき」で作業をスタートするトップダウンのシステムである。これはDTP開発の経緯をふりかえってもわかる。

QuarkXPressが出版分野で広まったのは、XTentionによって既存の編集システムと接続して使えたからである。一つの紙面に多くの著者や編集者が関与している場合は、みんながXPressのレイアウト画面に殺到して修正していたのでは話にならないので、テキスト編集の協同作業をXPressから切り離して、XPressではテンプレートやグラフィックスを用意して、そこに対してテキストは自動流し込みが出来るようにした。しかしテキストの行数調整や字切り(改行)はXPressの組版結果を見ないとわからないので、XPressと連動したCopyDeskという編集ソフトをQuarkは出すようになった。つまりレイアウトと編集の密な結合ができた。

AdobeInDesignの場合も全く同じで、連動するInCopyというテキスト編集ソフトが作られた。ただ、これはInDesignそのものが伝統的組版とプログラムのモジュール性という革新的機能を合わせ持っているように、InCopyもXyWrite風伝統的テキスト編集とXMLサポートによる革新的機能を持たせて、Quarkに戦いを挑もうとしている。両者がやっているレイアウトと編集の密な結合は、ワークフローの改善に結びつく。

QuarkのCopyDeskは、QPSという制作進行管理のシステムで真価を発揮する。QPSはどのページは誰が制作していてどこまで進んでいるかがリアルタイムにわかるグループウェア的システムであり、中規模以上の出版には必須の管理機能である。つまりQuarkは次にQPSという管理システムとDTPを密に結合させて、ワークフローをさらに改善させた。次にQuarkは素材管理のQDMSを開発し、出版素材の再利用とかクロスメディア展開を容易にした。これはDTPとDAMの密結合であり、ワークフローの改善の第3ステップである。

ところがAdobeはこのようなデータの蓄積・管理の分野には進出していない。AdobeInDesign-InCopyを使ったシステムでは、サードパーティのインテグレータがQPSに相当する進行管理グループウェアやQDMSに相当するDAMを提供している。新聞の場合の典型はDTIであり、現在破竹の勢いのCCIヨーロッパ、Harris/Baseview、欧Unisys、APT、Net-linxなどなど新聞上流インテグレータの主立ったところを巻き込んでいる、というか主立ったところにAdobeInDesign-InCopyを採用してもらっている。

つまり進行管理・素材管理というのはQuarkでなければできないものでもなく、むしろそれをするための道具立ては、既存のパソコン環境の中にある時代になったのである。Macがプラットフォームの主流であった時代は本格的SQLデータベースとかXMLサポートは特別の技術であったかもしれないが、Windows and/or インターネットの時代では、DTPとSQLやXMLを結合させることは当然の成り行きになったのである。AdobeはInCopy2.0でXMLにネイティブに対応し、またAdobeの他のソフトもXMP=eXtensibleMetadataPlatform対応として、Adobe自身が直接手出しすることなく、Quarkが展開してきたQPSやQDMSなどワークフローの進化に対決できるようにしている。

確かに後発のAdobeの方が時代に合った戦略に思えるが、まだ現実にはQuarkベースの既存のユーザを突き崩すところまでは至っておらず、上記のCCI、Harris/Baseview、Unisys、APT、Net-linx、その他もInDesign-InCopyに対応するとともに、従来のXPress-CopyDeskのクライアントにも対応するという玉虫色のソリューションを提供している。このような中でノウハウを蓄積してくるのは、AdobeでもQuarkでもなく、システムインテグレータなのである。DTIやCCIが強くなったのも、アメリカの多くのインテグレータがQuarkの攻撃の前に弱って企業売買を繰り返していた中でも、DTIやCCIはQuarkに左右されず、顧客密着型でこつこつと今日の管理システムを構築してきたからである。

ではサードパーティーのインテグレータの間での競争はどうなるのか? 基本は従来の顧客密着型のニッチであり、InDesign-InCopy派のDTIはデータベースによるデータの一元管理とコンパクトですっきりしたシステムが特徴で、XPress-CopyDesk派のBrainworks(元MycroTek)は広告システムとの密結合、やはりXPress-CopyDesk派でオランダの新興勢力であるSaxotechはクロスメディア展開に強いとか、両刀使いのAPTは新聞関連全システムのセンター管理に強いなど、それぞれの従来からのカラーが出て多様化している。

ただ新聞の経営環境は急速に厳しくなってきたようでもあり、従来のようなお大尽的な統合システムを作っている余裕はなくなって、如何に簡素に上記のようなシステムをまとめるか、というのが実際の競争になるのではないかと思われる。

2002/07/17 00:00:00


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