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2002-2003機材インデックス 製版

CTPワークフローの動向

CTPワークフローとは,DTPで作成されたデジタルデータを迅速,確実かつ直前の直し等に柔軟に対応しつつCTPに出力するための一連の処理の流れであり,ベンダー各社からさまざまなシステム提案がなされてきた。ワークフローRIPという呼び方もあるようにRIPを中心にしたシステムで,システムがカバーするのは,フチ処理,トラッピング,面付けなどの製版処理であり,ホットフォルダ等を利用して自動処理を行うものもある。

これらの製版処理は中間ファイルと呼ばれるメーカー独自のファイル形式に対して行われることが多い。各種の中間ファイルはPostScriptのRIP処理の段階,すなわちインタープリット,レンダリング,スクリーニングのどの段階まで処理が進んだデータかで分類することができる。

サイテックス(現クレオ)のCT/LW,ハイデルベルグのDelta ListをはじめCEPS系のベンダーの中間ファイルは,レンダリング後のものが多く,ベンダー間での互換性に乏しいという欠点があった。

PDFは,PostScriptよりも出力時のデータの信頼性が高くかつ特定のベンダーに依存しないオープンなフォーマットとして,中間ファイルの互換性の低さを補うものとして大いに期待されているが,日本ではフォントエンベッドの制限があった(現在は解消)ことと中間ファイルにPDFを採用していてもメーカー独自の仕様が付加されているようなことがあり,印刷用出力データとしてオープンにやりとりするまでには至っていない。

そこで,CTP出力から印刷までを協力会社に依頼するような場合に1bitTIFFデータを用いるケースが増えてきている。1bitTIFFとは,前述のRIP処理の段階でいうと最終のスクリーニング処理まで終わった網点化されたデータである。RIP処理が完全に終わっているので,非常に安定した信頼できるデータであるうえ,データを受け取った側はRIP処理が不要な分,プレートセッタの出力能力をフルに活かせるという利点がある。弱点としてはファイルサイズが大きくなる,再編集がしにくい,CMYKの分版ごとに1ファイルとなるのでハンドリングが煩わしいといったことがあるが,1bitTIFF用の便利なツールがいくつも登場している。

データ圧縮ツールとしては,シンボリック・コントロール社の「cubic-D」がある。1bitTIFF専用のデータ圧縮・伸張ハードウェアで,1bitデータを平均20分の1に圧縮し,ネットワーク上の指定されたIPアドレスのcubic-Dに自動的にデータを転送し,受け取ったcubic-Dは自動的にデータ伸張を行い,さらに決められた場所,例えばCTPコントローラへデータ転送する。

ジーティービーからは,BitThroughシリーズとして,殖版,大貼り作業用ツールのPlatePlanner,文字修正やブロック差し替えなどを行うStripEditor,分版された1bitTIFFをデスクリーニングして,プリンタから出力可能なコンポジットのTIFFファイルを作成するProofMaker,ドットゲイン補正を行うDotAdjusterなどの各種ツールが出ている。

1bitTIFFデータの入出力をサポートするRIPシステムは多いが,システムのベースとしてはAdobe社のExtreme技術を基盤にしたPDFワークフローへと移行しつつある。
PDFをベースとしたシステムにはハイデルベルグのMetaDimention,クレオのPrinergy,富士フイルムのCelebraNT Extreme,アグフアのApogee等があり,大日本スクリーンのTrueFlowも2.0からネイティブのPDF1.4対応を今春のIPEX2002で発表していた。

また,PDFをシステムの内部フォーマットとして利用するのではなく,入稿データとして活用しようという動きがある。Enfocus社のCertifiedPDFは,PDFデータの信頼性を保証するために,保証書のようなものをプロファイルとして埋め込んだPDFである。制作側で,印刷原稿として問題ないPDF,いわゆるPrintReadyPDFを作成し,その設定等をプロファイルとして添付し,出力側のシステムは受け取ったPDFのプロファイルを読み込んで自動的に最適な処理を行い出力するというようなワークフローとなる。このプロファイルは,PDFを使ってリモートで校正のやりとりをするときにも利用することができる。

Enfocus社はこの技術を多くのメーカーにOEM提供しており,日本では,メディアテクノロジーカンパニーから「Trueflow PDF Polisher Pro」という製品が提供されている。

今後の動向が見逃せないJDF/CIP4

デジタル化による工程の統合が進み,プリプレスから印刷機までネットワークを介して,双方向で情報が行き交う姿が思い描けるようになってきた。ワークフローという言葉が盛んに使われているように,個々の機器の機能向上よりも,プロセスとプロセスをいかにミスやロスなく結んでいくかが焦点となりつつある。

デジタルデータとネットワークを前提に,ワークフローの自動化を考えたときに,まず必要となるのが,メーカーを問わないオープンな環境で作業指示情報等をやりとりできる標準フォーマットである。まず,はじめに工程間の情報交換のための標準,規格を整理しておくと,CIP4(International Cooperation for Integration of Processes in Prepress, Press and Postpress)で採用されているのが,PPF(Print Production Format)である。PPFにはインキプリセットのためのプレビュー画像,レジスターマーク,色・濃度・ドットゲインの目標値と許容誤差,裁ちと折りの情報,後加工の丁合,綴じ,仕上げ裁ちの情報を含めることができる。

PJTF(Portable Job Ticket Format)は,PDFベースのワークフローにおいて,面付けやトラッピング,出力処理といったプリプレスの細かな作業の手続きを記述できる。
JDF(Job Definition Format)は,プリプレスからポストプレスまでをカバーするCIP3と,制作からプリプレスまでをカバーするPJTFを包含し,さらにデリバリーの工程までをもカバーするものである。JDFはCIP3の標準フォーマットとして採用されることが決定し,これを機にCIP3はCIP4へと名称が変わっている(http://www.cip4.org/)。

JDFの特徴は,プリプレスからプレスといった横方向への工程統合を目指すだけでなく,受発注・顧客・経営管理情報等のビジネスマネジメントや生産計画や管理等のプロダクションマネジメントという縦方向への統合も視野に入れていることである。この縦方向への展開はなかなか具体的な姿をイメージするのが難しいが,プリプレスや印刷の生産システムと販売管理や工程管理といった基幹系の業務システムとがリアルタイムにオンラインで情報を共有する状態を考えればよいだろう。JDFがXMLをベースとしているのは,こうした基幹系システムとの情報のやりとりが考慮されているからである。

また,XMLはWebとの親和性が高いので,eCommerceなどへの展開も可能である。電子商取引用のXML規格であるcXMLを印刷業界に向けに拡張したPrintTalkというXML規格がすでに存在しており,JDFとPrintTalkを合わせて利用すれば,印刷発注者,印刷業者,印刷物納品業者との間で,発注から納品まで自動処理することも理屈の上では可能である。
現時点ではJDFに対応した製品は少なく,個々の機器,システムが断片的にサポートしている段階であり,特に日本ではユーザがJDFの本来のメリットを実感できるまでには至っていない。

日本で利用できるものとしては,HP社から2002年秋にJDFを利用したJobチケット付きのPDFファイルを作成できるHPリモートプルーフィングソフトウェアが提供される予定となっている。同社のインクジェットプリンタdesignjet10ps・20ps・50psと組み合わせてリモートプルーフを実現する。いずれにせよ今後1,2年の間にJDF対応製品・システムは急速に増えてくるだろう。

IPEX2002では数多くのベンダーがJDFへの取り組みを表明していた。ハイデルベルグは,プリプレスからポストプレスまで一社で全工程の製品を揃えており,それらをシームレスに接続するワークフローコンセプト「Prinect」を打ち出していた。今回,コスト管理や受注管理を行うMIS(経営情報システム)ソフトウェアのPrinanceを出展し,JDF/CIP4のワークフローを構成するパーツが一通り揃ったことになる。

JDF/CIP4は,特定のメーカーに依存しないというのが大きな特徴であり,多様なメーカー間でのオープンなシステム構築という意味では「PrintCity」の試みがある。PrintCityは製品の名前ではなくコンセプトの名称であり,ドイツの印刷機メーカーのマンローランドとアグフアが中心となり賛同メーカーを募って組織化もされている(http://www.printcity.de)。IPEXでは,異なるメーカーのフロントシステムと印刷機,後加工機を接続し,それらを工程管理システムと連動させるといったデモンストレーションを行っていた。

クレオはPrintCafeというWebベースでの印刷のサプライチェーンを目指すソフトウェア開発ベンダに出資し連携を強めている。両社ともJDFサポートの姿勢を強く打ち出している。
また,クレオは,Networked Graphic Productionというコンセプトを提唱している。これは,デザインワークから校正作業,プリプレス,印刷,後加工,配送までの製作ワークフローと見積もりから受注管理,工程管理,出荷,請求処理というビジネスシステムとをリンクさせて自動処理を行うというもので,印刷発注者とのコミュニケーションはWebのポータルサイトを利用する。

Synapse Prepareは,PrintReadyPDFを作成するソフトである。Synapse InSiteはインターネットのポータルサイトとなるソフトウェアでSynapse Prepareで作成したPDFファイルをポータルサイトでアップロードすると,クレオ社のRIPシステムのBrisqueやPrinergyに送られ,トラッピング,カラーマネジメント,面付け等の処理が自動的に行われる。印刷発注者は処理の終わったファイルをポータルサイトで瞬時に確認(リモートプルーフ)することができる。

IPEX2002ではSynapse Linkという新しいソフトを発表した。これはプリプレスのワークフローシステムとMIS(情報管理システム)とのリンクを行うもので,情報のやりとりにはJMF(Job Messaging Format)というJDFの要素の一つを用いる。PrintCafeのHagen OAというMISシステムとの接続デモを行っていた。

デジタル化,ネットワーク化による工程統合・工程圧縮と自動化の流れは着実に進んでおり,製版工程は,ワークフローシステムの中の処理プログラムの部品として取り込まれつつある。

■出典:JAGAT 発行「2002-2003 機材インデックス」工程別・印刷関連優秀機材総覧

2002/08/17 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会