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デジ放談♪番外編/Ayaの返信(2)〜良い組版とは〜

前田@ライン・ラボ 氏への手紙の続き!)

次に,「良い組版とはなにか」についての議論や根拠となる情報が,もっとオープンに流通するべきではないかということ。その点で,前田様をはじめ,実践的なプロの組み手である方々の近年のお仕事はもっと広範に評価・参照されるべきだと思いますし,今後ますますご研究が発展することを期待しています。

また,それがさらに咀嚼された形で,末端のユーザーにまで到達する必要も大いにあるでしょう。それでこそ,ソフトウェアの機能の存在を明確に認識し,批評の目を持つことができるからです。そのためには私のような編集者が努力すべきであるし,誤解を恐れずに言えば,玉石混淆であろうとも大量の情報をまずは流通させることだと考えます。

 安っぽい,誤りの多い情報は無い方がマシでしょうか? 巷に流通する,それこそ玉石混淆のデザイン指南書やDTPアプリケーションのTIPS集と,それを手に取りその周辺で「仕事」をする人の数を考えたとき,私は,情報の正しさだけでなく多さも,過渡的に必要なことではないかと思うのです。その意味では,JIS X 4051が,組版の本質にとって未完成の状態であろうとも,一般に公開されていることの意味は大きいし,現状が不完全であるという明確な留保をつけた上で,もっと言及されることがあって良いように思います。

もっとも,組版ルールはドキュメント一冊を包括的に扱うものであるという立場からは,許容しがたいことに思われるのかもしれませんが……。しかし末端ユーザーにとっては,明確な根拠をもった留保もまた重要な「情報」だろうと思います。自分自身で情報を集め,考察を加える努力が足りないと言われればそれまでなのですが,みんな「忙しい」のも事実なのです。

 まして,「開放」が進むほど「忙しい」人が増えるであろうことは想像に難くありません。そのとき,ソフトウェアのデフォルトを利用することが「ひとつの選択肢である」ことを意識するかしないかで,自由であるかどうかが大きく変わってくるような気がします。

 組版は言語と同じく,伝えることと伝わらないこと,伝わりにくく伝えること,……などのあわいに存在するものであることは,私も同感です。そこで前田様のおっしゃる【コミュニケーションへの意欲をかりたてるものがよい組版】という仮説には,大きく目を開かれたような気がします。

 日本語組版の豊かさと混乱が紙一重,いや,一枚の紙の裏表であることは,今後の変化にとって有益でもあり有害でもあることでしょう。でも,可能性は無いよりは有るほうが楽しいものだと思います。

いずれにせよ,【後の時代からふりかえってみれば,現在は表記法から文字組版にいたるさまざまな習慣が一変するような転換の時代と位置づけられる可能性が大きいのではないでしょうか】とされる前田様のご意見にはまったく頷かされます。その中で自分が果たすべき役割,自分が利用すべき組版手段については,まだ考えがまとまらない──むしろ,まとまる間もないうちに変化と日々付き合い,折り合いをつけたり距離を測ったりしていくことになるのではないかと思うのですが,まずは,自分の選択を常に明文化しようと心がけること,自覚的であることを第一歩としたいと思います。何しろ,私の立場は,今後ますます【組むことへの関与が多かれ少なかれ期待される】ものそのものであるようだからです。

 末尾になりましたが,若輩の無知に拠る疑問の数々に対し,真摯なリプライを下さったことを重ねて感謝申し上げます。また,このような機会を設けて下さった編集部の皆様にも御礼を申し上げます。せっかくいただいたリプライに対して,じっくりと勉強をすることなく,浅薄なリプライをお返しすることをご容赦下さい。本格的なリプライは,いずれ私の仕事の中でお返しできる日がくるように努力します。

前田様のお仕事が今後ますますご発展されることをお祈り申し上げます。
Aya 拝





*編集部よりお知らせ
日本規格協会のサイトにて、JIS X 4051 改正素案「日本語文書の組版方法」の公開レビューが始まりました。素案に対する意見も募集しています。

http://www.jsa.or.jp/domestic/instac/review/4051review.htm

*-*-*-* プロフィール *-*-*-*

●Aya: 大学在学中,デザイン事務所の月給取りと学生の二足の草鞋をはき,DTPオペレーション技術を修得。卒業後大学の先輩と編集プロダクションを起こし,その後フリー編集者/ライターに。クラフト誌,DTP関連雑誌等の執筆,編集を手がける。一貫した零細エンドユーザー指向?は,趣味の海外旅行を続けるためとか。最近は手製本教室に夢中。DTPエキスパート。神戸生まれの京都育ち。乙女座,O型。

●前田@ライン・ラボ: 

MIE®

 写植,DTPによる組版をへて現在は多言語処理や自動処理組版などを中心に プリプレス分野でのディレクター業のかたわら東亜文字処理ライン・ラボの ページ http://www.linelabo.com/ を運営。 1974−75年『労務者渡世』編集委員会代表,1996−98年日本語の文字と組版を考える会世話人,1996−99年日本規格協会電子文書処理システム標準化調査研究委員会WG2委員, 2001年−句読点研究会世話人。藤山直美と同じ山羊座の大阪生まれ。A型。



*-*-*-* デジ放談♪ バックナンバー *-*-*-*

2002年3月6日UP!その1(プレ放談)
2002年3月20日UP!その2
2002年4月10日UP!その3
2002年4月21日UP!その4
2002年5月9日UP!その5
2002年5月25日UP!その6
2002年6月6日UP!その7
2002年6月23日UP!番外編/Ayaの往信(1)
2002年7月5日UP!番外編/Ayaの往信(2)
2002年7月18日UP!番外編/前田@ライン・ラボからの返信(1)
2002年7月30日UP!番外編/前田@ライン・ラボからの返信(2)
2002年8月13日UP!番外編/前田@ライン・ラボからの返信(追伸)
2002年8月16日UP!番外編/Ayaの返信(1)

MIE®


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2002/08/26 00:00:00


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